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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー旅行記
32/73

儚き想像の願い

「それでエリスちゃん。その子は?」

「えと、この子は・・・」

エリスは自分の身に起きた事故を順番に話し始める、もう一方の当事者であるはずの黒猫は膝の上で丸まって寝息を立てている。

神殿に隠していた魔道具を取りに行き、声をかけられ、隠れた時に神殿に落ちた、そこでこの黒猫を見つけ、何故か開いた入口の扉から出てきた。

詳しい部分は少し濁したが、魔物が魔術を使うなんて、普通の人は信じないだろう。

エリス自身、未だに半信半疑だ。

その事を聞いた夫婦は驚きの声を上げると同時に、商売人の目になった。

「つまり、神殿の入り口が空いたってことだな」

「えと、そうです」

「あんた、準備するよ!これから忙しくなるからね!」

「おうよかあちゃん!エリスは俺達、いや、この街の幸運の女神になるぞ!」

「・・・えっ?」

「ふあぁ・・・、この鬼夫婦、できるな」

エリスは夫婦の燃えるような勢いを理解できなかったようだが、膝で眠る黒猫はうるさそうに欠伸混じりに呟いた。


その日から3日後。

アビス参道はお祭り騒ぎになっていた。

「新発売の神殿饅頭だよ!爬魔も獣魔もよっといで!」

箱詰めされたお菓子を歩き売りする鬼の兄さん、通りすがりの旅人が気軽に試食する姿が見えた。

「神殿の門破片が入ったお守りだよぉ!旅の加護にお一ついかがかな!」

嘘か真実ホントか謎だが、木片の治められた布地には、「旅行安全」という刺繍が施されている。

「クロネコの付いた提げ紐だよ!この店でしか売ってない限定品だよ!寄っといで!」

鬼夫婦の営む雑貨商、このお祭りで一番人気の商品を取り扱っている店だ。

黒い宝石と言っても安価な物だが、それを黒猫の形に整え、ストラップのようにして売り出しているのだ。気軽に身につけられるアクセサリとして人気沸騰中だ。

「二つですね!ありがとうございます!」

そこでモデルとなった黒猫を肩に乗せた、白い少女が売り子をやっていた。

初めて立ち寄った客は驚き、一瞬立ち止まるが、少女の笑顔を見ているうちに、どうでもよくなったという風に何気ない会話と買い物をしていくのだった。

猫いわく、

「固定概念なんて物はよほど凝り固まった物でない限り、どうにでもなる。それに、・・・その顔だったら大抵の事は大丈夫」

だそうだ。

少女にその言葉の真意が理解できたかは謎だが、自分を偽らず過ごせるというのは素直に嬉しかった。

とは言え、中にはエリスの姿を見ただけで離れて行ってしまう者も少なからず居る、それは仕方ない事だとも思っていた。


どうしてこの街がこれほど盛り上がりを見せているのか、それは逞しい妖魔鬼族のおかげだ。

鬼族は傲慢の異能を持つ者たちである。

個々に差はあるが、付与という力は鬼族という特異な肉体を持つ者にしか扱えない力。

自身の肉体強化はもちろん、鉱物や植物にも力を与える事ができる。

一方で、ある程度強靭な物質でなければ異能に耐える事ができないという不便さもある。

他種族に付与の力を送っても、本来の半分も満足に扱えないのだ。

これは鬼族だけでなく妖魔全体に言える事で、その異能故に妖魔は他種族と付かず離れずの距離で生きている。

だからこそ交流コミュニケーションという難しい問題に関して逞しくならなければならなかった。

そんな前提が在り、一流の商人と呼ばれる者は妖魔に多い。

妖魔という独自の種族、故に他種族を惹きつける商品を生みだす。

商人という独自の組織、故に地域での纏まりが強い。

エリスから神殿の事を聞いた夫婦が情報を提供し、その情報によって各領地から様々な人が集まる事を確信した街の人々が、商売のチャンスを最大限利用しようとした結果が、この「冥界樹神殿祭」だ。


