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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー旅行記
31/73

黒きと白きの矛盾

床に座り込み、呆然とする白い少女。

椅子の上から少女を見下ろす、黒い猫。

「ああ、ネコ。・・・そうか、そういう事か」

「えっ?」

自分の腕を舐め、ポツリぽつりと呟いた。

猫は何かを悟ったようだが、呆然とするエリスはどうしたらよいか分からず、ただその場に留まっていた。

「お前、名は?」

「あ、エリス。エリス・フェン・ドウジです」

めいみょうの並びか、では、エリス。少し話を聞かせてもらおう」

「あ、はい?」

猫の瞳は、暗闇の中にあってもその輝きは薄れず、ダークエメラルドの光が少女を照らす。

全てを見透かされるような、全てを知っているような、不思議な瞳。

それから黒猫は、この世界についてエリスに聞いていった。

この場所は?世界はどうなっているか?人は?魔物は?

エリスは聞かれるがままに、自分の知っている限りを話した。


「なるほどな、少なくとも数百年か」

「あ、あの・・・」

目を伏せ何か考えているような猫に、恐る恐る声をかける。

少女は自分の何倍も小さな存在に恐れを抱いていた。本能が教える恐怖。

「ん?ああ、少し待て」

猫の毛が一瞬逆立つと、全身に纏わり着いていた恐怖は一瞬にして消え去った。

「あ、れ?」

「まだ固有魔力が安定してなかったからな、これで少しはマシになっただろう?」

猫が何を言っているのか、少女には理解し難い事だったが、今はそれどころではない。

「そんなことより、わたし、お家に帰りたいんですけど・・・」

「家?・・・この近くか?」

ここで初めて、猫が驚いた声を出した。表情は相変わらず分からなかったが、人の反応に敏感なエリスはすぐに気付いた。

「えと、近くです。アビス参道街って言うんですけど」

「・・・ほぅ。面白そうだ。エリス、俺も連れて行け」

「え、あ、はい?」

椅子から飛び降りると、少しよろよろしながらも、入口の大きな扉に向かって歩き出す黒猫。

呆気にとられながら、慌てて後ろをついていく。

「思ったより動かしづらいな、慣れるまでの辛抱だな」

不思議な独り言を言っていたが、エリスはその意味までは分からなかった。


大きな扉は固く閉ざされ、開きそうにない。

黒猫は一度扉に触れた後、爪でカリカリと扉を引っ掻いている。

エリスも扉を押してみたが、ビクともしない、ここもまた閉ざされているのだ。

「やっぱり、開かないよ?」

「魔術結界の応用だ、この程度なら今の俺でも十分解けるさ・・・。できた」

「えっ?」

引っ掻き傷は幾重にも重なった幾何学模様になっており、猫がそこに前足を置いた途端、うっすらと輝いた。

魔力流が渦を巻き、ガラスが弾けるように、大きな扉が砕け散った。

土煙が巻きあがり、猫の歩く道を作るように二つに割れた。

エリスは以前神殿の調査に来た人魔の学者が言っていた言葉を思い出していた。

『あの神殿は神様に守られているみたいだ、世界中の知識を集めても、あの扉を開ける事はできないよ』という言葉を。

だったら、

「私の前を歩くこの黒猫は、神様を超える存在なの?それとも、これが神様なの?」

少女の疑問は、尻尾を弛ませながら悠然と歩く黒猫に聴こえたのか、聞こえなかったのか、一度だけ振り向くと、一度だけ瞬きを返すだけだった。


家に帰る途中の道で、歩き疲れたと言って少女の肩によじ登った猫は、洗濯物のようにだらしなくぶら下がっている。

心なしか、動かなかった時よりも少し重く感じていた。

「雑貨商の前まで行くと、鬼の夫婦が心配そうな顔で少女に駆け寄ってきた」

「エリスちゃん!無事だったのね、よかったわ」

