14口め
その日、集落は朝から騒がしかった。
マモノが押し寄せ、外壁に体当たり。
衝撃が地響きとなって、広場に会す皆の不安を煽れば、グ・ゴゴは外に。
新鮮な血肉を求めて、壁を這い上がるマモノの注意を自身に向け、飛びかかってくるやつらの腹を引き裂いて――――シロガネとベルミリオ、ルキスとレインも加わって、少数での攻防戦が行われていた。
「きりがねえっ……!!」
――集落に攻め入ることはない。
シロガネたちの予想は外れた。
自国の、製造に欠かせない鉱物の生産領土を擲ってでも、ロイユを連れ戻したいのか。
――グ・ゴゴがもっと打算的だったら。
――シロガネたちに隠れて、ダズリンに渡す手立てを企てていたら。
――過酷な労働環境で奴隷のような扱いを受けたのなら。
すぐにでも集落から逃げたのに。
「うおおおおおおお!!」
必死で生きる人々のため誰よりも金棒を振り回し、マモノを屠る――――そんな彼をも、オルドの人間は容赦なく凶弾の的にした。
金棒に当たった弾痕に血液が付着する。
「あいつらバカなの!? 集落を攻撃しないかわりにロイユを連れてこいとか、交渉の余地ってもんがあるじゃない!!」
「じゃあ、お姫様人質にして撃ったら殺すって脅すか?」
「そのまえにアタシたちがお兄サマに殺られるって!」
「……キミたち、今、超絶ピンチなの分かってる?」
荒野に立つ5人に遮るものはない。
「オルドの総督って、仙人を目の敵にしてるんだよね。仙人だけ捕らえて、俺たちは撃ち殺されちゃう?」
「地下牢で血ぃ抜かれて、一生飼い殺しだろうよ」
「大人しく白旗振った方が命は助かる……?」
「てめえがそんな腑抜けだったとはな」
投降待ちか。
それとも一斉射撃のためにタイミングを合わせているのか。
なかなか撃ってこず。
口ばかりがまわった。
けれど、妙案は出ない。
グ・ゴゴからの提案も、自らを犠牲にしてのものだった。
「――壁をぶっ壊してお嬢ちゃんたちと逃げな。おまえさんたちなら簡単だろう」
「注意を引くなら俺がする。アンタが率先する必要はない」
シロガネの申し出に、彼は笑う。
「責任なんて感じなくていい。おまえさんたちが来る前から、ここは窮地だった」
そうなった要因が偶然ではないことに、ようやく気づきもした。
「集落の連中も連れ出せとは言わん。ただ逃げ道を、やつらのためにも作ってほしい」
マモノの包囲が薄れた今なら。
その活路を開いたシロガネたちに、次は自分が報いる番だと、グ・ゴゴは彼らの前に立った。
「東の森へ行け。きっと助けになってくれる」
そう道を示して。
風が吹く。
皆の背を押すように、強く――――踏ん張っていないと飛ばされそうな突風が、1羽の鴉を巻き込んで荒野に吹き荒れて。小石が転げ、小枝が舞い上がる中、気流に気流に乗れずにバランスを崩しながら落ちてくる。
必死に、
大きく羽ばたいて、
地面すれすれで着地すれば、ネロが顕現した。
両手をかざして再び風を――――オルドの兵を押し返す。
「無理すんなっ」
「ロイユがね!!」
暴風にかき消されないよう、ネロは叫んだ。
「おとーさんのとこ行くって言うんだ!! そしたら攻撃されなくなるよねって!!」
「自発的に来させようって魂胆ね。あの子の良心をなんだと思ってるの」
静かに憤るルキスに、「ぼくも!」と続く。
「自作自演するオルド、だいっきらい! ロイユはわたさないもん!」
小さな背中が逞しかった。
「ぼくにまかせて!」
グ・ゴゴ自ら脱出を促すことで、集落の人々が散り散りにならなくて済みそうだ。
門を開け、皆を従える。
ロイユだけがその輪から外れ、シロガネたちの元へやってきた。
「兄さん、私っ……!!」
シロガネは前線に立つネロの伝言を、ロイユに伝える。
「オルドに行ったらレインたちと一緒に拐いに行くからね、だそうだ」
「でもっ、それじゃネロがっ……」
「ここに置いてったりしないよ。ロイユちゃんは先に仙人と逃げるんだ」
ブラッドコインも拾っておきたいし、と残留することに気落ちしないよう、ベルミリオもらしさ全開で。
「キミたちも! ロイユちゃん諦めてないなら、さっさと走る!」
ネロの背を見つめていた双子にも声をかけ、東の森へと促した。




