7口め
例のお祭りの日がやってくる。
数日前から検問所を閉め、怪しい者は徹底的に街から排除する。
すべてはこの日のため。
朝からお祭りムードのマグメルには、特設会場が設営され、あれよこれよといろんなものが運ばれていた。
酒樽は言わずもがな。屋台なんかも乱立して、トトたち市場組が酒に合う料理をこしらえたのが発端だったとか。
全面的にヒトが協力、お祭り騒ぎにするのはマグメルだけらしく、周辺からの訪問者も多いらしい。
日が暮れ、花火が打ち上がる。
開始の合図だが、特設会場ではすでにヒトがごった返しており、キリュウのテンションも最高潮だった。
「お嬢ちゃんも楽しんでくれ! ただし、怪しい誘いは無視するように!!」
マスクも外れ、八重歯もなくなり、ただの屈強なヒトである彼は、景気付けの一杯を呷った。
「ぷはっー!! お嬢ちゃんもどうでい!?」
「さっそく絡むな、酔っぱらい」
シロガネは飲むより食い気――もっと言うなら、ロイユのごはんが良かったのだが、ロイユが初めてのお祭り、ということもあって、会場にやってきていた。
「がうがうっ」
「串を外してやるから、ちょっと待つんだ」
ネロもお祭りの空気に感化されたのか、はたまた牛串なる良いニオイが待ちきれないのか、シロガネの腰めがけて立ち上がる。
「兄さん、私これ食べていい?」
「あぁ。キリュウの奥さん曰く、あまじょっぱくてロイユちゃんにオススメ! だそうだ」
もぐもぐと頬張り、「兄さんもひとくちっ!」と、弾ける表情にシロガネは目を細めた。
その一方で手が止まる彼に、ネロは吠える。
「がうがう!」
早く外して、お肉ちょうだい! と。
けれど、ロイユも無視できないシロガネは、それを同時にやるしかなかった。
肉を外しながら、顔だけロイユに向けて、肉を横に引く。
口端にべったりタレをつけて、ネロに肉を与えるシロガネに、キリュウは爆笑した。
「お兄ちゃんしてるねえ!!」
「うるさい」
そんなやりとりすら目立たないほど、会場は賑やかだ。
「さあさあ今月もやってまいりましたッッ!! 真の酒豪を決めようじゃありませんかッッ!!」
壇上に立った男の合図で、またもうひと盛り上がり。
「我らが代表キリュウVSッッ、泣かせた女は星の数? 実は旧友だった寡黙なお兄ちゃんシロガネぇぇ!!」
「は?」と、キリュウを睨めば、本人は にやにや。
「酔うと赤ちゃんだもんなあ、シロガネ。お嬢ちゃんにそんな格好悪いとこ見せられんよな」
「はァ?」
断れば肯定したようなもの。
まんまと挑発に乗ってしまったシロガネは、キリュウと壇上へ上がった。
「さらにこの方、ダークホースの参戦だあ!! 旨いつまみをありがとう、その凪いだ表情は崩れることを知らない・市場の女店主トトさぁん!!」
補足情報として、前回並みいるヴァンパイアたちを酒浸りにしたとか、してないとか。
「その2人もべろんべろんにしちまえー!!」
「頑張ってー、シロガネさぁん!」
「代表の意地を見せてやれー!!」
各々の推しに叫ぶ中で、「さあ誰に賭ける!?」と雑踏に投げかける声も。こんなときでも金を稼ぐベルミリオだったが、彼もしっかり串焼き片手に、ひとときを謳歌していた。
*
――アンタも行ってきなさいよ。
――俺たちは遊びに来たんじゃねぇ。
――そんなギラッギラな顔してると衛兵につまみ出されちゃうわよ?
会場を囲むように設営された2階席の隅に陣取る、旗袍風の装いに身を包んだ2人組がいた。
「やっと石ころ集めから解放されたのに。アタシも串焼き食べたーい」
長い前髪をかきあげ、整った顔で思いっきり甘えるルキスと、常に塩対応のレインは双子の兄弟だ。といっても、生まれた瞬間が一緒なだけで、顔も性格も似てはいない。
「てめえで買ってこい」
「えー、おーねーがーいー。お兄ちゃんでしょお」
「可愛くねえんだよっ。俺より筋肉つけやがって」
「あらやだ。じゃあ、アタシがお姉ちゃんー」
「あ・に・き、な!!」
「弟の自覚してるじゃない。パシられなさいよ」
「誰がっ」
「じゃあ、可愛い可愛い弟のために買ってきなさいよ」
お兄ちゃん? と見下せば、レインは苦虫を潰した顔して階段を下りていく。
「しっかり見てろよ」
「はぁーい☆」
美しくもあり、たくましさも兼ね備えたルキスは、ロイユに視線を戻した。
小さな黒豹を従え、身内を応援する彼女のそばには取り巻きがいる。
酒に、祭りに惚けていても、そこは怠らないよう。
――どう近づくか。
密かな悪意は、ゆっくりと雑踏に紛れていった。




