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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー旅行記
36/73

出立、即ち別れ

季節は冬、12月に入り、ついにエリスの準備は整った。

今までボアを飼った僅かな路銀と、少しばかりの食料、そして一匹の黒猫。

「エリスちゃん、やっぱり行くのかい?」

アスラおばさんが寂しそうに呟いた。

「わがまま言ってごめんなさい。でも、これがわたしの夢だから」

おばさんも知っていた事だ、ドウジ夫妻が旅を生きがいにしていた事、その話を子供のころから聞かされて育ったエリスが、旅に出ると言う夢を抱いた事も。

「寂しくなったらいつでも帰ってこいよ、この街がエリスちゃんの家なんだからな」

おじさんはガラにもなく仁王立ちで毅然としていたが、その瞳には今にも溢れそうな涙が見えていた。

「おじさんも、わたしが居ないからってケンカしちゃだめですよ?」

その言葉を聞いて抑えきれなくなったのか、涙がこぼれないように空を見上げた。

一月前、旅に出たいと言った時の夫婦は、その言葉を知っていたような反応だった。

「いつかそんな日が来る、思っていたより遅かったくらいだ、だってお前はドウジの娘なのだから」

その言葉を聞いた時、心の底から温かくなるような、そんな気持ちになった。

種族は違えど本当の家族として暮していた、両親の言葉なのだから。

これ以上ここに居たら、せっかくの旅立ちが涙で見えなくなってしまう。

「いってきます!」

そう思ったエリスは、踵を返し、始めの一歩を踏み出す。

すこし震えてしまった声で、別れと旅立ちの挨拶を済ませる。

「「「いってらっしゃい!」」」

その言葉に、振り返る事ができなかった。

アスラ夫婦の声だけだはない、精肉屋のおやじさん、風呂屋のおばさん、向かいの店のお兄さん。この街でエリスを見守ってくれた全ての人が送り出してくれる。

「応えてやれ、それが。・・・礼だ」

肩に乗るキュウが、苦笑いのように呟いた。

せっかくのいい天気なのに、前の道は歪んでしまっている。

頬を伝う大粒の雫は、とても温かい。

振り返る事無く、震える声でもう一度答える、今は放てる最高の咆哮を持って礼を尽くす。

「いってぎまずっ!!」

エリスから放たれた咆哮は魔力を揺るがし、街に輝きを送る。

冷気を携えた魔力が白銀に輝き、一人の旅人の門出をより幻想的に魅せた。

走り出した少女は止まれない。たとえこの先に何があろうと、夢の先を見つけるまでは。


「うっ、うぅ。ぐっす・・・」

「いい加減泣きやんだらどうだ、そんなんじゃ体力持たないぞ」

街を出て30分、未だに涙の止まらないエリスを窘めるように言って聞かす。

「だって・・・、ぐす、だってぇ・・・」

「あぁうっとおしい。今生の別れでもあるまいし」

それだけ言うと肩から降りて一人で歩きだす。実際は鳴き声が耳についてうっとおしかっただけなのだ。

そこから落ち着きを取り戻すまで、さらに10分ほどかかったが、その頃には近くの小川に到着していた。

始めの全力疾走が凄かったのだ、のんびり歩いて3時間の距離を40分で走破するなど、この魔国においても驚くべき事案だろう。

それも一重にキュウの特訓の賜物と言うべきか。

涙でぐしゃぐしゃになった顔を川の水で洗い流すと、幾分マシになった。

「ふぅ、ここの水はいつ来ても気持ちいいです」

「ぬるま湯の温泉と同じだからな、風呂に入っているようなものだ」

「お風呂、ちょっと苦手なんです、頭がぼーっとしちゃうから」

「固有魔力と風呂の関係か、面白い研究ではあるな」

二人して噛み合わない会話をしながら一休みしていると、上流から何かが流れてきた。

ピンクや緑のエリスが見た事の無い木の実。その中にキュウのよく知る物も混じっていた。

「あれは!?夏蜜柑!なぜこんなところに?」

「なつみかん?というかこれなんです?」

流れてきた果物を拾い集め、キュウの近くに持っていく。その一つ一つを確認し、説明してくれる。

「この桃色のはモモだな、こっちの緑はブドウ。この黄色いのが夏蜜柑だ」

「もしかして、食べ物ですか?」

「川から流れてきたからと言って中に魔族の子供が入っていると思うか?」

「ありえないです」

冗談っぽくキュウが茶化す。猫の手と爪を器用に使って夏蜜柑の皮をむいていく。

中から白っぽい袋のようなものが出てくると、それを一口で食べてしまった。

「うーん。懐かしい味だ」

「わたしも・・・。んぐっ?すっぱい」

どうやらエリスの口には合わなかったようだ、正直そのまま食べておいしい訳ではない、続いて他の果物もエリスに食べさせる。

「モモとブドウは甘いはずだ、皮をむいて食べてみろ」

「皮、なるほど。こうやって食べるのですね」

まずはモモを一口、口に入れた瞬間エリスの顔が綻ぶ。

「あまーい!これ甘くておいしいですよ!」

続いてブドウ、緑なのは熟してないわけではなく、マスカットのような品種だからだろう。

「これも甘い!モモと違ってさわやかな甘さです!」

全世界もとい、全異世界共通で、女の子とは甘いものが好きな生き物なのだろうか。

キュウは今にも溶けそうなエリスの笑顔を観察しながらそんな事を考えていた。

「ん?今度は木片か、上流でなにかあったか?」

「行ってみます?」

めんどくさいから止めよう、と言おうとしてその言葉を止める。

この旅の主役はエリスなのだ、余計な事を言っては元も子もない。

旅の手助けはしても、腰を折るようなことはなるべく避けたい。

そう考えたキュウは、

「お前が決めろ、この旅はお前が決めた道で進むんだからな」

「・・・はい!」

それだけ返事をすると、エリスは汚れた手を川で洗い流し魔術で水滴を払うと、キュウを肩に乗せ駆け出す。

小川に沿って上流へ向かうと、そこには半壊した荷馬車と、無数の獣型魔物。その間に立ち塞がる巨漢の武人。

「ぬぅ、多勢に無勢か」

「くそ!せっかくの荷物が台無しだ!」

獣型の魔物はハウィンドと呼ばれる犬に鎧をかぶせた様な容姿で、群れで狩りをする習性を持つ。行商人や旅人が偶に襲われ、死亡者が出るなど、かなり危険視されている魔物の一つである。

風の固有魔力を持ち、互いの風を読み取って連携する様は、訓練された軍隊のようでもあった。

一匹が武人へ飛びかかると、打ち払うように棍を振るう。

その隙に別の二匹が荷馬車目掛けて飛びかかると、棍が節々に別れ鞭のように迎撃する。

だが浅い、武人は確かな戦闘技術を持っているようだが、十数匹からなる群れを一人で相手するには条件が悪すぎた。

荷馬車と言う大きな枷が、満足に戦わせてくれない。

ついにハウィンド達が一斉に飛びかかり、武人は窮地に立たされた。

「氷華乱舞」

武人と荷馬車を囲むように氷の刃が発生する。

咲誇る氷の花々はハウィンドの身体を貫き、他を寄せ付けぬ氷の要塞となる。

「なんと、美麗な」

武人はその魔法の美しさに見惚れ、荷馬車の上に立つ白銀の女性を見て、その美しさに感嘆を漏らした。


ついに旅に出る事ができました。

これからはお待ちかね(?)の無双状態です。

なにやら新キャラの予感。


感想。おまちしてます。

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