白き呪いの少女
魔国中央に位置する小さな村、妖魔領、アビス参道街。
冥界樹へ続く道の中で一際大きい断崖、人々は崖に穴を開け、そこに家を作り暮している。
他の土地から見れば不便かもしれないが、冥界樹を最も近くで見れる場所へ行く為の道として多くの旅人が訪れる魔国随一の参道である。
世界の始まりから存在すると言われている冥界樹は、魔族にとって神聖なものであり、信仰の対象ともなっている。
その街に暮らす、一人の少女の物語。
エリス・フェン・ドウジ。
妖魔に育てられた、獣魔の子供。
白く輝くような白銀の髪、入れ替わり現れる大星のような金と紅の瞳。肌は白く透き通り、薄紅の唇は雪原に咲く一輪の花のよう。
なにより目を引くのは、髪の色と同じ、頭の獣耳と尻尾。
14歳とは思えない美しさと、あどけない顔立ちが相成って、その存在をより一層際立たせている。
「準備よし、それじゃ、いってきます」
エリスはその姿を偽るように、目深くフードを被ると、二本の角に挨拶をする。
育ての親だった夫婦の遺角。
それが朝早くに家を出る、少女の日課だった。
「おはようございます、おばさん」
「おはよ、エリスちゃんは毎日偉いね、うちの旦那にも見習ってほしいもんだわ」
「かぁちゃん、それを言われちゃ男の威厳がだなぁ」
「威厳なんてどの口が言うんだい?まったくこれだから・・・」
「あはは、喧嘩はダメですよ?」
二人はエリスの親戚で、今は親代わりになってくれている。
親戚と言っても、拾われ子のエリスとはその姿からして違う。夫妻の額上部には立派な一本角が生えている。夫婦だけではなく、この街に住む多くの魔族は妖魔鬼族なのだ。
魔族は大きく分けて5種、獣魔族、爬魔族、妖魔族、人魔族、鋼魔族、に分けられている。
それぞれの種族は大陸に領地を作り、基本はそこで生きている。
「それじゃ、いつも通りよろしくね」
「わかりました」
「本当は店番をやらせてあげたいけれど、勿体ないわね」
「ヴァイスなんてちいせぇ事気にしやがって、なぁ?」
「わたしは大丈夫です。おじさんもおばさんも、ここに居る人達は優しい人ばかりですから」
ヴァイス、それがエリスを苦しめる呪い。
人魔の間で言われるようになった黒色信仰。
クロこそが世界の真理であり、正しきもの。白は逆に間違いであり、犯罪者と同等。
この魔国に存在する多くの遺物は、冥界樹を初めその全てが黒い。そんな些細な事実から始まった信仰は、鋼魔と妖魔の一部を除き、他の全魔族で信仰されている。
全身が白い少女は、信仰者から見れば異端者であり、生まれながらにその烙印を押された彼女は、姿を偽って生きる他無かった。
こうしてエリスは夫妻の営む雑貨商を裏で手伝うのだった。
仕事自体は簡単な物が多かったが、力仕事がその大半だ、日用雑貨の運搬、魔道具の管理、その他もろもろ。
力仕事は少し苦手だったが、獣魔特有の肉体のおかげで、子供でも半人前くらいの仕事はできた。
他の獣魔と違うのは色だけではなく、固有魔力量にもあった。
本来獣魔は魔族の中でも固有魔力の少ない種族であるが、エリスは大人にも負けない強い魔力を持っていた。
獣魔としての身体能力と、強い固有魔力、その双方を兼ね備えていた。
そのおかげで、エリスにしかできない仕事も任されていた。
「エリスちゃん、そろそろ時間よ」
「あ、はい!それじゃ、ちょっと行ってきますね」
「気をつけていくんだよ、何かあっても私達は助けに行けないからね」
そう言って心配そうに送り出すおばさん。
多少の危険がある仕事に始めは反対していたおばさんだったが、少女の強い希望もあって渋々了承していた。
夕暮れ時のアビス参道、この時間は参拝者も少なく、フードを被った少女が歩いていたとしても、気にする人は少ない。
知らない人に話しかけられた時は、獣人特有の俊足で逃げる。今までもそうしてきた。
目的の場所、廃墟神殿前。
エリスは「立ち入りキケン」と書かれた看板を無視し、魔力流の嵐の中へ進んでいく。
冥界樹の根元にある古の建物、冥界樹よりも古くからあると言われているが、その真相は定かではない。
この付近は固有魔力の強い者しか近付く事はできない、表参道は魔術で整備されていて、ある程度の距離ならばどんな人でも歩くことはできる。
参道から外れてしまうと、そこは自然魔力の嵐。魔力に当てられてしまうと、自分の存在が分からなくなり、消えてしまう。と言われている。
注意を無視した旅人が、一瞬の魔力に当てられて数日寝込むという事も珍しくない、それほど危険な場所なのだ。
けれどエリスは、他の人よりも長く魔力流に当たっても平気だった。
それでこそできる仕事、魔術道具の魔力補充。
魔道具の多くは自然魔力を吸収して効果を発揮する。通常の空間では使用した倍の補充時間が必要となるが、冥界樹の下では使用した半分の時間で補充が可能になる。
濃度の濃い自然魔力あってこその効果だ。
エリスほどの魔力を持った魔族であれば、領主のお抱えとなる可能性もあったが、ヴァイスという特徴もあって、その存在は隠されていた。
「うん、ちゃんと溜まってる」
廃墟神殿の瓦礫の隙間、そこに補充する魔道具が一纏めに置かれている。
その中の一つ、首飾りのような魔道具を手に取り、補充具合を確かめた。
「そこに居るのは誰!?」
「・・・!?」
不意にかけられた声に驚き、魔道具を一つ落としてしまう。
こんな場所に人が来るなんて、ありえない。
万が一にでもここに居る事がばれてしまうと、面倒事に巻き込まれてしまうかもしれない。
そう思い、神殿の隙間に身体を隠す。
小さな体が功を成して、なんとか隠れる事はできたが、この場所では見つかってしまった時に逃げる事も出来ない。
とっさに逃げ込んだ隙間で、見つからないように祈る事しかできなかった。
「・・・これは、魔道具?」
「・・・!」
落とした魔道具が見つかってしまい、その人物の足が見える。
身体がビクリと震えた瞬間、エリスの身体は落ちた。
廃墟神殿の脆くなった部分が崩れたのだ、そのまま悲鳴も上げずに落ち行くエリスの瞳には、灰色の魔族の姿だけが映っていた。
「崩れた・・・?ここも古くなってしまったわな、・・・父上様」
灰色の魔族はそれだけ言い残すと、霧のように消えてしまった。
おれまお、戦国乱世編。始まります!
登場人物がガラッっと変わりますが、その辺りは今後のお楽しみということで。
サブタイ前に章をつけました。分かりやすくなったかとおもいます。
あらすじも少し追記。ここからは続きであり新たな物語です。
感想、おまちしてます。