店番をするようになって様々な情報を聞くようにもなった。

エリスが知りたかった魔国の事であり、猫が知りたかった世界の事だった。

「ねぇ、ネコさん」

「・・・なぁ、エリス。確かに俺はこの姿を猫だと言ったが、それが名前ではないぞ?」

数日が経ち、祭りも落ち着いてきた頃のお昼時、何気ない会話から始まった問答。

「えっ、じゃぁ本当の名前は?」

「・・・名前はまだない」

「嘘ですね」

「ぐぬぬ・・・」

すっかり仲良くなった二人は、今日も冗談を言い合っていた。

始めは独特の雰囲気で近寄りがたいと思っていた猫だったが、話し始めるとその考えは一転した。

冗談は言うし、嘘は吐くし、すぐにはぐらかす。

話していてとても楽しいと思え、少女は初めての友達に喜んでいた。

猫にしてみれば娘と大差ないのだが、それは秘密だ。

周りから見れば一人で猫に語りかける変な子に見えるだろうが、元々世間には疎い少女の事だ、その辺りは気にしていなかった。

「それじゃ、名前を当てる事ができたら願いを一つ叶えてやろう」

「えー、ほんとかなぁ?」

少女はまだ知らない、この猫が神にも等しい力を持っている事を。

「くろちゃんなんてどう?」

「不正解、というか却下だ、そんな想像性の欠片もない名前は嫌だ」

「にゃんこ、あ、これいいかも」

「ネコと大差ないじゃないか」

「にゃんた!」

「ニャンから離れろ」

一つ答えるたびに一つ文句をつけられる、その度に頬を膨らませる少女と、尻尾を振る猫。

どうせ教えてくれないだろうと思っていたエリスは、なんとなく。

「・・・キュウ」

「なっ!?・・・にゃぁー」

「・・・えっ?」

「・・・え?」

なんとなく思いついた言葉、今日はこの黒猫と出会って9日目。きゅうにちめ。

そう思っただけなのだが、つい口にしてしまったらしい。

そして間抜けにもその言葉に反応してしまった「キュウ」。

「キュウさん?」

「ナンノコトカナ」

「バレバレの嘘吐かないでください」

「・・・まさか数分で良い当てられるとは、想像力の欠如だった」

こうして、エリスは見事答えを良い当て、キュウは少女の願いを叶えることとなった。


その日の夜。

自分の家に帰ってきたエリスとキュウは、願いについて話していた。

「それで、願い事は決まったかい?」

「願いというか、・・・夢があるの」

「ほぅ・・・」

少女の夢、それは育ての親であるドウジ夫婦の夢でもあった。

部屋に備えられた箪笥タンスの上に置かれた2本の角。

鬼族は額に生えた角を代々の証として家族に残す習慣がある。ドウジ夫婦には実子がおらず、エリスが受け継いでいるのだ。

夫婦は鬼族の中でも好奇心が強く、世界を旅して歩いていた。

旅の途中で見つけた珍しい物を親類であるアスラ夫婦の店に置き、旅の資金としていた。

その旅の途中で拾われたのがエリスだ。

獣魔領の森の中で一人泣いていた女の子を拾い、育ててくれた。

その時魔物に襲われなかったのは不幸中の幸いだった、普通ならまず1日も生きてはいられない。

その後この街で育てられ、今日こんにちまで生きてきたという訳だ。

拾い育ててくれたドウジ夫婦は2年前に事故で亡くなった。

それ以来はキュウも知っての通り、親類のアスラ夫婦の元で店を手伝いながら生活している。

「だからわたしは、お父さんとお母さんみたいに、旅に出てみたいの」

「旅か、凄く漠然としているな」

「うん、わかってる。それでも、旅ってモノに憧れてるんだと思う」

こんな事を話すのはエリスも初めてだった。アスラ夫婦にも言った事のない、夢物語。

「手段の為の目的か、それでも、それがエリスの夢なんだろう?」

「・・・うん!」

静かに、力強く答える。

キュウは目を細めると、お気に入りのエリスの膝の上で丸まった。

「いいだろう、ただし俺が叶えるのは夢だ。夢の先は、お前の想像する事だ。いいな?」

「また難しい事言って、・・・でも、きっと大切な言葉でしょ?だったら覚えとくね」

少女が猫の頭を撫でてやる。猫は少女に撫でられてやる。

猫毛の心地よい手触りを楽しみ。手の流れる感触を楽しむ。


願いをかなえる?まさかきゅう・・・

書いてて思ったけどこの台詞はアレを連想させてしまうかも。

一切関係ありませんけどね。


感想、おまちしてます。

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