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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー旅行記
35/73

不穏、即ち噂

魔国総領主、ノア・ヴァン・グレイ。

人々は彼の者を畏怖を籠めて魔王と呼んだ。

灰の魔王、魔王グレイ、血染めの灰ブラッディグレイ

そんな数多の呼び名を持つ魔王は、数千年の時を生き、不滅であると言われていた。

「魔王幽閉か、想像通りならば、もうすぐ騒乱の幕開けだな」

情報の魔道具、ケンブン。板状の金属に浮かびあがる情報を読みながら、キュウは国の今後を想像していた。

神殿の扉が開かれ、そこから持ち出された魔道具によって、魔国は一種の魔学バブルのような状況に置かれていた。

今まで自分達が創り上げてきた魔術道具の何倍も優れた力を研究し、分かる範囲で活用していく。

特に難しい魔術式は今でも読み解けておらず、伝説術式エンシェントなどと呼ばれている。

キュウだけが知っている事だが、旧ウォレイ城と地下研究所に置いてある物は試験品だ。魔術道具のベータ版とでも言えば良いか。

本当に危険な物、魔術道具で一国を焼き払ってしまう物などは、全て地下ダンジョンに封印してある。

ダンジョンだけは未だに発見されてないようだが、それも時間の問題だ。

ただし、今の魔族では一層すら攻略できないだろうが。

「キュウさーん、今日の訓練終わりましたよー。つかれたー!」

「ん、お疲れ。で、なんで俺をモフるんだ?」

「んー、いやされるぅ」

「あいつもこんな気分だったんだろうか・・・」

エリスは今年で17になる。初めて少女に出会ってから3年、すっかり大人びた少女、もう女性と言って良いだろう。

身長は160センチ弱と言ったところか、白銀の髪は腰まで届き、ほど良く筋肉の付いた細身の身体を流れ落ちる。

最近のお気に入りはキュウをモフモフすることらしく、事あるごとに全身をわしゃわしゃと撫でてくる。

始めは嫌がっていた当の本人は、ここ最近諦めて好きなようにやらせている。

ただし、

「キュウさんのさわり心地は今日も最高です」

「・・・いい加減にしろよ?まな板ちゃん?」

「うぐっ。そ、それは言わないでください」

幼いころから身体を鍛えさせていたからなのか、脂肪の付きが悪い。普通に考えればいい事なのだが、女性に限ってはある種の欠点とも言えるだろう。

本人もソレを気にしているのか、その事を言われると少し落ち込むのだ。

エリスに教えた体術を使うのであれば、無い方が有利なのだが、それはソレこれはコレという事か。

異能の力で女性になってみるのも面白かったか、などと今更ながらに思うのであった。


「それで、なにを見ていたんです?」

エリスが隣に腰掛け、ケンブンを覗き込みながら話しかける。

「これか?ケンブンだよ、ここ一年で情報に関しての魔道具は優秀になったからな」

「それは分かってます、内容の話をしてるんです。難しい顔してたから」

エリスは猫であるキュウの表情を読み取れるまでになっていた、四六時中そばに居るのだから当然とも思えたが、獣魔という特性も関係しているのかもしれない。

「魔王に関して、な。お前の夢の行き先が少し危うくなったかもしれん」

「えっ!?ど、ど、どう!?」

勢いよくキュウを持ちあげ、鼻先がかすむ位置まで顔を近付ける、それほどまでにエリスの夢に対する思いは強い。

「おちつけ、順を追って教えてやる」

前足で顔を遠ざけると、ゆっくりと元の位置に下ろされた。

少し長い話しだからとエリスに座るよう指示する。

ケンブンを咥えエリスの膝の上に移動、両手でケンブンを持つエリスと、膝の上で操作するキュウ。

たまにする授業の時も、同じようにこの体制で行っている。

必然的にエリスは下を向く事になり、もしもアレが大きかったらできない授業スタイルでもある。

ただしそれは言えない秘密だ。キュウ自身このスタイルは気に入っているし楽である。言った後どうなるかなど、想像するまでもないだろう。


以前から噂になっていた魔王の存在。

それは神殿の扉が開かれた時より話題になっていた事だ。

魔王は始め各領主に神殿の調査を止めるように進言していた。

けれど、盗掘が横行する中でそんな事ができるはずもなく、しばらくの後に調査は再開された。

半年の後、魔王は新たな手として、発掘された魔術道具を一度、現魔王城にて調査を行った後に、各領に送るという命令を出した。

