ヒューマニズム
「目覚めよ・・・」
少年と少女の形をした入れ物に、俺の眼球を馴染ませていく。
俺の肉体を素とした異法が彼等を形どり、存在を改変する。有り得ない存在、世界に認められない存在、世界は子を排除しようとその意志を送る。
魔力という意志は俺の異法に耐えきれず、世界の意志を認識する事ができなくなる。
世界の意志に取って代わるは俺の意志、
「認めよ、この子は、・・・生きていると」
双子の目が開き、その瞳に輝きが燈る。
一呼吸。二呼吸。大きく息を吸い、ゆっくりと吐きだしていく。
鼓動が身体を巡り、魔力を循環させていく。
脈動が肉体を進み、意志を増幅させていく。
人はなぜ生きているのか、人はなぜ死にゆくのか。永遠の問答に俺は一つの答えを出した。
全ては、世界の勘違いだ。
「おはよう、私の可愛い子よ」
「あぅ?パ・・・パ」
「ぱ・・・パ」
まだ少し混乱しているのだろう、象徴達とは違い、今のところ双子には異法による知識の付与を施していない。
「なんか、弱そうウル」
「仕方なかろう、我々とはまるで違う生まれなのだ」
研究によって確実な物となった、一つの結果。意志とは肉体でなく、血に宿るという事。
固有魔力は血によって形成され、肉体という媒体を通して自然魔力と融合させる事で、自然魔力を任意に操る事ができる。
魔学の基盤となる法式の誕生であった。
まだ弱々しい双子は、必死に言葉を放そうと口を開けるが、肉体の使い方がうまくいかないのか、ベッドの上でわずかに動くだけだ。
本来は赤ん坊から徐々に自分の肉体に馴染んでいくのだが、与えられた身体はすでに第二次性徴を終えた頃の肉体だ。
暫くは成長を見守り、無事に俺の求める者であると思えた時、この子達にも役割を与えよう。
こうして、一人と六象徴の子育てが始まった。
双子が誕生して早くも一カ月、魔王城は阿鼻叫喚の巣窟となっていた。
「ウルゥー!イヴがこけて血が出てウル!大変ウル!」
「そんなもん、唾でもつけておけ」
黒髪のツインテールを揺らしながらわんわんと泣く女の子、イヴ。
アルファの身体をよじ登って遊んでいるときに足を滑らせて落ちたのだろう、膝を擦りむいて血が滲んでいた。
「アダムがロードの部屋に・・・」
「みなまで言うな、鍵をかけ忘れた俺のミスだ・・・はぁ」
セミロングの白髪をうしろで一本結びにした男の子、アダム。
前にも一度あったのだが、俺の自室、元魔王の部屋に積まれた本の山を崩して遊んでいた事があった。
その惨状は言うまでもないだろう。
「主君、助けていただきたいのですが」
「なっ!?・・・バオウ、時には逃げてもいいんだぞ?」
双子に鬣をぐしゃぐしゃにされた無残な姿。
俺と同じでこの肌触りを気に入っているようだが、遠慮という物を知らない。
白と黒の髪の毛とはまた違う、黄金の毛並みに興味を示しているのはいい事なのだろうが。
「マスタ、オママゴトって、つらいんやね」
「・・・すまん」
見た目も似ているベベは二人の良き友となってくれているようだ、ただ、俺が教えた新しい遊びを試す度に、何かを悟ったような目をするのは如何ともしがたい事実。
「ふふ、二人は主様に良く似た綺麗な瞳をしていますね」
「む、なんだか俺まで照れてしまうな」
双子はアカゴの前では大人しかった、彼女の身体は物理的に触れる事ができないからなのか、触れられた時の冷たい感覚が好きなのか、それとも、彼女が母のような存在だからだろうか。
「アルジ、タイヘン、フタリ、ソトに」
「っ!?全員急げ!全力で連れ戻すんだ!」
俺の怒号と共に、六象徴が全力の行動を開始する。
その時の双子は少し可哀想だったが、いい薬になっただろう。世界の頂点に君臨する六種の象徴達が「本気」で迫ってくるのだ、正直俺でも度肝を抜かれる迫力だ。
双子を外に出せない理由はただ一つ、その身体にある。
俺の眼球を使った影響なのか、二人はとても強い固有魔力と引き換えに、身体が弱かった。
もう少し知識が身につけられれば、魔力による自己強化も使えるようになるのだが、イレギュラーとはいえ、まだ生後一カ月ほどだ。
特に酷いのは乾き。光や熱に弱く、身体がすぐに乾いてしまうのだ。
基本的な人間の構造と大差ない二人は、すぐに脱水症状に陥ってしまう。
「まるでヴァンパイアだな・・・」
そんな調子で日々を過ごし、いろんな意味で成長していった俺達は、いつの日か本当の家族になっていたのだろう。
