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ウロノカミタマ -Circulation of vampire-  作者: 次野/うずらの


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16/27

10口め



 ロイユたちが居住区にいる頃、大手門にはシロガネの姿があった。



 ロイユが連れ去られてから半日もしない間に、オルドは兵を派遣して、『我が領土で不遜を働いたヴァンパイア』の引き渡しを求めてきた。

 シロガネはそれを、オルドに入り込めるチャンスだ、と。

 大人しく連行されれば、到着するや、兵たちは自国の混乱に対処せねばならず。シロガネの監視は薄れ、早々に自由の身となっていた。



 大手門を開けても、閉じても地獄。

 恨み辛み、これまでの鬱憤を晴らそうとヴァンパイアたちは束になって、ヒトに襲いかかっている。


 どれだけ囲っていたのか。

 どれだけの仕打ちを行ってきたのだろうか。


 四肢をもいで、溢れ出てくる血にむしゃぶりつき、肉も残さず食らい尽くして。


 オルドの弾丸にも怯まず、マモノまで乱立し始めた広場での攻防は苛烈を極め、これ以上先へは進めそうにない。



 ――――の、なら。シロガネはヴァンパイアが湧き出てくる地下へ。そこから居住区なり、武器庫なり、どこかしらに繋がっている、と。


 しかし、悪臭と呻き声が渦巻く地下牢に、そんな道はあるのか。


 扉をぶち破る力のないヴァンパイアたちが取り残されて――――この時はまだ、短命に抗って収監された人々という認識だ。



「出してくれっ……」

「出たい……」

「やつらを……」

「喰う……」



 血を抜くために集められているとは思わず。


 奥に進むと、一際元気そうなヴァンパイアの姿があった。



「うるせえな。自力で出れねえやつに、ヒトが襲えるか」



 こちらはロイユを拐おうとした、レインだ。

 けれど、シロガネは誰だか分からず、通せんぼする同族(おとこ)にすぎなかった。


 話して道を譲ってくれそうになく、拳で解決するしかない様子。


 殴り合い――――かと思いきや、繰り出してきた拳の先から、ナイフの刃が飛び出してきた。シロガネは間一髪のところで、身体を後ろに反らせたが、少しでも遅ければ喉を突かれていただろう。


「さすが、お姫様の用心棒」


 その言葉で、ロイユを拐おうとした2人組の片割れだと気づき、シロガネの顔つきが変わる。


 叩きのめす――――その前に、彼らには聞きたいことがあった。



 彼らが口々にする“お姫様”



 ロイユが王族の末裔だと知る者は、そう多くない。



 誰かがリークしたのか。

 血質から憶測してそう呼んでいるだけなのか。

 他に仲間がいるのか。

 ただ情報を売買しただけの間柄なのか。



 純血を少数でどうこうしようというのは、身をもって無謀だと思い知らされたシロガネからしてみれば、彼らを駒にする集団があったって、なにもおかしくはない。



「考え事か? 余裕ぶっこいてんなあ!!」


 きな臭いところなんて、ごまんといる。

 大勢でいれば、それなりに悪名が広まって認知されるというのに。それもなく、マグメルではしっぽが掴めないでいた。


 突きだした拳。

 蹴り上げた足。

 そこから飛び出ることもあれば、飛び出ないこともあるナイフ――――に気をつけながら、シロガネはレインの捕縛を試みる。


 生ぬるい反撃だった。


 みえみえの足払いも、隙あらば鳩尾を狙おうとする追撃も、レインを逆撫でするものでしかなかった。



 手加減されている。

 舐められている。


 なのに、自分の攻撃は当たらない。



 圧倒的な差を分からせられて、苛立ちが積もっていくレインの視野は狭まり、シロガネしか眼中に入らなくなる。



 物陰に潜み、機会を窺っていたヒトの存在の気づけず、例の弾丸がレインに放たれた。



 銃声が響きわたる。



 ――どちらも倒れそうにないなら、マモノにして喰わすまで。



 響きわたって、ようやくレインの集中が離散した。


 強引に腕を掴んだシロガネによってバランスを崩し、彼は被弾を免れて。

 かわりに、檻の中のヴァンパイアに命中する。


 生まれ出たマモノは暴れ回って、檻を破壊した。新鮮な肉(ヒト)はなす術なく喰われ、レインとシロガネに牙を剥く。が、2対1ではヴァンパイアに軍配が上がった。



「大丈夫か?」

「うるせえっ!!」



 結果的に助けられたレインは、敵だとも思っていないようなシロガネの態度が癪に障るが、苛立ってばかりでは埒があかないと、感情を握りつぶした。



「――通してやる。ただし、途中までは付いていく。アンタがいれば、中に入れそうだからな」

「かまわない」

「……おまえ如きなら、いつでもぶっ潰せるとでも思ってんのか?」


 すんなり了承するシロガネに、また再燃しかけるが「聞きたいことがある」と投げかけられて、ただ助けられたわけではないことに納得する。


「なぜロイユを狙う?」

「は?」


『王族の末裔であることをどこから知ったのか』では、認めてしまっているようなもの。

 だが、シロガネの真意は伝わらない。


「据え膳食わねえヴァンパイアがいんのかよ、って言いてーとこだが今回は(ヽヽヽ)違ぇんだよ」


 今回は、を強調するレインは、心底面倒くさそうに続けた。


「薄っぺらい作戦立てて、単身で乗り込んでいったバカを連れ戻すのが先」



 ――アタシとイイコト、しましょ?


