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ウロノカミタマ -Circulation of vampire-  作者: 次野/うずらの


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4/12

2口半め



 次の日も、シロガネは朝方に帰ってきた。

 その次の日も、またその次の、次の日も。

 そのうち、昼前、昼過ぎ、と森に滞在している時間も長くなってくる。

 少し寝て、少し食べて。

 ロイユの前では見せないが、薬草の減りが著しく、怪我もしているようだった。



「行ってくる」

「くぅん……」


 心配なのはネロもだ。シロガネが仮眠をとっている間、ずっとそばにいる。

 裾を引っ張って止めようとしたこともあったが、そのたびに優しく頭を撫でるのだ。


「ロイユを頼んだぞ、ネロ」

「がうっ」



 そう必ず念押して、また森へ。




     *




 ヒュン、ヒュン、ビュンっ!!



 軽快だった音は、時折凄みを帯びるようになってきた。

 矢がわりの枝を拾う、ネロの往復する距離も広がり、自分だけがなにもしていないような、もどかしさがロイユの中に渦巻いていた。


 ソヴィータは畑仕事に支障が出ないよう、早めに起きて、ロイユが来る頃には弓の練習をしている。


 それに比べて、自分はシロガネを心配している、だけ。

 村の現状から止めるべきではないと転嫁して。



「わ、私っ、薬草採ってくるっ」

「ロイユ?」

「残り少ないの、思い出してっ」

「がぅ!」


 ――危険だよ!


 そんな風に吠えられる。


「兄さんが森で退治してるからっ、入り口あたりはきっとっ……」

「がぅ!」

「ネロ、協力してっ。マモノが近くにいたら教えてほしいのっ」

「がぅぅっ」

「アタシも行くわ! もしマモノが現れたら、干し肉付きの矢を放つってのはどう? その隙に逃げましょ!」

「がぅ……」

「無茶はしないから、ね?」


 ――ロイユを頼んだぞ。


 ネロはシロガネとの約束を守るため、薬草採りに賛同する。




 見晴らしの良い小川沿いを歩いて、薬草を探しに。

 森の入り口には、それらしきものは生えていなかった。


 “どこにでも生えているものではない”


 ロイユはまた1つ学ぶと共に、シロガネに頼りっきりだったことを痛感する。


 そして、森が異様に静かなことも。

 川のせせらぎ以外、聞こえない。

 鳥の1羽も鳴いていなかった。


「意外とないものね」

「がうー」


 けれど、ロイユはどんどん進んでいく。

 砂利だった地面が土に、木々がどんどん空を覆い、小川はちょろちょろと流れる1本の水流になる。


 ネロの耳が立った。


 ロイユの裾を引き、ストップの合図と視線だけを動かした。ロイユとソヴィータもネロの目線の先を見る。



 茂みの中――――を歩くシロガネの姿。



 いたるところが血で汚れていて、泥臭さとはちょっと違う。

 声をかけるのも躊躇ってしまうような物々しさに、普段の兄がいかに柔和であるかを知った。

 そんな彼が踵を返せば、水辺近くの岩場へ腰をおろした。


 そこには先客がいた。


 痩せこけた親子。

 彼らに野ウサギを手渡して、母親はそれを我が子の口元へ。


 がぶり、と。


 大きく開けた口には、異様に伸びた八重歯が光っていた。毛むくじゃらな獲物を食べているのではない。


 啜っているのだ、血を。

 生きるために。

 必死に。


 ――――不思議と怖くなかった。のは、ロイユだけで、ソヴィータは叫びそうになる口を必死に押さえていた。



 “想いを寄せていた人がヴァンパイアを助けている”



 ソヴィータはショックだったに違いない。

 村のためにマモノと戦っていたのではなく、ヴァンパイアの親子のために、寝食を削って猟をしていただなんて。見て見ぬふりはできなかった。



 その晩、村長は重い腰を上げ、ロイユたちの家を訪問する。



 帰宅した彼は逃げも隠れも、なんの弁解もせず、村長の物置でしばらく軟禁されることになった。


「ロイユはどうするんだい」

「あの子はなにも知らされてないみたい」

「まさかシロガネが……」

「そんなことより、森にいるヴァンパイアをどうするの」

「ソヴィータの話だと親子のヴァンパイアだって」

「2人もっ……」

「弱ってるうちに殺さなきゃ――――」


 大人たちの小言はロイユにも聞こえてきた。

 2人きりになった家で、ネロに問う。


「……どうして助けちゃだめなんだろう」

「がぅー?」

「あの親子は兄さんを食べなかった。兄さんが持ってくる獲物より、兄さんのほうがたくさん食べられるのに……」


 利己的に動くどころか、子どもを優先して。


「ソヴィータにも言ったんだよ。でも、聞き入れてもらえなかった。動けるようになったら、村を襲うに違いないって」


 八重歯以外、なんらヒトと変わらなくて。


「そんな風に見えなかったのは、私だけなのかな……」と、過剰に警戒する理由が、ロイユにはどうしても理解ができなかった。



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