象徴達は大前提として俺に絶対服従を誓っているが、当初の硬さはもう殆ど残っていない。
双子の成長は著しく、一年の月日が経つ頃には、年相応の行動を見せるようになっていた。
「お父様、お腹すいたー!」
「父上、この本読んでー!」
「なんだお前達、ベベと遊んでいたんじゃないのか?」
「「あきたー!」」
とは言っても、年相応。12、3なら小学一年くらいだろう、まだまだ子供だ。
けれど、二人はしっかりと成長していた。
イヴは俺を「お父様」と呼び、アカゴを見習ったような女の子らしい仕草も見せるようになった。
アダムは俺を「父上」と呼び、バオウのように凛々しく、バンビのように荒々しい雰囲気を見せる時もある。
子供としては少し大人びている気もしたが、環境が普通とは違うのだ、これでもいい方だろう。
そして二人は飽きっぽい。一体誰に似たんだか・・・。
この一年で俺は自分に満足のいく結果を見る事ができた。
例えば食事風景。
「二人とも、ちゃんと頂きますと言って、食べるんです・・・って、コラ!アダムはまたつまみ食いして!」
「むぐっ、むむめももー!」
食べてないよー、とでも言いたかったのだろうか、なんともバレバレの嘘だ。
ダメと言われた事を平気でやってしまう、間違いを平気で犯す。
例えば叱られている時。
「この魔具を壊した罰だ、しばらくそこに居なさい」
「いやっ!お父様!ごめんなさい!ごめんなさいっ!!」
触ってはダメと言っていた魔術道具を触り、あまつさえ壊したイヴを叱るとき、城の牢獄に閉じ込めた事があった。
少しやり過ぎかもしれなかったが、一つ間違えば命に係わるような魔術だ、立ち入ってはならないと言っていた部屋の鍵を持ち出して使おうとしたのだ、その時ばかりは俺も肝を冷やした。
「父上!イヴに、酷い事しないでください!」
「・・・お前達は魔術を甘く見過ぎている、その罰だ」
扉の向こうから聞こえてきたイヴの悲鳴を聞きつけたアダムが俺に食ってかかった。
「だったら僕も一緒です!僕が、イヴに魔術道具の事話したから!」
「だったらお前も、牢に入るか・・・?」
その時の俺は子供に対する親ではなく、勇者に対峙する魔王の如き威圧を放っていた。生半可な覚悟では、この環境で生きているこの子達には効果が無い。
「うぅ、ぼっ、・・・僕も入ります!」
「・・・良いだろう、二人で頭を冷やせ」
涙をにじませ、首を絞められたような声で叫んだアダム。
なんとか聞き取れる程度の声だったが、その声には確かな意志があった。
六時間後、目を真っ赤にした二人を牢から出してやると、二人の目線に合わせて膝を床につける。
右手をイヴに、左手をアダムに伸ばす。ビクリと肩を震わせた二人を、ゆっくりと抱き寄せる。
「魔術は、本当に危険な物だ、それは解るな?」
「「・・・はい」」
泣きつかれた声だが、しっかりと返事をする二人。
「なら、もう言う事は無い。二人とも心配させるのも程々にな?」
「うっぐ、おとぅさまぁ・・・ごめんなさぃ」
「うぅ、ちちうぇ、ごめ、なさい」
嗚咽混じりに謝る二人の頭を撫でてやると、小さな手が俺の身体にしがみついてきた。
まったくもって面白いものだ、遠の昔に忘れていた人としての感情を、こんなところで思い出すなんて。
世界創造の実験、研究程度にしか思っていなかった筈の象徴達を、この子達を、本当の家族として見ているのだから。
・・・これだから、人間は止められない。
余談であるが、双子を牢に閉じ込めた後、自室の隅で今世紀最大の鬱に陥っていた俺をなだめる為に六象徴がてんやわんやしていた。
「あ゛ー。もっと良い方法とか、言い方とかあったんじゃないか・・・、手は出さないって決めたけど、これじゃ変わんないよな・・・、ああぁぁぁ・・・鬱だ」
「ロード、その、なんだ、散歩にでも行かれませんか?」
「こんなマスタ初めて見た・・・、どど、どどどうしよ?」
「オチツケ、ワレも、フメイ」
「あらあら、どうしましょう?」
「主君、我が毛並みでは不足ですか?」
「ウルゥー!マスターの好きな魔学の本ウル!・・・ダメウル?」
聴こえているのか居ないのか、半分魂の抜けた俺は膝を抱えたまま数時間を過ごすのだった。
知識だけの子育てでは限界があるのです!
初めは赤ん坊から育ててみようかとも思いましたが、知らない事は書けないのですよ。
子育ての苦労も知らない奴が好き勝手言いやがってとか言われますからね(実話
感想お待ちしております。
追記
「アダムの黒髪」ではなく「白髪」です。




