クリエイト
双子が生まれて早くも四年、世界が滅びたあの決戦の日から、約13年。
「お父様、今日はどこに行くのですか?」
「父上お出かけですか?え、僕も?」
「お前達に見せたいものがある、全員でお出かけだ、少し長い旅行になるな」
「私も行って良いウル?ウッルー!」
アルファは外で暮らす魔物に良くない影響を与えてしまう為、今までの旅行はずっと留守番だった、けれど今回ばかりは特別だ。
この数年で魔国は全て回っただろう、その時に決めた事も多々あるが、それは今はいい。
俺の世界創造の最終段階として、この子らに教えておかなければならない事がある。
それを教え終わったら、俺は・・・。
四年の月日は双子だけではなく、象徴達にも大小の変化をもたらしていた。
最も変わったのはバンビだろう。
生まれた時は30センチほどの小さな竜だったのが、今では城に入れないほど大きな巨竜と成長していた。
全長10メートルの黒竜、これでまだ成長途中なのだから驚きだ。
今では彼の背に乗って旅行するのが一家の楽しみとなっている。
その他の象徴は姿にこそ変化は見られないが、それぞれの持つ魔力はもはや魔王と言っても遜色ない、立派な物となっていた。
双子はそれぞれ歳の頃は16くらいだろう、イヴは長い黒髪をハーフアップでまとめ、綺麗な顔立ちが際立っている。
アダムは白い髪を短く切り揃えている、ナチュラルショートという名称だったはずだ。精悍な顔立ちはまごう事無きイケメンだ。
遥か昔の俺だったらイケメンに嫉妬していたかもしれないが、今の自分を見慣れてしまうとあまり気にならない。
イケメンに生まれて良かった、ではなく、イケメンに創り変えて良かった、というのが少し複雑なところだが。
これから俺達が向かうのは、天国に一番近い島。
勝手に俺が呼んでいるだけだが、あながち間違いでもない。
天に浮かぶ、英雄国。その観測を行う為に設置した空飛ぶ孤島。
英雄国が空に逃げた時、取り残された大地は崩壊し、バラバラになった。それを俺が少しずつ魔術によって空に浮かべたのが始まりだ。
今では英雄国を囲むように、数十の島からなる浮遊諸島となっている。
その中でも大きめの島に、別荘が建っていた。
これは以前、英雄国から俺が拝借した研究所だ。案外しっかりとした造りだったおかげで、数年放置した後でもその原型を残したまま荒野に捨て置かれていた。
それをそのまま浮島へ運び、別荘にしたのだった。
「綺麗、ここが浮遊諸島ですか?」
「間違っても落ちるなよ?まぁ、お前たちなら心配いらないだろうが」
360度空に囲まれた絶景に、イヴは瞳を輝かせている。
黒いマントが風に靡き、黒い髪と相成って闇が瞬いているようだ。
このマントは双子に送ったもので、光や熱を遮断する効果がある。もちろんこれが無くても、今の二人ならば自分で魔術を扱う事ができるのだが。
親が子に贈り物をするのに大した理由は不要だろう?
「父上が見せたいものは、アレですか?」
「・・・ああ、そうだ」
目の前にそびえるダイヤモンドのような形をした隔離世界。
外から中を見る事はできず、魔法も、異法も無効化する絶対空間。
俺は、少しづつ「思い出」を口にする。
俺はこの世界の人間ではない。遥か遠く、今では思い出す事も出来ない世界からやってきた。人はそれを異世界という。
俺は魔王になった。良く分からないまま、世界を救う為に。
それからは劇的な毎日だった。
初代魔王を倒し、最強の勇者を封印し、英雄国に突撃したり。今思えば無知の極みのような行動の数々だ。
今のような知識があれば、救えた命も少なくは無かっただろう。
だから俺は、この世界の意志に反逆することにした。
想像によってこのつまらない現実を超える事ができたなら、きっとそこには、俺の知らない、想像を超える創造があると、そう信じて。
「その願いは、もう叶っているんだ」
振り返り、俺は一人一人に話しかけてやる。
「アルファ、お前が生まれた時、その時が本当の始まりだった。そう思っているよ」
「アルはマスターの一番ウル、それだけは絶対に変わらない、アルの誇りウル」
美しい人の身体に、おぞましい蜘蛛のような足、見る人によっては不気味に映るだろうが、俺にとってはこの世で最も美しい最高傑作だ。
「バンビ、随分と大きくなったな。もう赤ん坊なんて呼べないな」
「ロード、私にとってあなたは唯一の主であり、生みの親です、どれだけ大きくなろうとも、私は子供ですよ」
黒竜の咆哮は天を斬り裂き、昼間の空を黒く染める程の魔力を放つ。世界の事象を変えつつ自分を子供などという彼に苦笑いしつつ、口先を撫でてやる。
