13口半め
――誰が水汲みを手伝えっつった!
――あ? 早いに越したこたねえだろ。
――ガキどもの仕事を奪うんじゃねえ!!
――水が零れねえように、重石になってんじゃねえか。
――ああ言えば……
――おら、交代しろ。んで、アンタは直してこいよ、樽。
太陽が空のてっぺんにやってきた頃、水汲み班が帰ってくる。
かなり早い帰りだったのは、レインが樽と子どもたちごと荷馬車に乗せて、彼が引っ張ってきたからだ。
「素直に言いなさいよ。おじさまに樽の修理してもらいたくて急いで帰ってきた、って」
「うるせえな」
その後、シロガネと門番を代わったレインは、広場に。夕方の準備をしていたルキスに、そのことを指摘されていた。
「ゴゴさんと言い争ってるときはびっくりしましたけど、レインさんかっこよかったです」
ロイユや、その周辺にいる人々にも頷かれ、慣れない賛辞にどう反応していいのか分からない。が、悪い気はしなかった。
「えらいな、レイン!」
一緒になって褒めるネロを見つけ、彼の頭をがしっと掴んだ。
「休んでないおまえは偉くねえな?」
「もうへーきだもん!」
「青い顔して説得力ねえんだよ」
「色白、もともと!」
「青いっつってんだろ」
そのまま担ぎ上げ、レインはネロを確保する。
――ロイユを拐う上で懐柔しておけば。
そう軽い気持ちで買って出た子守りは、すっかり板に付いていた。
夕方の配給を貰い、帰路につく。
担がれたまま、パンと芋を持って「ぷすっ」と膨れっ面なネロはご機嫌ななめだ。
「お姫様はまだ仕事なんだ、仕方がねえだろ」
「ぼくも手伝う……」
「だめだっつってんだろ」
「けち」
「うるせえ」
一見 元気そうでも、芋を片手で掴める握力は戻っていなかった。
落としそうになる芋をレインがキャッチする。
「……ありがと」
「肩、痛むか?」
「だいじょぶ」
「へーき、って言わないあたり、だいぶマシになったか」
「めざとい」
「おまえが分かりやすいんだよ」と、たわいのないやりとりをしている2人に、声をかける子どもが現れた。
「キミっ!」
「あ?」
レインは首だけで振り向くが、小さくて視界に入らない子どもに身体をひねった。
今度はネロが声をあげる。
「あ!」
昼間の、桶の子だった。
お互い確認し合えたところで、桶の子はネロに芋を手渡そうとした。
「昼間はありがとう! みんな、のどカラッカラだったから、すっごく助かったよっ。これ受け取って!」
頭の高さまで芋が上がる。が、レインが担いでいるせいでネロには届かず。降ろしてやれば、改めてネロに芋を差し出した。
焼きたての芋から良い匂いがする。
「ぼくも」
ネロは持っていたパンを、桶の子に渡した。
「これじゃあお礼にならないよっ」
「パン、きらい?」
「このパン、すっごく美味しいんだよっ」
「ぼくは芋のほうが好きだから」
「あ、ありがとうっ!!」
約束した手前、なにに感謝しているのか。
一切ふたりの会話に出てこなかったが、桶の子が広場に戻ってからも気まずそうなネロに、何となく察しがついた。
「治りきってねえ身体で使ってんじゃねえ」
だから、顔が青いままなのだと。
「――ぼくがぶつかったせいだから」
小屋へ戻り、ふやけているであろう包帯を替えようとローブを脱がせば、案の定。
けれど、レインの手は止まる。
包帯の下にあるはずの傷が、ない。
焼け爛れた肌は、撃たれた箇所も分からないくらい、綺麗に治っていた。
多少の効能があろうが、所詮は草――――3日そこそこで完治するような軽傷ではなかったはずだ。
「ふしぎ、だよな」
昼間、巻き直そうとしたネロも自覚済みだった。
小さな手でそこに触れる。
撃たれたところを手のひら全体で確かめるようにして、ジュッ……と焼く。
「おいっ!!」
レインは黄色いハンカチーフごと、ネロの手首を掴み上げた。
肉の、焦げた臭いはしない。
黒煙と黒ずみが多少できただけで爛れてこそないが、自分を顧みない行為に、レインは激怒した。
「アホなことしてんじゃねえ!! 魔術師ってのはヒトとまた違ぇんだろうが!!」
「せ、説明……」
「口で言え!!」
――よく分からないが治ったに越したことはない。
――これ以上傷を増やすな。
――自分の身体を大切にしろ。
などと叱りつけながら、レインは新しくできた黒ずみに薬草を塗り込んで丁寧に包帯を巻いた。
ネロを気味悪がる様子もなく、ずっと言い聞かせていた休息を強いるため、一緒になって木箱の上に横になる。
「……寝にくくない?」
拒絶どころか、がっちり抱き込まれたネロは、レインの胸元に頭をぐりぐりと押し当てた。
「ぼく、もふもふになる」
枕になることで感謝を伝えようとするが、「自分の身体を大切にしろっつった」と一蹴して、その気持ちだけレインは貰う。
共に過ごせば過ごすほど小生意気な弟――――のような感覚に、身内に献身的な彼は目が離せなくなっていた。




