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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー旅行記
37/73

大蛇、即ち轟

氷の要塞に守られた荷馬車に近付く事ができず、群れの8割を殺されたハウィンドは、突然現れた白い獣魔を一瞥すると、森の中へ逃げて行った。

青く輝く氷は砕けるように消えていき、その場には致命傷を負った無残な死体だけが残された。

「エリス、数匹息がある。・・・解るな?」

「・・・はい」

一呼吸。息を吐くとエリスの手に氷の刃が握られていた。

それを息のあるハウィンドに突き立てていく。

心臓と固有魔力を同時に散らし、物言わぬ肉塊と化していく魔物。

全てが終わると、両手を合わせ静かに黙祷した。


「旅の御方か?なにわともあれ助かり申した」

「いえ、無事でな・・・」

背後からかけられた声に振り向くと、そこに巨人が居た。

身長2メートルを超える巨大な体躯、しかもよく見ると、胸に大きな塊が二つ。

赤銅色しゃくどういろ代赭色たいしゃいろの入り混じった長い髪は首から下だけがドレッドロックスのように纏められ、網目二色のような色彩になっている。

褐色の皮膚は光に照らされて所々光沢を放ち、凛々しくも優しい目と、爬魔族の特徴である目尻の下にある三対の逆鱗。

「どうなされた?」

「ひゃっ!す、すみません、大きかったのでちょっとびっくりして」

「ハッハッ!お気になされるな、よく言われ申す」

豪快に笑う爬魔の女性、本当に女性なのかすら分からなくなるほどの豪傑。けれど、エリスには無い立派な物を持っている。

「わたしはエリス・フェン・ドウジと言います、旅の途中で川から流れてきた果物が気になって、下流から辿ってきたのですが」

「申し遅れました、拙者ヌエイラト・ヨル・オロチと申します。長い故、気軽にヌエと御呼び頂きたい」

そう言って頭を下げたヌエ、必然的に胸部がエリスの眼前に現れるのだが、その視線に気付いたヌエが一言付け加えた。

「因みに、これでも拙者は女です」

「あー・・・、いえっ!?こちらこそ失礼しました!?」

気に障ってしまったかと思い、必死に謝るエリスだったが、当の本人は慣れているのか、気にする風でもなくまた豪快に笑うのだった。


「二人して話してるとこ悪いんだけどよ、この状況どうすんだよ?」

「ぬ、そうであった」

不機嫌そうな人魔族の旅商人。

荷馬車の右側面は大きく破壊され、前輪がねじ曲がっている。これでは普通に走る事はできないだろう。

因みに、この世界の馬車は駒と呼ばれる魔術道具に引かれている。

対になった歯車のような車輪を回し、歯車で力を伝達させ荷物を運ぶのだ。

馬車と言うより近代の車の構造に似通っている部分もある。

この技術は全て鋼魔族からもたらされている、魔国で使われている機工のほぼ全てを生みだしているなのだが、当の鋼魔族は自領地以外で見かける事はほぼない。

馬車が動かせない以上、荷物を捨てて徒歩で次の街に向かうか、ここで別の馬車が来るまで待つかだが、後者は在り得ない。魔物の血は新たな魔物を呼ぶ。

「荷主よ、ここは諦めるしか・・・」

「ざっけんなよ!?人魔領の果物が一体いくらすると思ってるんだ!お前に払う報酬も無いからな!」

「それは困り申す・・・」

どうやらヌエはこの荷馬車の護衛として雇われたようだ、馬車の旅で人魔領からここ妖魔領まで、かなりの日数が必要な事は確かだ。

少し不信に思ったキュウがエリスの口を借りる。

彼女以外にキュウの言葉が聴こえないのだから、言いたい事を肩代わりさせるのは仕方ない事だ。それがどんな結果を生むにせよ。

「エリス、復唱頼む」

「えっ?あ、はい」

怒鳴り散らす荷主に対して歩み寄るエリス。

「あの、ちょっといいですか?」

「あ?なんだよ、さっきのはあんたが勝手に助けたんだからな、こっちはビタ一文はらわねぇぞ」

エリスは感じ取っていた、人魔の荷主の態度がヌエよりも険しい事に。人魔は黒色信仰が最も普及している領地である、白い獣魔など、目の敵にされて当然。

けれど立ち止まらない、もうその程度で臆する事など彼女には在り得ないのだから。

「食料の運搬であれば魔物が寄ってくるなど解りきった事ではないのか?です、なのに護衛は一人、普通に考えれば荷に対してあまりにも無防備だと思うのだが?です」

ところどころ語尾がおかしいのは復唱している影響だ、言われた事をそのまま言っているだけなので少し言いずらい。

「はぁ?人魔領から爬魔族の旅だ、たかが護衛なんか大勢連れていけるかよ、そうなったら大赤字だ」

その言葉を鼻で笑う荷主、その態度より、考え無しの行商という無知に対して、珍しくエリスが不満を漏らす。

「大赤字・・・ですか?人を見て、物を選び、物を見て人を選ぶ。それが商売です。護衛は人を見る為の物を運ぶ大切な要因、それを軽んじるなど、商売人として恥を知りなさい!」

珍しく声を上げるエリスに一番驚いたのはキュウだった。そして彼女が怒る訳も知っている、妖魔族最大の商売激戦区と言ってもいいアビス参道街の雑貨商の娘だ、商売に関してはそこらへんの妖魔より詳しい。

先の言葉も、おじさんが一度だけ語った商売人としての心持だ。

「なっ!?・・・くそっ!ヴァイスが」

「っ喝!!」

「・・・!?」

空気が震えるほどの威喝、その声に動じなかったのはその場に居たキュウだけだ。

「荷主よ、助けて頂いた恩人に対しての暴言、許される事ではあるまい。今ここで撤回するのであれば目を瞑ろう、だが!」

手に持った一本の棒は節々に別れ、鞭のように地面を叩く。

叩かれた地面は抉れ、ひび割れる。荷馬車に被害が出るかもしれない状況では出せなかったヌエの本気。その力に荷主は腰を抜かす。

「ヒィ、わかった!撤回する!てっかいする!」

「・・・エリス殿、この度の非礼誠に申し訳ない」

「い、いえ。私は慣れてるので気にしないでください」

「なんと・・・、見事な大器ですな」


一先ずの落ち着きを取り戻した一行だったが、重要な事は何も進展していない。

しばらく口を閉ざしていたキュウがエリスに考えを話す。

「・・・ということだ。爬魔族ならあるいは」

「わかりました、ちょっと聞いてみます」

「どうかなされたか?」

ヌエはエリスが独り言を話しているように見えただろう、不思議そうな顔でエリスを見ていた。

「いえ、なんでも。それより提案があるのですが」

エリスが話し始めたキュウの想像。

ヌエほどの怪力であれば荷馬車を引く事ができるのではないか、次の街に行くまでの護衛はエリスが担当する。

どうせ宛の無い旅だ、少しの寄り道など気にするほどでもない。

「旅は道連れ、世は情け。だそうですよ」

「ハッハッ、いい言葉ですな」

こうして、エリスの寄り道が始まったのだった。


エリスの逆鱗。商売。

補足しておきますが、守銭奴ではないです。

あくまで礼節の範囲内での商売という意味です。


感想。おまちしてます。

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