「バオウ、お前の毛並みはいつも最高だったな、お前は威厳と優形を備えた気高き者となれ」
「主君、私の意志は貴方と共にある。いつでもこの鬣を好きに使ってください」
彼の咆哮は辺りの空気を一瞬にして凍らせる、空は澄み渡り、雲一つない暗天が広がっていく。
「ベベ、イヴとアダムの世話係みたいになってしまったが、本当に助かっていたんだぞ?いつまでも、その無邪気を忘れないでくれよ」
「マスタ、私はワタシだよ?変わるわけないさ!それに、世話係はこれからも変わらないんでしょ?」
彼女が指を鳴らすと、光の糸が空に舞い、暗天に虹を描いていく。事象を操る魔術まで簡単に使える彼女は、実に見事な魔法少女だ。
「アカゴ、みんなのまとめ役になってくれてありがとうな。まさか、俺の創造に助けられるなんて思ってなかったよ」
「うふふ、主様の想像を超えられたなら、それほど嬉しい事は無いですわ」
彼女の存在が鮮明になると同時に、空に輝く魔力流が発生する。異法による魔力操作、六象徴の中でも彼女だけが使える完璧な異法。
彼女を調停者として選んで正解だった、たった九人の家族でも、彼女が和を持ってくれたおかげで、こんなにも幸せだったのだから。
「ベイブ、お前の身体は自由に作り変える事も出来たのに、律義に俺の想像通りで居てくれたな、縁の下の力持ち、お前のおかげで俺は安心する事ができたよ」
「ワレ、アルジクレタ、カラダ、スキ、コレカラモ、カワラズ」
彼の背中から放たれたミサイルが、空に炎の大輪を花開かせる。彼がいる限り、この世界はどれだけ壊れようと立ち直る事ができる、そう思わせてくれるような安心感がある。
今立っている浮島を境にして、大空は暗天に大地は晴天に。
島を囲む虹が幾重にも煌めき、天の川を彷彿とさせる魔力の輝きが世界を巡る。
極彩色の花火が暗天に灯り、晴天に迸る。
幻想世界の詰め合わせのような空間で、双子にだけ伝えていなかった「これから」を伝える。
「イヴ、アダム。俺はこれから最後の異法、世界創造を使う。そうしたら、俺はこの世界から消える」
「お父様!?そんなっ、嫌です!」
「父上!まだ教えてほしい事があります!」
二人の身長はすでに俺と頭一つくらいしか変わらない、そんな二人に詰め寄られたら、バランスを崩して倒れてしまうのも仕方ない。
二人の大きな子供に挟まれ、浮島の芝生の上に尻餅をつく。倒れても一向に離れようとしない二人をどう説得しようか、少し困ってしまう。
「嫌と言われてもな、前から決めていた事だ」
「でもっ、消える必要は無いです!」
「そうです、父上ならどんな事でもできるはず、そうでしょう?」
ここまで説得されては俺も未練が出て来てしまう。けれど、それは許されない。俺が許せない。
「そうだな、もしかしたら、俺が消えずともなんとかなる方法が在るのかもしれない」
「でしたら!」「だったら!」
「これからの時代、俺の力は使ってはならない。それは、俺の望む世界を自分で壊す事になりかねないからだ」
これは俺の我が儘、それは重々承知だ。
四年の間に、俺がどれだけの間違いを行ってきたか、それは自分が良く知っている。
旅行に行く日、天気が悪いと言って天候を変えるなんて当たり前。
魔物が邪魔だと言って疑似結界を創った事もあった。
なにより、西南地点での魔物の暴走。
俺は、いつの間にか異法に頼りきった人間になっていた。
確かにこれは俺の力だ、どんなふうに使おうと、誰にも咎められることは無い。
だからこそ、どこかで自分を止めなければ、俺の望むものは永遠に手に入らない。
そう考えた結果の事だ。
「「・・・」」
「分かってくれたか?」
「解りません!分かりたくありません、けれど、それがお父様の決意なのだとしたら、私達に止められるわけないじゃないですか!」
「そうですよ、父上は、いつだって優しくて、強くて、卑怯だ」
「・・・俺は、魔王だからな」
最後に一度、二人の頭を撫でてやると、顔を乱暴に拭った二人は立ち上がり、俺から一歩引いた。
そして、二人して俺を指さすと、
「いつか、お父様に言わせてあげます」
「いつか、父上に言わせてみせます」
「「想像力の欠如だな、って」」
まさか、最後の最後に一本取られるとは思わなかった。
俺の決め台詞を使われるなんて、
「間違いなく、お前達は俺の子だよ」
あれ、終わりそうな雰囲気・・・?
四年の月日は番外編で書く・・・、かも?
その場合は割り込み投稿で書きたいと思います。
しばらくは本編を進めていきますので。
強い希望があったら前倒しで書くかも?(チラッ
感想お待ちしております。




