12口め
「……しゃくしゃく」と音を立てながら、ネロはレインの背でリンゴをかじる。
オルドに続きオレイアンへの道中も、彼に担いでもらっていた。
――代わろう。
闇市が見えなくなるまで離れたところで、シロガネが声をかければ、『だめだ!』と。
答えたのはネロだった。
――ロイユを拐っちゃうだろ? ボクが乗ってれば、レインは動けないっ。
彼なりにルキスやレインを警戒しているのは頼もしいかぎり…………なのだが。
「いる?」
「いらねえ。黙って食え――って、おい、こら。汁垂らしてんじゃねえぞ」
「しる、じゃない。リンゴのかけら」
「だから黙って食えっつったんだ」
「とる?」
「いいから大人しく食ってろ」
変に面倒見の良いレインに丸め込まれそうで、シロガネに密かな危機感が募る。
「ちょっとでも疲れたと思ったら、すぐ言うのよ?」
「大丈夫、です」
「ホント? アタシに担がれたくなくて遠慮してる?」
「してないですっ。ルキスさんこそ大丈夫なんですかっ、ベルミリオさんが闇市で買ってきた血、飲んでないのに」
「アンタで満たされてるから、だいじょーぶ」
ロイユの方も。シロガネの後ろを歩いているとは言え、その隣にはルキスがいて、とにかく親しげだった。
ルキスの接し方がだんだん柔らかくなっているのは、気のせいか。
絆されているのはこちらではない、と思いたいところ。
「集落まではもうしばらく歩かないとだし、ちょっと休憩する?」
共に前を歩くベルミリオにも、シロガネの警戒は向けられていた。
「……無理してついてこなくてもいいんだぞ」
「え!? そんなに休憩ダメだったっ? 四の五の言うやつはついてくるな、的なっ!?」
「おまえには来る理由がないだろ」
「なぁんだ、水くさいなぁ。俺たち一蓮托生でしょ!?」
「……」
「定住してるとこなんてないしさ、かといってマグメルにひとりで戻るのは……。仙人たちがいるから俺も使わせてもらえてるだけであって」
親指と人差し指をくっつけて、「しっかり稼がせてもらってるし」と、八重歯を見せてニカッと笑う。
「それにさ。仙人たちといると優しくなれるっていうか。あり得ないじゃん。親切にした分、親切にされるって」
最初声をかけたときだって、下心しかなく。
ロイユを襲った前科があるも、バカ正直に偏食含めて白状すれば、それ以降も変わらずに接してくれる。
「……ネロがキミたちから離れたくないって言ってたの、納得だなって」
ベルミリオは少しだけ後ろを振り返り、目を細めた。
「仙人やキリュウさんがロイユちゃんのお婆ちゃんを慕う気持ちも、こんなんだったんだろうな――――なんて、ね!」と、とってつけたような語尾で、ベルミリオは心情を照れ隠した。
「1度でいいから純血を味わいたい、なんて思ってないから!」
おそらくそれが1番の目的だろうが、驚異とみなさないシロガネも自身の警戒心の薄さを苦笑するしかなかった。
*
そうして、山肌むき出しの山道を歩き、集落に到着する。
丸太の壁と獣除けの柵に囲まれ、開きっぱなしの門はどうぞ通ってくださいの佇まいで。そこから見える露天掘りは、干からびたヒトやヴァンパイアがつるはしを持って、ひたすら土砂を削っていた。
その土砂を運ぶのも、運んだ先にあるベルトコンベアーの原動力も、すべて人力だ。
皆、痩せ細っている。
「ここには売れるもんなどないぞ」
集落をのぞき見る一行の前に、ここを仕切る男グ・ゴゴが現れた。
顔や腕には古今の傷跡が所狭しと。
縦にも横にも大きな男は巨大な金棒を引っ提げている。
「鉱物はオルドが独占しておる。どんなに値をつり上げても応じれんぞ」
「買い付けにやってきたわけじゃなくて」
「ん?」
だったら、こんなところになんの用だ、と首を傾げた。
ベルミリオが商人で、シロガネがその用心棒だと思っていた男は、後に続く女子と背負われている子どもの存在に考えを改めた。
「オルドの属領なのか?」と、シロガネの問いもプラスされ――――『訳あり』なのだと。
「――追われてるのか」
男は口角を上げた。
「遠路遙々と言いたいところだが、ここに休む場所はない。働かざるもの食うべからず。その子どもを休ませるかわりに、ここで働くというなら迎え入れよう」
「どうする、仙人」
ベルミリオは声を潜めて、「なんか一生働かされそうじゃない?」
それこそ、痩せ細るまで。
「つるはしなんて振れないんだけどー」
「は、偉そうに」
ルキスやレインも口々に不満を垂れるが、リンゴをお腹いっぱい食べて眠っているネロの顔色は、あまり良くなかった。




