虫唾が走る
俺と少女が同時に口を開いた瞬間、辺りの空気が一変する。
初めに動いたのは少女、女王を守るように自らが盾となるように前へ躍り出る。
俺としてはこんな美少女と戦うなど御免だ、どうせなら魔王らしく籠絡してやりたいが、無理だろう。
全神経が警報を鳴らしている、こいつはヤバイと。
衛兵が焦ったように俺を取り押さえようと動くが遅い。溢れ出る魔力の奔流が波となり、衛兵の身体を吹き飛ばす。
「なんだこいつ!?この城は魔術が使えないハズ!?」
抑えきれない感情が俺を高揚させていく。
初代魔王と対峙した時のような恐怖感は一切ない。
ヤンキー勇者との戦いで感じた嗜虐心は一切ない。
なのに、なんだこの高揚感は?
俺の知らない感情、殺人衝動と言うには純粋過ぎる。恋愛感情と言うには嗜虐的すぎる。
身体中の魔力が頭の中で警報を鳴らし続ける。
俺が知っている言葉で当てはめるなら「本能」。
「陛下、下がってください。コイツは魔王です」
「そんな!?王が倒されに向かったはずでしょう!?」
「ああ、あのバカか?殺してやったよ」
「そ、んな?英雄王が、・・・死んだ?」
俄かには信じられない情報、百年もの間生き続けた王の悲報を受け入れられず、女王も、兵士達も動揺を隠しきれずにいる。
その中でただ一人、少女だけが冷徹な視線を向けていた。
いいね、イイネ。愉しいじゃないか、こんなに気分が良いのは生まれて初めてだ。
本能のままに殺戮を行うも良しだが、俺の望む魔王像は狂気こそ相応しいと思うんだ。
「クックックッ、無様だった。恐怖と絶望に飲み込まれ、泣き叫ぶ奴の姿、実に良い見世物だったよ」
「そんな世迷言、信じられる訳が無かろう!」
気丈な騎士の一人が震える声を張り上げ、俺に剣を向ける。
その勇気は称賛に値する。俺だったらこんな化け物見た瞬間吐いてたさ。
「これでも信じられないと?」
俺の背後に巨大なスクリーンが現れる。
そこに流れる映像はもちろん、ナイフを突き刺され、苦しむヤンキーの哀れな姿。
『・・・!?ンだよこれ?あぁ?あああぁあぁぁぁぁ!』
「英雄王!?なんて、酷い!」
『いてぇええ!いてえよぉおおお!』
「あなた!そんな、あ、あぁ・・・」
「女王陛下!?気を確かに!」
『あぁ・・・、・・・・』
俺の背後のスクリーンでは泡を吹き、哀れに横たわるヤンキーの映像が絶賛放映中である。
見た事ある映像を映すなど雑作もない。
「卑劣な・・・!」
「美少女に罵ってもらう趣味は俺には無いんだが、たまには悪くないねぇ」
「・・・」
「おや?もうお話は終わりかい?寂しいねぇ、クックックッ」
視線で人が殺せると思わせるほどの眼光。少女の態度が険しくなるにつれて俺の気分も一層と高揚感を増していく。
これはあれだ、小学生男子が好きな女の子をいじめるときの感覚に似ている。
それはそうと、いい加減遊び過ぎだ、そろそろメインディッシュを頂くとしよう。
「それじゃ、殺されてくれ」
「・・・」
俺の想像通り、人間の限界を越える動きで少女に詰め寄ると、細い首をへし折ろうと右手を伸ばす。
俺の手が彼女の首筋に触れる寸前、見えない壁に阻まれたように俺の手が弾け飛ぶ。
俺が想像していたのは超高速で動く身体だけで、肉体そのものに強化は施してない。
時速四百キロのスーパーカーに乗って鉄板を殴ったようなものだ。
右手の手首から先が無くなっている。弾け飛んだ瞬間激痛が襲ってきたが、冷静に痛みを消しておいた。
「なるほど、奴が言っていた手が出せないとはこの事か」
「・・・化け物め」
なんとも的を得た発言だ、それもそのはず。俺の右手は時間が巻き戻っていくかのように修復していた。
元通りの右手を想像すれば、この程度怪我にすらならない。
「残念だなぁ、君みたいな可愛い子に触る事すらできないなんて」
「あなたに私は倒せない、解りましたか?化け物」
その時、初めて彼女の顔に勝機が見えた。
けど残念、ここは俺にとって敵地で、少女の本拠地なのだ。
「あぁ、残念だ。君の肉体を倒す事ができないなんて」
「分かったら消えなさい、それとも今すぐここで自害しますか?」
「想像力の欠如・・・だな」
「・・・なにを?」
後ろへ大きく飛ぶと、先程まで跪かされていた場所へ戻る。
俺をここへ連れてきた衛兵の二人が磁石で引き寄せられるかのように、少女の頭上で停止する。
「人質!?止めなさい、今すぐ彼等を開放して!」
「人質?違うな、生贄だよ」
「っ!?」
二人の兵士が捻られていく、鎧のねじ曲がる悲鳴と、肉の潰れる叫喚。
「うっ、うわぁぁああああ!!」
「うぉぉぇええぇ・・・」
「やめてくれぇぇええぇ!!」
二人の兵士は雑巾のように絞られ、耐えきれなくなった肉体から血が噴き出し、少女を、玉座を、周りの兵士達を恐怖と共に赤く染め上げていく。
逃げ出す者、吐き気を抑えきれなかった者、泣き叫び許しを請う者。
すでに何人か気絶した者も居るようだ。
「酷いっ・・・!」
「酷いのは君だろう?その結界は君だけの身体を守る物のようだね」
あれだけの惨状の真下に居たはずの彼女の顔や髪に血糊はついていない。
その後ろで気を失っている女王とそばに寄り添う兵士は全身を赤く染め、むせるほどの血の臭いに包まれているだろう。
ただ、少女の着ていた純白のドレスは赤黒く染まり、血を滴らせている。
「やはり、君には白より赤が似合うね」
何者も彼女に触れる事適わず、何物も彼女を汚す事許されず、と言ったところだろうか。
「どうして、人の命を・・・、こうも簡単に奪えるの!?」
「・・・っ!?」
気丈な彼女が見せた初めての涙、どうしてだろうか。
俺はその涙を見た瞬間、嬉々として喜ぶと思っていたのだが。
どうしてこんなにも、
「虫唾が走る・・・?」
「そう、やはり化け物に人の心は分からないのね」
悔しそうに拭った涙の後に、彼女の後悔は無かった。
俺が言った言葉は俺自身に向けての物だったが、その事に気付いた者などこの場には存在しなかった。
うわー、これもうただの鬼畜残忍虐殺魔じゃないですかーやだー(棒
無敵チート最強主人公のはずがただの畜生に!?
すいません、ここまで書く(やる)つもりはなかったんです、ちょっと筆者が調子に乗っただけで。はい。
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