もちろんそれを破った者には罰則が下る。

しかしそれも叶わぬ事となった、運搬の際の野党、魔物。そのリスクが大きすぎたのだ、全ての魔術道具を安全に運べるわけもなく、この命令はすぐに守られる事は無くなった。

そこから一年後、魔王は神殿に籠り、誰一人として入ってはならぬ、という強行手段に出た。

アビス参道街の目と鼻の先、あの時は街に大量の兵が集められ、大変な騒ぎとなった。

そして今日この日、魔国歴943年、10月10日、魔国総領主・魔王ノア・ヴァン・グレイは、全ての権利剥奪と、魔国人魔領北にあるオーラリア地域アズロック鉱山に幽閉される事となった。

余談だが、このケンブンによって知った情報で、キュウが眠りについてから約千年の月日が流れたという事になる。それを知った時は流石に度肝を抜かれたようだった。


「魔王様とわたしの旅と、何か関係あるの?」

「・・・想像力の欠如だぞ、分からないか?」

エリスは首を左右にかしげながら、うんうんと唸っている。

魔学と体術は学ばせてきたが、他の事は教えていない。金銭の計算と語学に関しては雑貨商の手伝いで覚えていたし、生きる上で必要な事は育て親のドウジ夫婦、その親類であり、今のエリスの育て親であるアスラ夫婦から教わっていた。

それに、多少のいざこざはあっても、それ以上の事態はこの国で起きていない。

この世界が新しく生まれて千年、平和が保たれてきたという事だ。

それも一重に魔王であったグレイとやらの手腕なのか、それとも別の要因か。

長い時を想像するには情報が足りなすぎる。その事は先に置いておこう。

「やはり、分からないか。いくさという物が」

「いくさ?ってなに?」

「戦争と言っても、・・・解らないだろうな」

「?」

その言葉を聞いてもエリスはピンとこないらしい、知らない物は想像できない。

たった数十年戦争をしなかっただけで腐った国が在るのだ、千年も戦争の無い平和な世界で争い事が起こるとは思いもしないだろう。

キュウ自身、自分で創り上げた世界で、自分の創り出した者が殺し合うなど笑えない冗談である。


それこそ、想像力の欠如だった。と言うべきか。

試作品であり、大した力も持たない魔術道具ではそこまで大きな騒ぎにはならないと思っていたが、神殿の扉が開いて3年、たった3年でこの国は大きく動き出した。

人を狂わせるのはいつだって「力」だ。

キュウ自身、想像の異能を持ったおかげで、世界を創りだすという狂気の沙汰に出たのだ。

たとえ世界を生みだした神であっても、咎める事はできない。してはいけないのだ。

神と呼ばれる愚か者の考え出した、想像の結果だ。


「この世界はこれから大きく動き出す事になる、魔王という枷の外れた騒乱の世界にな」

「そーらん?キュウさんの話はときどき難しくてわかんないです」

「今は覚悟を持つだけでも、いや、それも難しいか。頭の片隅で覚えておけばいい」

「また覚える事がふえました」

そう言って頭を抱えるエリス、その反動で髪がキュウに振りかかる。

うっとおしそうに首を振って髪を払いながら、欠伸をする。

「少し話しすぎたな、疲れた。俺は寝るぞ」

「えっ!?わたしまだ身体拭いてないです、ずるいです!」

寝る前の鍛錬を終えてからずっとキュウの話を聞いていたエリスは、身体を拭いていない事に気付く。

因みに、この街にも風呂屋はある。ただ少し値が張るのだ、水を近くの川から汲んで来なければならないので、家に備える事などできない。

少量のお湯で身体を拭く、それだけでも十分に清潔さを保てるのは、魔族の特性だろうか。

とは言えエリスも女の子である。

身体も拭かずにベッドに入るのは気が引けた、疲れた身体に鞭を打ち、急いで身体を拭く準備を始めるのだった。


後になりましたが、更新が少し遅れました。

申し訳ないです。


前の章など少し読み返して入れようと思っていた文などがかなり抜けていた事に気付きました、一日一話完璧な状態でというのはかなり難しいのですが、それでも自分でこれは酷いという文を書くのはどうなのかと。

言い訳ですね。


一応一日一話ペースは守る。と言う事で、2話連続投稿しようと思います。

何分拙い文章力なので、足りない部分は大目に見ていただけると幸いです。

不定期で躓く作者ではございますが、これからもこの物語をお楽しみいただきたいと想像します。


感想。おましてます。

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