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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー旅行記
34/73

強き獣の感傷

エリスが卓越した能力を開花させてからは怒涛の日々となった。

キュウは少女の願いをかなえる為に力を貸し。

エリスはキュウの知らない世界を知る為に力を貸す。

「キュウさん、ここの術式は基本の応用でいいの?」

「いや、そこはループさせて効率化した方がいい、それと俺の事は先生と呼べ」

「そのセンセイってなに?」

「俺が幸せになる魔法の呪文だ」

まず取り掛かったのが魔学。強い固有魔力を有するエリスならば、優れた術者にもなるだろう。

基本である幾何学陣、応用の展開陣、そして、キュウオリジナルの魔法陣。

この時点でこの時代の現代魔術の領域を遥かに凌駕したテクノロジーを持っていたが、狭い街、それも魔術の扱いを不得意とする妖魔の中では、その事を知る事などできなかった。

「次は素振り100回!どうした、身体の軸がぶれてるぞ」

「きゅーさん、これ、難しいし疲れるよー!」

「まだ200回じゃないか!それと俺の事は師匠と呼べ」

「それも幸せになれるの?」

「いや、気分の問題だ」

続いて体術、全てを一撃に賭ける魔法だけで旅をするにはリスクが大きすぎる。

もしもの時の為に、剣を教える事にしたキュウは、独自の剣術を教える事にした。

小さな体を最大限活用でき、獣魔独特の速さを伴う、駿速一撃の妙技。

練習に使っていたのは、木刀と同じく丸みを帯びた形状の岩刀、岩でできたソレは木の何倍も重い。

そんなものを一日何百回と振り続けても、少女の心が折れる事は無い。

夢の先にある想像を、その目で見る為に。


毎日、仕事の終わった夕暮れ時から1時間の体術指南。2時間の魔学勉強。

休みの日には実践訓練も兼ねた、近くの森への散歩。

3カ月を過ぎる頃には臆することなく魔物と戦う少女の姿がそこにはあった。

「・・・ふッ!」

白く長い髪を後ろで一本纏めにしただけの簡単な動きやすい格好。

呼吸を抜く音と共に駆ける、手に握られた岩刀の殺傷能力は低い。

人間相手ならこれでも十分だろうが、相手は魔物。皮膚は固く、身体には武器となる爪や牙や角を備えている。

そんな魔物に対する為の、爪や牙の変わりがすべ。それが魔術であり体術。

岩刀の表面が白く輝き始める。

最近ようやく使えるようになった、咆哮術式・息吹。

呼吸音ほどの小さな音で魔を操る術式で、威力は大したことは無いが、隠密性に長け、消費魔力も抑えられる優れモノだ。

駆ける先にはボア、少女が初めて対した魔物であり、ここ最近のお小遣い稼ぎの標的だ。

風のように早く、何気なく、通り抜けた。

空中で身体を地面と水平に保ち、一回転の遠心力を足した一撃を撫でる。

風にそよがれたように、ボア頭部の毛が揺れ動く。

すると、ボアはその場に座り込むように動かなくなった。

「キュウさん!今のどうでした!?かなり上手くいったと思うんですけど?」

エリスの声がボアの近くの茂みへ向けられると、そこから一匹の黒猫がテクテクと歩いてくる。

「うむ、今のは上出来だ。だが術式の展開がまだ遅い」

「えぇー、ともしびの展開より早かったと思うんですけど」

灯は、簡単に言えばライターだ。少量の火を少ない魔力と時間で発動させる、魔国でもありふれた魔術道具。

キュウはボアの肉体を観察し、絶命している事を確認すると、少し頭を下げ目を伏せる。

エリスは両手を合わせ、黙祷する。

命を頂く上での礼。いくさなかにも礼儀在り。というのが俺の教えだ。

「それに、・・・2度掛けしただろ?」

「え゛っ、ナンのことですか?」

しまった、という顔をキュウへ向ける。白を切るつもりのようだが、左耳がピクピクと小刻みに動いているのは嘘をつく時の癖だ。

「・・・今日は素振り2倍だな」

「そんなー!?キュウさんのイジワル!」

エリス自身、本当にバレないとは思っていなかったようだが、練習量を倍に増やされ、涙目になる少女の姿がそこにあった。


街に戻ると、ここ最近お世話になっている生肉屋の店主の元へ行く。

「おじさん、こんにちわ。こんばんわ?」

「ハハッ!微妙な時間だからな、今日もボア捕ってきたのかい?」

エリスの後ろには台車と山なりになった布。魔物を街で見せびらかすのは礼儀に反するとして、キュウが命じた事だ。

そしてこの精肉店、魔物はその種類にもよるが、大抵は食べられる食材として取り扱われる。もちろん毛皮や骨なども利用価値はある。

魔物の解体などやりたくは無いエリスと、知っていても実行できないキュウではどうする事も出来ず、こうして精肉店へ持ち込むようになったのだ。

余談だが、初めてボアを倒した時に解体を実行しようとした二人は、一週間魔物の血の臭いが取れず、四苦八苦した事があった。

店内に台車ごと運び入れ、少し離れた位置でその様子を見る二人。

始めの頃、エリスは嫌がっていたのだが、命を頂くという事がどのような事か、それを理解させるには食が一番手っ取り早いと、キュウが教えたのだ。

今も内臓を取り出すときや、血の臭いが気になる時はあるが、それ以上に自分が殺したという事が実感できる、重要な光景になっていた。

「しかし、ドウジの義娘子むすめっこは凄いな、切傷も矢傷も無い、これだけ綺麗な毛皮ならいい値がつくぜ」

「あはは、ありがとうございます」

少しだけ魔術が使えるようになった、とは言っているが、多少の魔術でこれほどの結果は出せない。

それは精肉店で解体を見せてもらってから気付いたのだが、他に持ち込まれた魔物には、所々傷が付いている。

罠による物であったり、戦いで付いた物であったり様々だ。


そもそもこの世界における死は二通りある。

肉の死と、魂の死。

肉とはすなわち身体の事だ。心臓が止まれば死ぬ、脳が傷つけば死ぬ、血が無くなれば死ぬ。

人と大差ない死の概念だと思って良いだろう。

魂とはすなわち固有魔力。魔力とはこの世の全て、しいては生物を形作る意志であり、それなくして生は在り得ない。

戦いは、敵の肉体を破壊するか、魂を破壊するかでその勝敗を決める。

ただし言わずもがな。肉体の破壊は誰にでもできる簡単な事だが、魂の破壊は熟練の魔術士であっても難しい。

それができるエリスの存在は、才能の一言で片づけるには突出しすぎていた。

その点において、この妖魔領は良い隠れ蓑であり、少女を一人前に育てるには最も適した場所とも言えた。


そんな街に育てられた少女は、魔国に知られることなく、魔国でも指折りの実力を持つのだが、それはもう少し後の話し。


今回でエリス幼少期が終了です。

次回から世界が目まぐるしく展開を始める(予定)ですのでお楽しみに。


感想、おまちしてます。

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