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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー旅行記
38/73

口論、即ち災い

「ヌエさん、ちょっといいかな?」

「なんでしょう?」

苦も無く荷馬車を引くヌエの姿はその体躯も相成ってかなり迫力がある。

そんなヌエの左腕に巻かれた武器を知りたくなったエリスが声をかけたのだ。

「その武器?なんですが」

「ああ、ジャバウォックですな」

「じゃば?」

聞きなれない単語、それが武器の名前なんだろうと思う。

「これは拙者が鋼魔の鍛冶屋に無理を言って作ってもらったものでして」

分類は棍。連接棍・ジャバウォック。

直径66ミリ長さ10センチの鉄筒が連なった形で全長は220センチ、中に鋼糸が仕込まれており、糸を引く事で棍となり、緩める事で鞭となる。

変幻自在なその形状から放たれる攻撃は、様々な戦模様を描いてくれる。

剛と柔を備えた大蛇のような武器。

ヌエの家は妖魔領と爬魔領の境目に在り、爬魔でメジャーな鞭術と、妖魔河童族の三又槍術を習っていた。

その結果、双方を取り入れた武器を使いたいという無茶振りに答えられた武器がこの形となったのだ。

「初めてこの武器を握った時、それはもう感動いたし申した。なんと言ってもこの握りに加えられた対になった蛇の紋章が素晴らしくてですな、これを入れた鋼魔の親父には感謝すると同時に、」

「キュウさん、わたしこれ聞かない方が良かったんですかね」

「俺は知らん、馬車の上で寝てるから、まぁ、ガンバレ」

「そんなー・・・」

「この武器で初めて魔物と相対した時、棍で振るう感触がなんとも心地よくてですな、さらに鞭の形状で追い打ちをかけ、」

その後の道中、2時間かけて武器の話を永遠と聞かされる羽目になるエリス。話を聞いていて分かったが、自分の力を過信する事は無いが、武器や共に戦った仲間に関してはそれはもう雄弁に語ってくれる。

仲間に甘く、自分に厳しいと言えば良いか。

始めはどうしようかと戸惑っていたエリスだったが、途中からは自分の知らない旅の物語に興味が湧き、割と楽しんで話していた。


その後3日をかけて目的の街に到着した一行は、またも身勝手な荷主の横暴に困惑する事となった。

「だから、荷物を守れなかったあんたに護衛費を払えっていうのがおかしいだろう!」

「全てではないがここまで運んだのだ、それで賃金を払わないというのは理に反するのではないか?」

「だから、その失った荷があんたの賃金だよ!」

まるで話しにならない。

確かに、護衛という任務を完遂することはできなかったが、それでも全ての荷を失わずにすんだのはヌエだったからだ。

それも分からずに自分の利益だけを追求する荷主の姿はあまりにも醜かった。

「キュウさん、これじゃあまりにも」

「ヌエには興味があるが、そこまで義理立てしてやる気は無い。なによりめんどくさい」

「そんな・・・。あっ、キュウさん?夏蜜柑っていうの食べましたよね?」

「なんだとつぜ・・・。お前まさか!?」

口元を手で押さえ、にやにやと笑うエリス。まさかこんな形で上げ足を取られると思っていなかったキュウは愕然とする。

失った荷がヌエの賃金になるのだとしたら、それを食べたエリスとキュウはヌエの賃金を盗んだ事になる。その事をこの場で持ち出せばこの荷主は鬼の首でも取ったように嬉々として罪を擦り付けてくるだろう、悪知恵だけは回りそうな顔をしている。

