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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー旅行記
30/73

黒き魔物の猫

明るい空間で、エリスは目を覚ました。

「あれ、わたし・・・、ここは?」

見た事もない空間、大きなふかふかの椅子、ソファの上に少女は寝転がっていた。

天井には大きく空いた穴、所々瓦礫でふさがれて、元の場所には帰れない。

周りを見ると、そこは別世界の様だった。

大きなテーブル、良く分からないものの入ったガラス瓶、魔石の数々。

自分の働いている雑貨商よりも物が多い、しかも地下のはずなのに、昼間のように明るい。

子供のエリスでも分かる、この空間の異質性。

きっとここは、

「神様の、居る場所」

そう思うのだった。


それからエリスは周りにある物を調べていった、中には見た事のある魔術道具もあったが、使う事ができない。

それもそのはず、少女には知識が足りず、分かっていないが。そこに刻まれている魔術式は今魔国で普及している魔術式と別次元と言っていい程の差が存在する。

完全なオーバーテクノロジー。

その中でも、一際目立つ存在に目が止まったエリスは、ソレに手を伸ばす。

ガラスケースに入れられた、黒く小さい魔物。自分と似た耳と、細長い尻尾。

ガラスケースは簡単に開き、黒い魔物はその場から動かない。

「死んでる・・・?」

恐る恐る触ったが動く気配は無い、それどころか、温もりの一つも感じられない。

まるで始めから生きていなかったかのように。

どうしてもその存在が気になったエリスは、ソレを連れて行くことにした。


部屋の扉を開けると、薄暗い廊下と上に続く階段があった。

運が良ければ外に出られるかもしれない。

地下から出たエリスは一安心した、目の前に広がる廊下は明るく、虹色に輝くガラスが壁に浮き上がり、外の様子をぼんやりと眺める事ができた。

落ちたのは地下一階だった、これならすぐにでも出れる場所が見つかるだろう。

そう思っていたが、現実はそう甘くなかった。

どれだけ進んでも、どれだけ探しても、外に出る道は一向に見当たらない。

痺れを切らしたエリスは、近くの部屋に置いてあった調度品の槍でガラスを割ろうとしたが。

「なんで・・・?」

力が弱い、それはエリス自身良く分かっている事だ。

けれど少女の力で割れないガラスなどこの世にあるだろうか。

目の前には傷一つない虹色のガラス、ステンドグラス。

調度品の槍も同じく、傷一つ無い姿で床に転がっていた。

双方がぶつかり合う前に、不思議な力で弾かれたような、不思議な感覚。

「これじゃ、おうち、帰れないよ・・・」

今にも泣きそうなエリスの頬を、冷たい風が撫でる。

ビクリ、と震え振り返ると、そこには横たわった黒い魔物の毛が、風に揺らめいている姿だった。

動いていないその姿は、何故か少女を誘っているようで、魔物を抱え、風の方へ向って歩き出した。


長い廊下を進んでいくと、突き当たりの扉が見えてきた。

完全に閉じた扉から、風の流れを感じる。

扉を開こうと手を伸ばすと、触れてもいない扉は音もなく少女を招き入れた。

「・・・こわい、けど」

私はこの先に行かなければならない。

どうしてそんな事を思ったのか分からなかったが、今の少女にそこまでを気にする余裕は無かった。

部屋の中はシンプルな作りになっていた、廊下のような調度品も無ければ窓もない。

ベッドと、机と、椅子と、大量の本。

この異質な建物の中で普通というのは、とても変に思えた。

「これは・・・?」

机の上に立てられた一枚の絵、絵というには鮮明すぎる気もしたが、劣化が激しく書いてある人数しか分からない。

影がここのつ

もっと良く見てみたいと手を伸ばすと、触れた瞬間、絵はボロボロと崩れ、見る影も無くなってしまった。

「あ・・・、ごめんなさい」

つい壊してしまったかと謝ったが、反応してくれる人など居る筈もなく、絵を入れていた枠だけをそっと机に戻すのだった。


入ってきた扉とは違う、もう一つの扉が備えられていた。

そこは扉が歪み、奥からは暗闇しか感じられない。

半開きの扉は、エリスならばギリギリで通れる広さで開いていた。

真っ暗な空間のはずなのに、その場所を通る時、不思議と恐怖は感じない。

腕の中で動かない魔物のおかげだろうか。

呼吸も、鼓動も、温もりも感じないのに、暖かい。


真っ暗な空間を抜けると、そこには巨大な空間が広がっていた。

黒や紫の壁と床、部屋の中央に敷かれた赤い絨毯が闇の中で際立っている。

入口と思われる大きな扉は、やはりというべきか、開かなかった。

「大きな椅子?」

この部屋に入った時には気付かなかったが、この広間の最奥には、椅子が置かれていた。

闇と影でできているような黒の光沢を纏った武骨な椅子。

人が座るには少し大きいその椅子に、赤い宝石が備えられていた。

「・・・綺麗」

宝石に触れようと右手を伸ばしたが、突然何かに弾かれたような衝撃。

左手で抱えていた魔物を放してしまう。

魔物の身体は宝石の上に投げ出され、その動きを止める。

刹那、宝石から迸る紅い光が魔物を包み、九の光となって魔物に生を創造する。

紅い光が治まると、そこには四本の足で立ち上がる、黒猫の姿があった。


「・・・誰だお前?」

「しゃべっ!?」

猫に話しかけられるとは思っていなかったエリスは驚き、尻餅をつく。

そんな姿を見た黒猫が一言呟いた。

「想像力の欠如だな」


黒猫、一体何者なんだ?

ついに動き出す物語、少女と黒猫の出会いです。


感想、おまちしてます。

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