*私は巫女で勇者姫・上
英雄国、王都アガートラーム、アガートラーム城。
城内の一室、円卓の間にて行われている会議は静寂に包まれていました。
私にできる事、でも、それを話してしまって本当に良いのだろうか?
「・・・それで、ディナダン卿はどうお考えで?」
「私に振りますかい、トリスタン卿。・・・お手上げ、は許されないんでしょうね」
「貴公はまたそのような、王に仕え国を守る大義の役目を軽んじるでないぞ!」
「まぁまぁ、ランスロット卿、彼も本心から言っているわけではありますまい」
一向に進まない話し合い、騎士の皆々もただ座っているだけではいけないと、憤りを感じているはず、・・・なのに、私は。
「しかしこのままでもマズイでしょうに、ここはひとつ、各自考えをまとめて後日にしませんかい?」
「そう言って前回も終わったではないか、・・・考え付かなかった我に言えた義理ではないが」
「「「・・・」」」
だれもかれも、答えは同じでしょう、彼等が力によってその強さを王に認められた英傑であったとしても、彼の魔王には手も足も出ないでしょう。
円卓を囲むように並べられた12の椅子、その一つが空席になっていることから理解できる事。
「・・・ガラード卿の怪我の具合は?」
「魔術による回復はこれ以上・・・、生活は問題なく送れるでしょうが、剣の方は・・・」
「魔王め!剣術だけであれば、王をも凌ぐガラードの腕を奪うなど・・・!」
魔王がマーリン研究所の場所を聞き出す時に奪った、この国最高の剣の腕、彼の強さはここに居る全員が良く知っている。
その彼を、まるで虫の足をもぎ取る子供のように容易くあしらって見せた。
なぜ命を奪わなかったのか、それが魔王の気紛れなのかは分からなかったけれど。
戦う意思を奪うには、十分すぎる恐怖を受けてしまった。
会議の静寂を破ったのは、入口から現れた一人の存在。
「女王!?なぜこのような場所に?」
「お身体はよろしいのですかい?」
「皆に大事な話があります」
この国の女王陛下にして、私の義母。
その目が私をまっすぐに見ているようで、どこか、狂気を孕んでいるようで。
私はその目に宿る意志を理解できなかった。
「代々王の家系にのみ伝わっている秘め事、世界魔術ディストラクションについて」
「・・・!やはり、義母様は知っていらしたのですね」
「知っていて秘密にしていたのね、・・・卑しい村娘」
その発言に、周りの騎士たちは凍りついた、聖母と謳われる女王が卑しい村娘などと暴言を吐いた、その事実だけでも驚くと言うのに。
「女王陛下・・・?卑しい村娘とは・・・」
「この娘は私の子ではありません、王がどこぞの村娘に産ませた子なのですから」
「なっ!?勇者の血族は子を成せない筈では?」
勇者の血は受け継がれない。
召喚された勇者様は、その力と引き換えに、人としての血脈を失う。と言うのがこの世界の決まりごとなのです。
だから、私の存在が知られた時、大騒ぎになったと聞いています。
国を救った英雄の血を受け継ぐ、勇者姫。
そんな事が知れてしまったら、政にどのような影響が出るかわからない。
そう考えた女王陛下と、その腹心の数人だけが事実を知り、英雄王、私の実父にも秘密にしていたのです。
10年に一度現れる巫女としての天啓を受けた事もあって、勇者の娘の肩書を隠し、巫女としてこの国に使える事になりました。
私を16まで育ててくれた実母は、私が巫女である限り、不自由のない生活が約束されているのです。
母の為にも、この国の人々の為にも、私は巫女でなければならなかったのです。
「女王陛下、世界魔法というのは?」
「パーシヴァル卿、それよりも巫女様の・・・。もしや卿は知っておられたか?」
「私を含め、ベディヴィア卿、ガーフレット卿だけは知っていた事だ」
「汝等、騎士に隠事などと!恥を知れ!」
「そうは言いましても!王は国に関しては一切の知らぬ存ぜぬで、我々としましても・・・」
「王に対しての侮辱か!?我ら王の騎士がこんなことでは!」
「お黙りなさい!!」
びりびりと響くような怒号に、一瞬にしてその場は静かになりました。
女王陛下が声を荒げるなど、見た事も無かったのですから、仕方のない事でしょうけれど。
それに、今は内輪揉めで時間を潰している時ではないのも確か。いつ魔王が攻めてくるかも分からない状況で、皆気が立っているのでしょうし。
「それよりも、この国を守る魔法を教えなさい、・・・巫女」
「・・・はい」
人に嫌われる、というのはこんなにも心苦しい物なのですね。今まで巫女様ともてはやされ、面と向かって敵意を受けたのは初めてです。
魔王と対峙した時は、確かに怖かった。黒い髪は闇夜のように不安を煽り、その瞳は深い谷のように底が見えない。整った顔立ちが美しいはずなのに、恐ろしくて仕方ない。
それでも、この心が折れる事は無かった。絶対に負けないという自信が、不思議と私を奮い立たせてくれた。
なのに、見知った彼等に不信の目を向けられるだけで、こんなにも簡単に心が折れそうになってしまう。
「ディストラクションは・・・、魔法とは少し違うのですが、私の結界を世界樹に移す事で起きる現象で、この国を守る結界を張る事ができます」
「結界とは、具体的にはどういうことですかい?」
「そこまでは、ただ。世界樹を中心とした限られた範囲、王都はまず間違いなく守れますが、その外に居る人々は・・・。死んでしまいます」
言いたくなかった筈なのに、これ以上嫌われたくない恐怖から、全てを話してしまった。
ここに居る人ならすぐに理解できるでしょうけれど、要するに私は、この国の人々を守るために、その他を犠牲にする、と言っているのです。
1を救うために10を犠牲にする。そんな事許されるはず無い。
「素晴らしいじゃない!それは魔王も殺せるという事でしょう?国を救い、魔王を倒せるなんて、今なら勇者姫を名乗っても許されるわよ」
「・・・そうか、そうだな!この国以外に居る者の大半は奴隷魔族、なんの問題もありませんな!」
「国を守るためなら不義も行うか、・・・彼の魔王に対するならばそれくらいの覚悟は必要か」
「すぐにでも取りかかりましょう!善は急げだ!」
なぜ・・・?