 シロガネの頭を過った人物で間違いない。



「二兎を追えるほど、ここは甘くねえからな。それに、お姫様ならアンタや、あの魔術師もいんだろ……って、なに驚いた顔してやがる」

「片割れの方が大切だと言っているように聞こえる」

「全ヴァンパイアがお姫様に首っ丈なわけねーだろ」と、はぐらかすが、見捨てる気はないようだ。



 利害だけで動いていない。

 少なくとも、レインは。

 今はその情報で十分だろう。



 彼の言う通り、オルドは甘くないのだ。



「ああっ……」

「たすけ……!!」

「来るなっ……」



 恨み節だったヴァンパイアたちから悲鳴が上がる。


 網の目の通路が蠢けば、黒い塊が乱立していた。巣窟と化しつつ広場から血肉を求めて、地下にも。


 扉を開ける知恵はないのだから、檻の中で大人しくしていろ――は無理に等しく、マモノに喰われるぐらいならと、同族に噛みつき出すヴァンパイアも現れ、一気に数を増やしていく。



 逃げ場のないレインとシロガネは、とにかく走った。


 奥へ。

 奥へっ。

 奥へっ……!!


 当初目論んだ、地上の区画と繋がっていそうな部屋へ、鉄の扉をぶち破る勢いで押し入った。


 すぐさま、室内にあった樽で、入ってきた扉を塞げば――――危機は脱した。が、むせかえる臭いに吐き気を催した。


 地下牢の不衛生から来るものとはまた違う、鼻腔を突き抜けて脳天に警告する。



 “同族を喰らうことの危険性”



 並べられた樽すべてがヴァンパイアの血であり、熟成されたそれを用いて、さまざまな弾薬に加工する研究室のような場所だった。

 蓋を閉めれば串刺しにできる、人型の鉄の箱も健在で。

 骨の代わりに残る わずかな灰を被り、錆び付いた棘は欠け、乾いた血がこびりついている。


「はっ……クソどもが……」


 レインは鼻を摘みながら、作業台に置かれた古式銃とその弾薬を胸に忍ばせた――――その様子をシロガネに凝視され、ひと睨み。


「なんだよ。盗みを咎められる筋合いはねえぞ。使えるもんは使うが俺のモットーだ」

「あぁ」

「……」

「……」

「だから、なんだってんだよ!! 視線で語るな!!」

「おまえを呼ぼうとしたら目が合った」

「あ!?」

「肩を貸してくれ」


 さらに奥へ続く扉は堅く閉ざされているが、扉の上に通気口を発見する。そこを指さすシロガネと、彼の体格を比較して、「てめえが土台になれ」とレインが通気口をぶち抜いた。



 かんぬきを外し、階段を駆け上がる。



 その先は工場エリアと第一居住区の境目だった。

 バラック小屋の上に、またバラック小屋を建て、そこへ行くための道を作っては行き止まり――――継(つ)ぎ接(は)ぎだらけで入り組んだそこは、広場からの侵攻を食い止められてはいるものの、すでに戦渦となっている第一居住区からの板挟みで、こちらも乱戦状態にあった。



「生存者はニ(に)号(ごう)へ急げ!!」

「イ(い)、ロ(ろ)は共に閉鎖、ハ号も閉門を開始した!!」


 入り組んだ場所が故、避難に時間を要していた。

 最上階にいると疑わないシロガネと、もれなくそこにいるであろう弟を追うレインは、逃げまどうヒトに続き、上を目指した。


 口さえ閉じていれば、ヒトとの区別なんてつかない。

 そう思っていた矢先、シロガネに向かい風が吹く。



「お待ちください!!」

「ソヴィータ様、なりませんっ!!」



 少し開けたニ号門前で守りを固めている兵士たちが、見知った顔を必死に止めていた。


「塔に行ったきり誰も戻ってきてないじゃないっ。ダズリン様の身になにかあったんだわっ」

「反対側のエリアとはかなり距離がありますゆえ、何卒!!」



 そのやりとりを聞いたシロガネは、門を通らなくてよくなる。

 壊滅状態の下層に留まる理由は、ロイユだ。

 塔と呼ばれた場所が同じ階にあるのなら、上に行く必要はない。



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