「心配かけるなよ、いつもより帰りが遅いから肝を冷やしていたんだぞ」

「ご、ごめんなさい。色々あって」

身体についた土汚れを手で拭ってやるおばさん。もちろん、すぐにそこに居た別の存在に気付く。

「エリスちゃん、これ、なに?」

「コレとは失礼な者だ」

「ちょ、ちょっと!?」

不遜な態度に、さすがのエリスも咎めようと声を出すが、

「えっ、なに?どうかしたの?」

まるで私が突拍子もない事を言い出した、というような反応。

「やはり、俺の声はエリスにしか聞こえていないらしいな」

なぜ?という疑問を口にする前に、不意にかけられた声にエリスは驚く。

「ヴァイスの獣魔・・・?なぜこんなところに」

「えっ、ヴァイス・・・?不吉ね」

「なんて醜い色・・・」

夫婦は旅人の視線からエリスを隠すように立つ位置を移す。

エリスは自分の頭を触り、しまったという顔をした。

神殿の中で自分のフードを脱ぎ捨てて来てしまった事を、今更ながら後悔する。

ここ、アビス参道街は黒色信仰の聖地ともいえる場所、そんな場所にヴァイスが居たら、信仰者にとっては不吉以外の何物でもない。


「ヴァイス・・・?ああ、白か?」

猫は夫婦の隙間から、旅人の姿を観察していた。

猫の目に映るのは、黒い装飾品を見につけた多種多様な種族達。

黒の宝石がついたイヤリング。黒い刺繍の入った鞄。黒い刺青。

そして、人々の視線におびえる白い少女。そこから想像し得る答えは。

「エリス、この夫妻の前に出ろ」

「そ、そんな事できないよ」

「俺がお前を助けてやる、助けてくれたお礼にな」


少女にはこの猫を助けた覚えは無かったが、相変わらずの不遜な態度を、少し信じてみたくなった。

夫婦の間を通り、衆目に晒される少女。

白銀の髪は風に靡き、肩に座る猫が頬を擦り寄せる。ふわふわの猫毛が頬に当たって少し心地よかった。

そのおかげだろうか、今まで恐怖でしかなかった人の目がそれほど気にならなかったのは。


「お、おい。あの子・・・」

「なんて綺麗な黒い魔物」

「魔物が人に懐くなんて聞いた事無いぞ?」

この世界において魔物とは天災のようなものであり、人と相容れる事は無い。それは間違いない事だ。そう設定してあるのだから。

けれど、この身体に関しては少し特殊だ。

動物と呼ばれる存在はこの世界には存在しない、似ているとしたら魔物だ。

人は猫を見てまず魔物だと思うだろう、信仰する黒を備えた小さな魔物。

そんな魔物に好かれた白い少女、黒と白、プラスとマイナス、矛盾は人々に迷いを生む。

黒の魔物は崇めるべき、白の少女は貶めるべき、だが二つが一緒に居る場合は?


「もういいだろう、下がっていいぞ」

「えっ、・・・うん」

猫の言葉を聞き、エリスは雑貨商の奥に引っ込む。

夫婦は驚きつつ、少し嬉しそうにその後ろを追いかけた。

その様子を見ていた旅人達は、立ち止まり矛盾に悩まされる者、考える事を止め歩き出す者、様々だ。

言うまでもなく、この日から少女が自分を偽る事は無くなった。

猫の趣味というよくわからない影響が多大に反映される事になるのだが、それはまた後の話し。

うーん、少しテンポが落ちてる気がする・・・。

物語の始まりって少し書くの苦手です。


ちょっとした裏話。

戦国編は主人公エリスと主猫公の二人(?)を主とした三人称視点というちょっと変わった書き方をしてみようと思ってます。

視る方向が入れ替わり立ち替わりなので、読み手に混乱を与えつつ、文章として解らなくなる、という事が無いように頑張りたいと思います。


感想、おまちしてます。


追記・主人公の名前間違い修正しました。

エリス・フェン・アスラ→エリス・フェン・ドウジ

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