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まるごと持って帰る

対峙したまま動かない俺と、少女。

その空気に飲み込まれ、他の兵士は動くことすらままならない。

これ以上の弱みは見せつけまいとする少女の態度からは、先程流した涙の儚さは感じられない。

小さな女の子とは思えない勇ましい姿。

もしかしたら、俺が望んでいた勇者はこの子なのかもしれない。

強さと弱さの矛盾を兼ね備えた存在、俺が待ち望んでいた存在、憧れていた存在。

だから殺したい?

・・・変だ。俺の中にある何かがおかしい。

理性と言うには感情的すぎる心情、自分の中に本能が2つあるような違和感。

俺は本当にこの子を殺したいのか?

解らない、出来る事なら今すぐ目をそむけて逃げ出したい。

・・・逃げる?


「そういえば、一つ聞きたい事があったな」

「魔王に教える事など何もないわ」

「別に、君に聞かなくてもいいだろう?」

一番近くで棒立ちとなっていた兵士の一人を魔力で引き寄せる、額に指先を突き付けられた兵士は顔を真っ青にしたまま、口をパクパクとさせている。

死の恐怖を味わう人間の姿とはこんなにも惨めなものか、というよりは、むしろ俺が変なのか。

「またあなたは尊い命を・・・!」

「なぁ、この国に魔術に関する文献はどれほどある?」

「はぃ!?あ、あ・・・あ」

せめて質問に答える事くらいはしてほしいのだが、このままでは埒が明かない。

右手の手甲に意識を集中させると、魔力の流れが兵士の手甲を歪め、潰していく。

鉄に身体を締め付けられる感覚など味わったことはないが、さぞや痛いのだろう。

「いぎゃぁぁぁ!腕がぁぁぁ!」

「これ以上肉体を失いたくなければ質問に答えろ」

「うぐっ、う・・・、世界樹の・・・北に、研究・・・施設が・・・」

人の意識を覚醒させるには、恐怖より痛みの方が効果的だ。

俺は知りたかった情報を聞き出すと、兵士を少女に向かって投げ飛ばす。

動かない柱に激突したかのように激しい音を立て、兵士は動かなくなった。死んではいないと思う・・・多分。

「なっ、魔王!・・・!?」

少女が兵士によって視線を遮られた一瞬の隙に、俺はその姿を眩ました。

その場に残されたのは、怒りと悲しみ、恐怖と絶望、少女の覚悟を決めた強い意志。


「だいぶ楽になったが、いったいなんだったんだ?」

城を抜け外へ出ると、先程まで感じていた自らの違和感は薄れていた。

だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

一国の王を殺し、その城まで攻めた魔王をただで帰してくれるとは思えない。

この国の者に俺を如何どうこうできるとは思えなかったが、万が一というのもあり得る。

俺は本来の目的を達成するためにこんなところまで来たのだ、本当は来る気はなかったのだが。今更そんな事を言ったところで後の祭りだ。

だったら、この現状を有効活用した方がよほど利口だろう。

俺は魔術知識を手に入れる為、兵士から聞き出した情報を頼りに、研究施設とやらへ向かう事にした。


「北って言われても、この世界の方角はわかんないんだよな」

空を飛べるおかげで街中を右往左往、なんて状況にならなかったのは幸いだが、魔力探知で国中を探索する事になった。

これもう兵士に聞いた意味完全に無くなったな。

色々と調べた結果、この国は世界樹を中心としたドーナッツ状の都市で、先程まで俺がいた城は南に存在していたらしい。

世界樹を挟んで反対側に魔力反応の高い場所、研究施設だろう建物があった。

兵士が北と言っていたし、この都市の全体図はある程度掴む事ができたはず。

ただし、ここで問題が一つ。

どうやって必要な情報を持って帰るのか?

城で俺が研究施設の事を聞いたせいで長居はできないだろう、そんな中で情報をちまちまと探している時間はない。

「逃げるにしても、もう少し想像を巡らせた方がよかったな・・・」

愚痴を言ったところでこの状況が変わる訳ではない。

研究施設の屋根の上に降り立つ。

施設はコの字型の3階建て、ウォレイ城の半分程度の大きさだろうか。

「む、思ったより早かったな」

近づいてくる無数の魔力反応、おそらく国の兵士だろう。

あれだけの惨状を見せつけてなお、追ってくる兵士の錬度だけは称賛に値する。

ただし、それが無謀である事を考えればプラマイゼロの評価だ。


「考えている時間はない、か」

スマートではないが、こればっかりは仕方ない。

「まるごと持って帰るか」

施設の中に居た人は急な揺れに驚き、外に出ようと扉を開ける。

開けた扉の先は空中で、哀れな人々は地面へ向けて落下していく。

別に俺は人を手に入れるつもりはない、むしろ気を使ってやる事がめんどいくさい。

建物の中に存在している人間を少しずつ投げ捨てていく。

空高くから投げ出された人がどうなろうが知った事ではないが、魔法が使える世界だ、なんとかなるだろう。

建物ごと頂く。という大胆な犯行、大怪盗だったとしても不可能な作戦だろう。

建物が飛び立つ姿を見て阿呆面あほずらを晒す英雄国の住人達。

その顔を思い出しながら、怪盗アニメの主題歌を口ずさむ。

城での自分を忘れるように、自分らしく在ろうと繕う。

解ってて事実から逃げ出している辺り、力を持っても人間の本質は変わらない。


あぁ・・・、12時投稿にマニアワナカッタ・・・。

なるべく毎日更新だけは守るようやりたいと思いますが。

生温かい目で見ていただければ・・・(汗


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