2口め
その日、シロガネは手ぶらで帰ってきた。
なにも捕まえられなかったときは、川で釣りをしてくるくらいの兄が。
『――また、狩りに行く?』
『あぁ』
『日が落ちようとしてるのに? 危ないよっ』
『月明かりでどうとでもなる』
『がうぅ……』
『おまえのせいじゃない。ネロ、ロイユを頼んだ』
『兄さんっ』
帰ってきたのは、朝方。
――魚が数匹と野ウサギが1匹。
ごっそり減った矢に見合わない獲物。だとロイユは思った。
「兄さん、怪我は?」
「かすり傷だ、心配ない」
「がうがう!」
「ネロも心配だって言ってるよ。私がちょっとでも怪我したら、ぐるぐる巻きにしちゃうのに」
シロガネの前にロイユが立ち、後ろには逃がすまいとネロが、尻に飛びかかる。
かわいらしい包囲網だった。
シロガネはやれやれと言わんばかりに白旗を上げ、イスに座った。
わき腹を見せるため裾を持ち上げれば、引き締まった筋肉に1本の赤い線がざっくり。
かすり傷ではなかった。
慌てて包帯を巻き、しっかり休んでほしくて寝室に押し込むが、ロイユにできることはそれだけ。
(しばらく狩りは控えてって、言えたら……)
一時は落ち着いたかに思えたマモノの数は増えつつあった。
マモノに徒党を組む習性はないが、対面している最中にもう1匹加わることだってなくはない。
生きとし生けるものなら、なんにでも牙を向く。
野放しにしていては動物たちがいなくなる。
退治できるなら、するに越したことはなくても、シロガネが矢面だってする必要は――――ある、のだ。
この村には、もう彼しかいなかった。
他の、働き盛りの男たちは家畜と一緒に喰われたり、猟の最中に狩られて。ネロを拾ったときよりもずっと前から、マモノの危機に晒されているのだ。
そういった事情もあって、シロガネはネロを連れていかなくなる。
万が一、村のほうにマモノが現れたとき、いち早く家に隠れることができれば、すぐには喰われないからだ。
シロガネは仮眠をとって、また森へ入っていく。
ロイユはネロと共に畑へ。
自分にできることは、それくらいだ。
ヒュン。と風を切る音に、ネロの耳が立つ。
隣り合う畑のかかしに、的が。丸太を切っただけの簡素なものが首から下げられて、そこに向けてソヴィータが弓を引いていた。
「がうがう!」
なにしてるのー、なんて声をかけながら、ネロはソヴィータに駆け寄った。
「練習よ、練習! おじいちゃんが小さいときに使ってた弓を使えるようにしてもらったのっ」
ゆくゆくはシロガネに、
――もっと顎をひいて。
――そう。
――良い背筋だ。そのまま、まっすぐ。
「きゃーっ、素敵っ!!」と、ソヴィータの妄想は止まらない。
「……がう?」
「やっとまっすぐ飛ぶようになったの! 距離は、まだまだだけど、この調子ならすぐできるようになるわ! そしたら、お兄さんと猟へ行ける、かも!」
俄然やる気になるソヴィータが、ロイユには眩しく思えた。




