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ウロノカミタマ -Circulation of vampire-  作者: 次野/うずらの


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8/13

5口半め



 大通りを抜け、街の中心部に位置する噴水広場に出れば、そこから東西南北4つにエリア分けされている。

 彼のお屋敷は、西側の小高い丘の上にあった。

 白壁の大きな平屋からはマグメルを一望でき、庭も付いていて警備の者もいる。


 住居兼会議場のような、立派な建物――――の応接間に通され、お付きの人が入れてくれた紅茶を飲みながら、一同はシロガネとキリュウの間柄を聞き入った。


「シロガネとは悪友と言ったほうが正しいのかもな」


 マスク組にはストローが添えられ、ネロはお水を。

 悪友と言われたシロガネは、「まあ」と短く同意する。


「生まれも育ちも良くなくてな。若い頃の俺たちはヒトならなんでもありだった」

「仙人が?」

「兄さんが?」


 また疑問――キリュウが知るシロガネと2人の前にいるシロガネがどうも一致しない。

 なんでもありだったシロガネが丸くなっている、と言うことなのか。


「兄さん、か。おまえなりに大切にしてきたんだな。だが、もう潮時だろ。教えてやったほうがお嬢ちゃんの――――()()のためじゃないのか?」

「姫!? めっちゃ高貴じゃん!!」


 ベルミリオは興奮しつつも、「ちょっと納得」と鼻息を抑えた。


 分からないのはロイユだけ。

 困惑する彼女はシロガネを見つめる、が……。


「……隠していて悪かった」の、一言。


「がうがう!」


 そんなんで分かるか! と、ネロが吠えた。シロガネの膝の上に乗り、ぽかぽかと猫パンチを繰り出す。


「がーう! がうがう!! がう!! がうう!!」


 いつになく吠えるネロをロイユが抱き上げても、じたばた。


「ははっ、勇ましいな」

「がう!!」

「口下手のシロガネが話すには、ちょこっと昔すぎるのかもな」


 シロガネは眉間にしわを寄せるだけで、口を開こうとしなかった。

 かわりにキリュウが、〈リュミニ〉という国のことを話題に上げる。



「もう何十年も前の話さ。東の僻地に“共存”をやってのけた国があったんだ」



 血が足りないのであれば与え、寿命が短いのならヴァンパイアになることも、そこでは疎まれなかった。

 今もそういった地域はあるが、良質な血液を持つ王族や貴族が提供することはまずなく、出し惜しみをしなかったのはリュミニだけ。

 自他国のヒトから搾取することも、ヴァンパイアを蔑むこともなく、王族の信頼も厚い国だった。ヴァンパイアは自ずと国を守る戦士に、ヒトはそれを支え、時には生涯を添い遂げる伴侶となり、周囲は大いに祝福した。



「だが、どこかでそのバランスが崩れた。シロガネはまだ赤子だったお嬢ちゃんの母君を連れて、国から脱出したのさ」


 ヴァンパイアに対して見方が変わったのも、そこから。

 多くの国が反共存を掲げ、今に繋がる。


「もう国はないが立派な血を継いでるってことよ」


 ――――と、言われても、だった。


 ロイユにはよけいに困惑するだけの話で。

 滅亡した国の末裔でした、などと言われても、だ。


 すがるような目でシロガネに助けを求めようとして――――躊躇する。本当の兄妹でなかっただけでなく、使命感で守ってくれていたかもしれない彼に、これまでと同じように甘えていいものか。

 ロイユの表情は曇っていくばかりだった。




     *




 これからをじっくり考えるためにも、キリュウはこの屋敷を自分の家のように使ってくれと、滞在先を提供する。

 長旅でもあったロイユは一足先に部屋で休ませてもらい、ネロもそれに続いた。


「僕までお世話になっていいの? ロイユちゃん、吸いかねないよ?」なんて、ふざけているベルミリオにも一部屋。


「道中大変世話になったと、シロガネから聞いてる」

「へぇ、ほんっと仙人って りーちぎ。でも、ありがたく使わせてもらうよ。滞在費浮いた金で血液パック買ってこーよう♪」

「ぼったくられんなよ」


 ご機嫌な背中を見送れば、応接間には ぴりついた空気が流れた。


「……あー、悪かったな。半ば強引に進めて」

「全くだ」

「知らないままってのは酷だろ。国も後ろ盾もないお嬢ちゃんに純血は重すぎる。だから、お姫さんの子を良いとこの男と くっつけたんだろうがな」

「……」

「俺ぁ、お姫さんにすこぶる世話になった分、お嬢ちゃんに返していきたいのと、お嬢ちゃん自身に危機感を持ってもらいたかったのよ」


 キリュウなりに考えた上での気遣いに、シロガネは納得しかけるが。


「おまえに大切にされていたからもあるだろうが、あの警戒心の無さはどうぞ食べてくださいって――」


 聞き捨てならない発言に、キリュウの胸ぐらを掴み上げて黙らせる。


「――おまえには、そう、見えてるのか?」

「見えてない見えてない!!」


 いきなり喉元を掴まないあたり、まだ冷静なようだ。


「ほんっっっとうに、お嬢ちゃんが大切なのな!?」

「あぁ」と返事をするシロガネの目は、完全に据わりきっていた。



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