後悔は後に立つもんだ
身体に流れる固有魔力、この魔力は他の誰でも無い、俺自身の物だ。
だが、こんなにも温かな魔力だっただろうか?
俺の知っている魔力は、禍々しく、他を圧倒する力だった。
それは俺が魔王だから、魔王だったから、そう思っていた。
初代魔王は勇者召喚を改良して、魔王召喚を作り上げた、改良といっても、その本質はまったく同じ物だ。
だとすれば、魔王とは何を指しているのか?
答えは簡単だ、魔王には魔王の固有魔力がある。その物がそうであろうとする意志の力、世界の理。
今の俺は巫女勇者の影響で、魔王の魔力を剥がされた人に過ぎない。
人である俺の想像は、こうであって欲しいという願望と、こうでなくてはならないという宿望。
勇者には最強であってほしい願い。
魔王は倒されるべきであるという望み。
本来の俺は、有り得ない世界を想い、在り来りな世界を像る、そんな人間だったはずだ。
泣き叫ぶ少女の心情を知ることなどできない、俺には理解する事も、想像する事もできないから。
「結局俺は、魔王の掌で転がされていただけだったのか」
自分のバカさ加減にはほとほと嫌気がする。
掌の上に居たとはいえ、操られていた訳ではない。
人を殺したのは俺、それを愉しんだのも俺、すべて俺のやった事だ。
今更言い訳をする気は無い、だったらいっその事、開き直ってやる。
「後悔は、後に立つもんだ、先には立たない」
今までやってきた事を悲観し、悔む事は簡単だ。問題は、その先に何をするのか。
確かに俺は掌に居たのかもしれない、けれど、そこで想像した事は俺のしたことだ。
「お前が英雄国を救う巫女勇者なら、俺は魔国を救う魔王勇者だ、・・・今だけな」
そういえば、いつの間にか巫女勇者で固定させてしまったな。
そんな事を思いながら、ウォレイ火山を駆け登る。
飛竜は魔力を剥ぎ取られ、すでに絶命していた。
現状でどれだけの命が失われたか分からない、すでにこの魔国に生き残っている者はいないのかもしれない。
そんな不安を感じながら走る。
今まで俺が魔王の魔力にどれだけ助けられていたか、今更ながら実感していた。
今まで感じる事の無かった恐れが、怖いという感情が、身体中を締め付けているようだ。
最後にこの感覚を味わったのはいつだっただろう、エターシに魔法を撃たれた時だったか、あの時は我慢できずに吐いたな。
まだあれから一年も経っていない、しかし、今までこんなにも生きていると実感した日々があっただろうか?
命を賭けた戦い、探究心の追及、・・・覚悟。
言葉で表せばあっという間の日々だった、それなりに楽しかったとも思う。
だからだろう、こんなにも怖いのに、汗が止まらないのに、歪んだ顔が直らないのは。
火口に辿り着くころには、全身汗まみれ、息を切らして死にそうだった。
魔力が少ないせいで大した強化も出来ない肉体で全力疾走、半年も引き籠っていればこうなる事は明白だ。
ただし休んでいる時間は無い。
火山にはまだかなりの魔力が残っている、ただし、これは世界を維持するための最低限の魔力。
これを使って世界がどうなるかなんて知った事ではないが、失敗はできない。
胸ポケットから取り出したのは、俺が一番初めに想像した、煙草。
その後も不必要な本や木材で煙草を創ってはいたが、記念にと一本だけ残しておいた。
丁度一本だけ入る木製のケースに入れ、お守りのように持ち歩いていた。
少ない魔力で火をつけると、身体に温かな煙が沁み渡る。
同時に、自分の中の魔力が活性化していくのが分かった。
一番初めに作り出したこれが一体なんだったのか、今でもそれは分からない。
ただ一つ言える事は、この紫煙こそが、俺が燻らせる反撃の狼煙だ。
巫女勇者がやっているのは、自分の能力を世界樹によって増幅させ、大陸ごと不可視の防壁で覆うという魔法だろう。
詳しい事はさっぱりだが、考えられる方法としてはそれしかない。
巫女勇者を通して世界樹へ送られた魔力が大陸を覆い、空へと舞い上がっている場面を確認した時に、その対策も想像した。
世界樹が空への流れを生み出すのなら、俺は地面への流れを生み出せばいい。
そうすれば魔力は循環し、現状のように一点に集中することは無くなるはずだ。
フィルターギリギリまで燃やした煙草を手の中で灰に変えると、火口に向かって両手を突き出す。
「想像、創造、想々!」
瞬間、火山から噴きあがる火柱、噴き出した炎は赤い光の柱となり、雲を突き破り、晴天の空を焼き尽くさんとする。
さすがに死んじゃう、というか死んでる?
光で目を焼かれ、音で耳を破られ、熱で身体の感覚を失い、生きているのか死んでいるのかすら分からない。
もう何度目だろうか、死の予感を味わったのは。
死というのは案外しょうも無いのかもしれない、なにせこんなにもすぐ近くにあるのだ。
しかし、大抵こういう状況の時は生きているのだ。
だって、死んだら想像できないだろう?
目を開けると、俺は光の星空の中に居た。
「どこだここ?というか、どういう状況だよ」
銀河の中を歩いているような、不思議な感覚。
「この輝きは、魔力?」
銀河の星々ではなく、魔力の塊それぞれが煌々と流れ、世界を巡っている。
どうやら、俺の目論見は上手くいったようだ。
外から中を見る事はできないが、英雄国の大陸は世界樹を地表に残したまま、空へと浮かんでいた。
あの中では、無数の人々が平和を取り戻した事に嬉々としているのだろうか。
その中に、あの少女の姿はあるのだろうか・・・。
世界樹は、世界から魔力を吸い取り、天へと放出する魔力流の一端。
放出される魔力流を受ける限り、あの国は浮かび続けるだろう。
一方魔国はその姿を一変させていた、大陸中央にそびえていた火山は一本の大樹へとその姿を変えていた。
世界樹に対を成す、冥界樹。
枯れ木のような風貌、木の表面は赤く明滅する脈が走っている。
天に流れる魔力流を吸い取り、世界へと還元する魔力流の一端。
二つの樹は絶妙なバランスで放出と吸収を続け、以前と変わらぬ、魔力の溢れる世界を作り出していた。
世界規模の戦闘、巫女勇者と魔王勇者の最終決戦です。
実は、この巫女勇者は(仮)だったのですが、なんとなく気に入ったのでそのまま使ってます。
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