5口半め
大通りを抜け、街の中心部に位置する噴水広場に出れば、そこから東西南北4つにエリア分けされている。
彼のお屋敷は、西側の小高い丘の上にあった。
白壁の大きな平屋からはマグメルを一望でき、庭も付いていて警備の者もいる。
住居兼会議場のような、立派な建物――――の応接間に通され、お付きの人が入れてくれた紅茶を飲みながら、一同はシロガネとキリュウの間柄を聞き入った。
「シロガネとは悪友と言ったほうが正しいのかもな」
マスク組にはストローが添えられ、ネロはお水を。
悪友と言われたシロガネは、「まあ」と短く同意する。
「生まれも育ちも良くなくてな。若い頃の俺たちはヒトならなんでもありだった」
「仙人が?」
「兄さんが?」
また疑問――キリュウが知るシロガネと2人の前にいるシロガネがどうも一致しない。
なんでもありだったシロガネが丸くなっている、と言うことなのか。
「兄さん、か。兄なりに大切にしてきたんだな。だが、もう潮時だろ。教えてやったほうがお嬢ちゃんの――――姫様のためじゃないのか?」
「姫!? めっちゃ高貴じゃん!!」
ベルミリオは興奮しつつも、「ちょっと納得」と鼻息を抑えた。
分からないのはロイユだけ。
困惑する彼女はシロガネを見つめる、が……。
「……隠していて悪かった」の、一言。
「がうがう!」
そんなんで分かるか! と、ネロが吠えた。シロガネの膝の上に乗り、ぽかぽかと猫パンチを繰り出す。
「がーう! がうがう!! がう!! がうう!!」
いつになく吠えるネロをロイユが抱き上げても、じたばた。
「ははっ、勇ましいな」
「がう!!」
「口下手のシロガネが話すには、ちょこっと昔すぎるのかもな」
シロガネは眉間にしわを寄せるだけで、口を開こうとしなかった。
かわりにキリュウが、〈リュミニ〉という国のことを話題に上げる。
「もう何十年も前の話さ。東の僻地に“共存”をやってのけた国があったんだ」
血が足りないのであれば与え、寿命が短いのならヴァンパイアになることも、そこでは疎まれなかった。
今もそういった地域はあるが、良質な血液を持つ王族や貴族が提供することはまずなく、出し惜しみをしなかったのはリュミニだけ。
自他国のヒトから搾取することも、ヴァンパイアを蔑むこともなく、王族の信頼も厚い国だった。ヴァンパイアは自ずと国を守る戦士に、ヒトはそれを支え、時には生涯を添い遂げる伴侶となり、周囲は大いに祝福した。
「だが、どこかでそのバランスが崩れた。シロガネはまだ赤子だったお嬢ちゃんの母君を連れて、国から脱出したのさ」
ヴァンパイアに対して見方が変わったのも、そこから。
多くの国が反共存を掲げ、今に繋がる。
「もう国はないが立派な血を継いでるってことよ」
――――と、言われても、だった。
ロイユにはよけいに困惑するだけの話で。
滅亡した国の末裔でした、などと言われても、だ。
すがるような目でシロガネに助けを求めようとして――――躊躇する。本当の兄妹でなかっただけでなく、使命感で守ってくれていたかもしれない彼に、これまでと同じように甘えていいものか。
ロイユの表情は曇っていくばかりだった。
*
これからをじっくり考えるためにも、キリュウはこの屋敷を自分の家のように使ってくれと、滞在先を提供する。
長旅でもあったロイユは一足先に部屋で休ませてもらい、ネロもそれに続いた。
「僕までお世話になっていいの? ロイユちゃん、吸いかねないよ?」なんて、ふざけているベルミリオにも一部屋。
「道中大変世話になったと、シロガネから聞いてる」
「へぇ、ほんっと仙人って りーちぎ。でも、ありがたく使わせてもらうよ。滞在費浮いた金で血液パック買ってこーよう♪」
「ぼったくられんなよ」
ご機嫌な背中を見送れば、応接間には ぴりついた空気が流れた。
「……あー、悪かったな。半ば強引に進めて」
「全くだ」
「知らないままってのは酷だろ。国も後ろ盾もないお嬢ちゃんに純血は重すぎる。だから、お姫さんの子を良いとこの男と くっつけたんだろうがな」
「……」
「俺ぁ、お姫さんにすこぶる世話になった分、お嬢ちゃんに返していきたいのと、お嬢ちゃん自身に危機感を持ってもらいたかったのよ」
キリュウなりに考えた上での気遣いに、シロガネは納得しかけるが。
「おまえに大切にされていたからもあるだろうが、あの警戒心の無さはどうぞ食べてくださいって――」
聞き捨てならない発言に、キリュウの胸ぐらを掴み上げて黙らせる。
「――おまえには、そう、見えてるのか?」
「見えてない見えてない!!」
いきなり喉元を掴まないあたり、まだ冷静なようだ。
「ほんっっっとうに、お嬢ちゃんが大切なのな!?」
「あぁ」と返事をするシロガネの目は、完全に据わりきっていた。




