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ウロノカミタマ -Circulation of vampire-  作者: 次野/うずらの


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22/27

13口め



 機織り、パン作り、採掘……割り振られた仕事ごとに、例の粗末な小屋で寝起きする。



 パン班のルキスは空が明るくなりはじめた頃に、機織りの小屋へ行き、ロイユの枕元に立った。

 雑魚寝にも関わらず、すやすやと眠っている彼女の手に触れる。



 働き者の、綺麗な手――――の手首には、ちょっと不釣り合いなブレスレット。


 まじまじ観察していると、熱烈な視線を感じてか、ロイユを起こしてしまう。



「……ル、キス……さん?」



 まだ皆が寝静まっている早朝でもあるので、2人は外へ出た。



「おはようございます」

「――おっはよ」



 挨拶を交わすこともルキスには新鮮だった。



「起こしちゃって悪かったわね」

「いえっ、いつもこれくらいには起きるので」

「早起きねぇ」と関心しつつ、ルキスは訪ねた目的を。



「補充しとかないとかなーって」



 おもむろにロイユの手を引き、腕の中におさめて、首筋に顔を埋める。



「んー……かすかにイイ匂い、かも」



 抱き締めたまま、ルキスは自身の手のひらを噛んで、ブレスレットに血を垂らした。



「うん。ふつう」



 また顔をうずめて、しばらくそれが続く。



「ル、キスさん?」

「こうしてたら、もーっとアタシのニオイにならないかなってね」



 物言いは柔らかくても、がっちりめな肉体美のルキスに、ロイユは速まる鼓動を自覚する。

 シロガネやネロの時にはない、ドキドキだ。



「ほんっと、あったかいな」



 ロイユの心中など露知らず、彼女の体温で温められていく身体にルキスは生を感じて、より強く、けれど壊さないように抱き締めて。



 ――――背後からの殺気で振り向けば、シロガネに思いっきり引き剥がされた。



「朝からなにをしている」

「おーせ?」

「なんだと」

「におい。ちょっと美味しそうだったから、垂らしてたのよ、血」



 ロイユも小刻みに首を縦に振る。



「ならいいが」と、納得したシロガネも手のひらを矢尻でひっかき、ブレスレットに血を垂らした。



 しかし、2人からたっぷり垂らして纏(まと)ったニオイは、パンを焼き終えたくらいに散ってしまう。



 朝食まで時間のあるロイユは、ルキスについていき、パンづくりの お手伝いを。

 ルキスと一緒にこねて、叩いて、成形――――しただけなのに、気が付けば美味(イイ)におい。



 幸いだったのが、ルキス以外ヴァンパイアがいなかったこと。



 すぐさま血を垂らしてニオイを誤魔化すが、今度は焼き上がったパンから美味しそうな匂いがしてきた。


 ルキスでも美味しそうと思う。


 もう新月がやってきたのかと日数を数えても違うし、パンを貰った子どものヴァンパイアたちも同じ反応をした。



「美味しいっ」

「このパンふしぎー!!」



 そして、ベルミリオが「ロイユちゃんの匂いがする」と、こっそり。



「これ、ロイユちゃんの血入り?」

「そんなわけないでしょ」

「一滴入っちゃったとか」

「いたってふつうに作っただけよ」



 それだけは確かだ。


 ふつうに作っていたら、パンにニオイが移った。

 だから、ロイユに追加の血を垂らした――――のは、これが初めてではないことをルキスは思い出す。



 闇市でもロイユにまとわせていたニオイが消えたことがあった。


 あのときは淡い光が、ぽぅっと……――――吸血した時と同じくらいに、身体が満たされていく感覚を思えている。



 もしかしたら。



 ニオイを誤魔化すだ(・)け(・)のブレスレットではないことに、ルキスはまた1つ、姉を助ける手立てを見つけたのかもしれない。




     *




 朝の食事を終えたシロガネとベルミリオは、ネロのいる小屋で就寝――――代わりにレインが水汲みの護衛に駆り出されていた。


 レインもいない。

 シロガネとベルミリオは寝入って。

 ロイユとルキスは機織り中。


 ネロも護衛をすると申し出るが、まだ顔色が悪いからと引き続き休むよう言われて、手持ち無沙汰だった。



「シロガネ、ぼく眠くない」

「横になるだけでも身体は休まる。退屈だろうが自分の身体を大切にするんだ」

「うー……」

「ネロ」

「分かった……」と、シロガネにくっついて横になる。



 ぽんぽんと背中を押され、眠るよう促されるが、眠くないものは眠くない。

 次第にぽんぽんの間隔がゆっくりになり、背中にぴたっと手のひらを感じる頃には、シロガネの寝息も聞こえ始めて。


 ネロはもぞもぞっとシロガネから離れ、小屋を出た。



(じゅーぶん休んだもん。ロイユならお手伝いさせてくれるかなっ)



 動いてないと、逆に身体が鈍ってしまいそうだった。


 まわりが言うほど、だるいとか痛い、はない。



 ――あぁ口惜しい。



 そう頭に直接嘆く言霊のほうが うんざりだった。


 寝ても覚めても、ふとしたときに。

 男の人だったり、女の人だったり、いろんな声で『くちおしい』と。



(うるさいっ……!!)



 ネロは雑音を払いのけようと、ぶんぶんと頭を横に振る。


 揺れる視界に目を瞑り、広場に向かって歩き始めれば、出会い頭に桶を担いだ子どもとぶつかってしまった。と、同時に、ネロは顔面から水を被った。



「あっ!!」

「わっ!!」



 双方が声を上げたときには、すでに事後。



「ご、ごめんっ……」

「ぼくのほうこそ、お仕事のじゃましてごめんなさい」



 滴る水はただの新鮮な水だった。

 そのうち乾くので大して気にしないネロに、桶の子は涙目になっていた。



「どうしたの? すごく怒られる?」

「……さいごの一杯だったんだ」



 聞けば、水を入れている樽が1つ壊れたらしく、すごくかつかつらしい。



 代わりに汲むことを提案するが、川辺までの地理に疎く、仮に行けたところで、子ども1人では門番をしているグ・ゴゴが通してくれなかった。


 しかし、水は必要だ。


 言霊に苦しんでいたとは言え、前方不注意だったネロは責任を感じ、桶の上に手をかざした。



 ――冷たくなれっ。



 いつもとは逆に力を込めれば、水晶のような氷の塊が精製されていく。

 それをその場に滞留させて、今度は熱を。

 形を保てなくなった氷は液体となって――――桶に溢れた。



「……ど、う?」



 端から見れば、無から産み出した、奇(あや)しさこの上ない透明な液体だった。


 案の定、桶の子は目を見開き…………、「水だっ」と喜んだ。



「すごいねっ、どうやるのっ?」

「あ、えあっ」



 想像していた反応とは違うネロは、しどろもどろ。



「ぼ、ぼくもよくわからない……けど、ひみつにしてくれると……うれしい」



 くたくたになったローブの首回りを持ち上げて、視線をそらした。



「分かったっ。ぼくとキミだけのひみつだねっ」



 そんなネロに、桶の子は自身の足首にもある同じような痕に境遇を重ねて、ただただ感謝する。



「本当にありがとうっ、急いで運んでくるよっ」



 ――辛い思い出があるのに、不思議な力で助けてくれて。



 言葉にしなくても伝わってきた温かさは、ネロの『口惜しい』を黙らせるほどのものだった。



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