なぜ、この人たちはこんなにも喜んでいるのでしょうか・・・?
わからない。わかりたくもないわ!
確かに魔族は敵だったかもしれないけれど、国を失って、奴隷としてこの国で働かされて、私達が生きる為に見捨てるなんて、まるで、
「魔王と同じじゃない・・・」
かすれた声で呟いたその言葉は、自分達だけが助かる事に希望を見つけた人々に伝わる事無く、虚空へと消えていった。
「・・・愚者が」
その日、話し終えた私はすぐに会議室を出て、自室へと戻っていました。
私は確かに凄い力を持っている、生まれ、育ち、肩書、そんなものを一瞬で打ち消してしまうほどの力。
「それでも、私の悲しみは消してくれないのですね」
「お察しします、姫様」
「・・・っ!?」
不意にかけられた声の主を確認するように、振り返ると、そこにはグリフレット卿が立っていた。
彼は騎士の年長者であり、皆からの信頼も厚い方です。今年で80を超えるとは思えない精悍な顔立ちの老人。
「淑女の部屋に無断で入るなど、騎士としてどうかと思いますが?」
「どう声をかけたらよいか、ちょっとわからなくてね」
わざとらしく肩をすくめる彼から、会議室で見た皆のような感じはしない。
「わざわざ部屋まで来て、何かおありですか?」
「・・・すこし、昔話をしようかと」
「えっ・・・?」
彼は頭もよく、突拍子も無い事を言って周りを驚かせる事もある、けれど、無意味な事はしない人だ。
それに、彼の優しい言葉は、今の私に元気を分けてくれているような、そんな気がした。
椅子に座るように勧めると、軽い一礼をして腰かける。
私はその正面に座って、話を聞く事にしました。
「自分は、15の時よりこの城に仕えていました」
初めて勇者を見たのはその時、すでに魔王を倒し、魔国を平定するために多くの戦いにその身を投じていた英雄王は、その時より異質な存在でした。
剣で斬られようと、槍で突かれようと、炎で焼かれようと、大地で押しつぶそうと。殺すどころか痛みすらも感じない。
最強にして、不死身の王。
誰もがその姿に敬意を表し、恐れを抱いていた。
だが王は、国民の事も、魔族の事も、自分以外の全てがどうでもよいというように振舞っていた。
皆が彼を英雄王などと称えたが、どう見ても愚者にしか見えなかった。
少しでも気に入らなければ切り捨てる、彼に王としての才は無い。
けれどその力はこの国に必要な物、裏から支え国を維持する他ない。
ただ、一個人の感情で国が動くわけではない。だからこそ、王を支える騎士として今まで愚直に生きてきた。
けれど、魔王や勇者とも互角の力を持ち、人の心を理解できる優しい巫女の存在を知った時、迷ってしまった。
この子を助けるのは簡単だ、その存在を国民に知らせれば、勇者姫の誕生だと祭り上げるだろう。
本当にそれで良いのだろうか?長年続いた平穏を無駄にするだけではないのか、と。
「自分はもう間違えたくは無いのですよ、愚者のせいで、この国が腐ってしまう道を歩まない為にも」
話し終えたグリフィレット卿の姿は、付き物が落ちたように力が抜けていた。
それにしても、とんでもない話を聞いてしまった。
「分かっているのですか?・・・今の話は、処刑されもおかしくない内容でしたよ」
「王が死んだ今、自分のやるべきことは終わりましたので。如何様にも」
彼の瞳は、本当にその生きざまのように、愚直に私を見つめていた。
ああ、そうか。この人は私に間違えて欲しくないのだ、自分のような苦しみを、悲しみを私に教えないように。
それが自己満足の罪滅ぼしだったとしても、彼は愚直に生き続けるのだろう。
「うふふ、間違えない事は、難しいですね」
「・・・?姫?」
「あなたのような人がいると分かったのですから、私は安心して間違える事ができます」
「それは!?・・・いえ、そうですか」
私は決めたのだ、私がどうなろうと、世界がどうなろうと。彼のような人がいてくれるのだから、私の大好きなこの国は大丈夫なのだと。
「私は幸せ者ですね」
「姫は、自分が幸せだと?」
グリフィレット卿は不思議そうな顔で尋ねてきた、今の私の状況は、確かに幸せとは違うのかもしれないけれど、
「魔王はずっと一人で戦っているのでしょう?私は、私を信じてくれる人がいる、私が信じている人がいる、だから私は一人じゃない。一緒に戦える仲間がいるんだもの、それって幸せな事でしょ?」
「自分はとんでもない間違いをしてしまったのですな、姫が王であれば・・・」
彼は一瞬だけ目を伏せて悔むと、一転して今後の事を話し始めた。
私はもしものことより、これからの戦いを考える事に精一杯だ。
番外~巫女勇者編~
番外編・上・になります。
番外編なのに2部構成とはこれいかに?
巫女で勇者でお姫様という多彩な属性持ちの少女の物語です。
あれ・・・、すっごい主人公っぽいぞ?
感想お待ちしておりますね。




