表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
契約魔導師のレシピ帖  作者: タキ マサト
五章 ブリヌイの誓い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
79/91

79話 手紙


 秋の深まる中、イリアとスヴェトラーナから手紙が届いた。

 まずスヴェトラーナの便箋を開く。

 王都に帰ってから二人はちょくちょく会っていたらしい。


「け、結婚!?」


 スヴェトラーナの手紙を読んでいて、思わずお茶を噴き出した。

 お似合いの二人だけど……


 スヴェトラーナは親に結婚相手を決められそうになって、相談しているうちにイリアといい感じになったと書いていた。


「昔から知ってる伯爵家の御曹司だけど、本当に嫌なやつなの」

「そ、そうなんだ……それは仕方がないかも……」

「いつまでもドミトリさまを追いかけるなとお父様に叱られました」


 ドミトリさまをお願いしますと最後に書かれていた。

 ヴェーラ師しか認めませんと。


 結婚か……


 私は所長と結婚する想像をしてみた。

 ぶんぶんと頭を振る。

 まずは所長を見つけないと。


 そしてイリアとスヴェトラーナの二人を思い出す。


 絶対イリアはスヴェトラーナの尻に敷かれる……


 イリアの手紙には、王弟が新たに国王になったこと、王都はようやく復興してきたこと、グロモフ局長が魔導統合局長官に復帰したことが書かれていた。


 軍はオルロフが魔族を利用してクーデターを起こそうとしたこと、レオニード大佐が神話の竜と契約し、ドミトリ中佐と協力してオルロフの野望を阻止したと発表したことにイリアは腹を立てていた。


「俺たちの働きは闇に葬られたらしい」


 でも、それはエフロシーニャがレオニードに頼んだ筋書きだった。

 レオニードは強硬に反対したというが、軍をまとめるにはその英雄的な武勲は必要だった。レオニードは少将に昇進し、実質的な軍のトップとして再編をしているとエフロシーニャは人の悪い顔で笑ったのを思い出した。


「わしらが表に出るわけにはいかんでな」

「実際レオニード連隊がなければ、魔族の侵攻は防げなかったわけですし」


 私も異はなかった。

 目立つのは避けたい。


 イリアはしばらくは契約局で後始末をするが、落ち着いたら王都で魔導師事務所を開くと書かれていた。


 ああ……スヴェトラーナさんと事務所を開くんだ。


 いいなあ、と思う。

 私も所長とまた働きたい。


 イリアの手紙の最後にスヴェトラーナと結婚することになったこと、春になったら村に挨拶にくることが書かれていた。


 二人にすぐに返事を書こうとペンと便箋を取り出した。


 帰ってすぐの頃は、魔導の制御がまだできずエフロシーニャに叱られてばかりだったけど、最近、コツを掴めてきていた。

 もう魔導銃で王宮の壁を吹き飛ばしてしまうようなことはしない、と返事を書こうかと思ったがやめた。


 村での厳しいエフロシーニャの修行の日々、灰色魔導師として出直すこと、そして絶対に所長を探すこと、そして結婚おめでとうと返事を書き投函する。

 配達員は週に一回、来週来る。


 結婚か……


 所長……どこにいるの?

 必ず戻る、と言ってくれた。

 信じていいの?


 いいえ。

 絶対に探し出して助けます。


 その次の日は隠れ家で修行だった。


 エフロシーニャの指導は厳しかった。

 魔導の制御はまだ難しい。

 どうしても威力が大きくなりすぎてしまう。


「しばらくは連唱で体で覚えさすか……危険じゃな」

「はい……」

「ドラグでなければ、体がもたん」


 ドラグ相手に身体付与の魔導をかけていた。

 ドラグは強すぎる力を与えられ、解除をするとぐったりと崩れ落ちた。


「ドラグ……ごめん」

「ほれ、カーシャを食え」

 