そうなったら、それこそ面倒臭い事態になる。

「想像力の欠如だな・・・」

溜息交じりについた悪態だったが、少しだけエリスの成長を嬉しく思うキュウだった。


「荷主、さん」

「・・・なんだ?あんたもなんか用があるのか」

露骨に嫌そうな顔をするが、今エリスの肩に乗っているのはどんな状況でも言葉で全てをひっくり返してしまう、悪魔だ。

「ここで賃金を払わないというのも良いでしょうが、そうすると帰りは一人で帰り事になる、です」

「はぁ?何言ってんだ?」

「人魔の人がこの妖魔領でどれほどの人員を確保できるか知らないが、ですが。この後この街中の商人に、人魔の商人には気をつけろと言って回りますよ?」

「はっ!だったらどうなるって言うんだよ、ヴァ・・・、お前みたいな奴の言う事なんか誰が信じるんだよ」

つい言いかけた言葉を飲み込む、さすがにこの場所でヌエを怒らせる事はしたくないようだ。とは言え、すでにヌエの目尻の下にある逆鱗が震えているのだが。

因みに、爬魔族の感情は分かりやすい。顔のどこかにある逆鱗、そこだけは爬魔族共通の弱点であり、感情が読み取れる場所でもある。

「わたしの言う事は信じなくても、雇われていたヌエさんの言う事なら信じるだでしょう?」

臆することなくキュウの言葉を紡いでいく。復唱にも慣れてきたが、まだ少し詰まりそうになる。

「うるせぇな!何が言いたいんだよ!」

荷馬車に手を打ちつける衝撃音、荷主は怒りで我を忘れ、すでに回りは見えていない。

「賃金を払わないような奴、人の護衛を引きうけてくれるような方は普通居ないと思うますが?」

「バカが!護衛くらいにしか使えない奴は山のように居るんだよ、使われたい奴なんて選ぶほどな!」

ツマラナイ勝ちだ。キュウは自分の勝利を確信すると、エリスに最後の指示を出す。

「身体をずらして街中が良く見えるようにしてやれ、ヌエも一緒にな」

「ヌエさん、少しよけてもらって良いですか?」

「ぬ?相分かった」

二人して荷主の視界を広げてやると、そこには少しばかりの人垣ができていた。

巨大な爬魔族の女性、黒い魔物を従えた白い女性。そこに居るだけで目立つ存在が大きな声で言い合いをしているのだ、目立たないわけがない。

「すでに手遅れだと思いますが、今あなたの言った事は全て聞かれていますよ。言い触らすまでもなかったなです」

「あっ、いや、これは」

荷主に人々の視線が突き刺さる。商人とは信用が第一だ、たとえどんな時代であろうと、どんな世界であろうと変わる事は無い。

「あの商人、前から評判悪かったよな?」

「商人なのにお金払わないの?」

「あの商人から買い物をするのは止めておこう」

こちらを遠巻きに見る人々、歩き去る人、様々な人が商人を軽蔑する。

ここで商人が取るべき行動はただ一つ、評判と信頼の回復だ。

「く、くそっ!俺は知らん!」

だが、この商人はその場から逃げるように走り去ってしまった。元々そんな判断ができるような者であれば、このような状況になってはいないだろうが。

「皆さん、お騒がせして申し訳ありません。結局賃金は頂けなかったみたいです」

てれ隠しのようなはにかみの笑顔。元々黒色信仰の薄い妖魔領という事もあって、その笑顔は人々に受け入れられたようだ。

街の人々は口々に少女を褒める。

「いいぞー!じょーちゃん!」

「かわいい!後でうちの店に来てよね!」

「カッコよかったぞ!」

つい嬉しくて涙が出そうになる。人に認められる事がこんなにも嬉しい事だなんて、ほんの数年前まで知る事は無かったのに。

それもこれも、全てキュウという存在に出会ったから。

「ありがとうです、キュウさん」

エリスの肩に乗る黒猫の頭を撫でながら呟いた。

「俺は夏蜜柑分の働きをしただけだ、もちろんお前もな」

エリスの気持ちを分かっているくせに、つまらない嘘をつくキュウに、呆れ笑いが出る。

「ふふっ、それでも、ありがとうです」


このままだと戦う前に商人として目覚めそう・・・。

そうはさせませんけどね。


連接棍・ジャバウォック。ついにファンタジー武器の登場です!武器好きとしてはこういうのも書きたかったのです。

お手元にあるビールの缶を20個ほど積み上げてください。それが連接棍です。

絵が書ければ説明しやすいんですが、何分絵心が無くて・・・。

だから文字書いてるんですけどね。


感想。おまちしてます。

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