 ドラグはカーシャを流し込むと自分の部屋に戻り、しばらく起きて来られなかった。

 観測魔導では、あれから魔族も所長の反応も見つからなかった。

 王国軍の不穏な動きもない。


 冬が近づいていた。

 アイカにエフロシーニャとの連唱で敏捷さを上げる付与魔導をかける。


「もう少し魔導の流れを絞れ」

「やっているつもりです」

「バウバウッ!!」


 アイカは隠れ家を猛スピードで走り回り、ドラグでさえも追いつけなかった。


「……制御ができぬうちに神の魔導陣が発現した弊害じゃな」

「はい」

「冬の間は魔導瞑想じゃ……そんな顔をするでない」

「……はい」


 エフロシーニャはため息をついた。


「回復魔導を極めるためには、医術も学ぶ必要がある」

「はい……」


 治療院の書斎に並ぶ医術書を思い出し、気が重くなった。


「時間はたくさんある。ゆっくりとじゃ」


 そんな私を見てエフロシーニャはため息をついた。


「雪が積もる前にスズダールの街まで行くかな」

「え?」

「魔導具と薬を売って冬支度をするぞな」

「はい!」


 思わず目と口が開いた。

 久しぶりの街だ。


 美味しいもの食べて、買い物して。

 スズダールは私が王都に行ったときに初めて訪れた街だった。


 帰省のたびにこの街に泊まった。

 直近は素通りだったけど。


 でも、はっと気がつく。

 軍の施設もある。

 もう軍の指名手配は解けているとエフロシーニャは言ってはいたが、あの逃避行と干渉魔導師に攻撃されたことを思い出した。


 彼らは侵蝕の魔導は受けていなかったはず。


 何かトラブルが起きない?

 大丈夫なの?


「今なら軍も冬支度で忙しい。魔族の怪しい反応もない」

「ありがとうございます!」

「ヴェーラのためじゃないぞな」


 日が暮れるのが早くなり、北風が強くなっていた。

 その日の午後、マリーナから手紙が届いた。


「マリーナ! 無事だったんだ……」


 私はその手紙を胸に抱いて安堵の息を吐いた。


「親愛なるヴェーラ」


 懐かしい筆跡に思わず目が細まった。 


「この手紙が届くことを祈って書いています


 契約局での悪魔化事件を聞いて、ヴェーラが指名手配を受けたことを知りました


 その後、オルロフのクーデター、竜の出現、オルロフ失脚と立て続けに起こり


 私も混乱の中にいました


 でも、契約局の事件を聞いて、私はヴェーラの故郷に向かっていたので、王都の混乱


 には巻き込まれずにすみました」


「良かった……無事で」


 マリーナに故郷のことを教えていたことを思い出した。

 続きを読み進めていく。

 スズダールには北方師団の基地がある。

 そこで取材をすることになったと続いていた。


「神話の竜……獣化の民の解放……


 そこにはヴェーラの影がちらついて止みません


 オルロフも魔族の首謀者ムラークチュマも


 (ソースは内緒です)


 まだ捕まってはいません」


「さすが、敏腕記者……どこまで突き止めたのだろう」


 私は竜や獣化の民の言葉を見たとき、どきっとした。

 でも、次の文章を読んだとき、思わず立ち上がってしまった。


「取材の最中、ヴェーラの事務所の所長ドミトリ師を


 スズダールの街で見ました」


「!!」


 所長……


 消印を見ると半月前だった。


「もうしばらくスズダールの支社で取材を続けるつもりです」

「!!」

 

 私は手紙を持って立ち上がった。


「まだ、近くにいるはず! 吹雪く前に山を降りないと!」

「バウバウッ!!」


 私は日が暮れて真っ暗な中、治療院に向かって駆け出した。

 アイカが嬉しそうに着いてきた。

 厚い雲がかかり芯から冷える。

 そろそろ初雪になりそうだった。


 治療院の扉を叩くと眠そうな顔をしてドラグが出てきた。


「ドラグ! エフロシーニャ師を!」

「なんじゃ! 騒々しい!」


 エフロシーニャは寝巻きのまま不機嫌な顔をして魔導灯をつけた。


「これを! 所長が! スズダールの街で見たって!」

「落ちつきなさい」


 エフロシーニャはマリーナの手紙にさっと目を通すと首を横に振った。


「半月前じゃ。スズダールにいるかは分からん」

「まだいるかもしれません!」


 エフロシーニャはため息をついて、私を睨んだ。


「スズダールは北への玄関口じゃ。装備を整えたのじゃろうが」

「ではもう北の地に入っている……?」

「吹雪く前に乗り込むつもりか……」


 そして私をジロリと見て、ため息をついた。


「少し早めて明日、出発しようかの」

「はい!!」


 所長、まだスズダールにいてください……

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