表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
契約魔導師のレシピ帖  作者: タキ マサト
五章 ブリヌイの誓い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
78/91

78話 観測


「レオニード少将から手紙が来ました。明日から隠れ家に行きます」

「はい!」


 待ちに待った隠れ家での観測だった。

 ようやく所長の魔導反応を探すことができる。


 エフロシーニャは毎週のようにレオニードやグロモフたちと手紙のやり取りをしていた。

 

「ドミトリのやつは、軍も探しておるが……」

「……はい」


 私たちはドラグに飛んでもらって隠れ家に向かった。

 アイカにはハーネスをつけてリードをドラグの太い腕に巻きつけた。

 そして私はアイカを胸に抱えた。

 ドラグの太い腕は不思議と安心感があった。


「ひとっ飛びじゃな。これは楽じゃ」

「……」


 エフロシーニャは無邪気に喜んでいたが、私はまだ慣れず怖さが先立った。

 でも、早く所長の行方を確かめたかった。


「あの晩から、ドミトリのやつは逃げた魔族とオルロフを追いかけて行方不明じゃ……」

「……」

「軍はまだ混乱してるでな。まだ魔族に操られた魔導師が王国中に潜伏しているようじゃ」

「……」


 隠れ家では魔導の制御を兼ねて、観測を行った。

 イリアとスヴェトラーナと四人で行った古代の魔導陣での観測ではなく、後世に作られた観測部屋だった。


「ここは使わないんですか? 疾風ヴォルトは一人で起動させたんですよね?」

「まだヴェーラでは起動はできても、制御できんでな。一気に魔導を失って気絶するじゃろな」


 エフロシーニャはため息をついてその広間を通り過ぎた。


「あの神の魔導陣の扉から地下にいけば、また何か貰えるかも」


 あの神の魔導陣のある扉に物欲しそうな目を向けた。

 でも、それもエフロシーニャは首を横に振って言下に否定した。


「必要ない。また空船が出てきても持て余す」

「……そうですよね」


 もう操縦してくれるイリアはいない。

 私たちでは動かせない。


 そう何度も古代の遺物が出てくるとは限らない。

 

「もし何か与えられるとして、そのときに空船があったらおそらく何もでてはこないじゃろ」

「……はい」


 私たちは連日、小さな観測魔導部屋で所長の魔導反応を探った。

 でも何日経っても所長も魔族の魔導反応も見つからなかった。


「所長の魔導反応は、まだ見つからない……」

「やつに隠密させたら、誰にも見つからん」


 観測魔導は朝昼晩に一回ずつが限度だった。

 一時間ほどで私の魔導の流れが不安定になる。


 ドラグにも手伝ってもらったらと思ったが、異質すぎてノイズになるとエフロシーニャは否定した。


「観測魔導って、疲れますね」


 最初のうちは観測のたびにぐったりと倒れ込んだ。

 その後の食事は決まってエフロシーニャの特製カーシャだった。

 食の進まない味に匙が止まった。


「ほれ、ドラグみたいに食わんと、夜の観測ができんでな」

「……はい」


 週に四日隠れ家に行き、三日は治療院で過ごしながら一ヶ月が経った。

 

「でも、一度も感知できないなんて……」

「そろそろ、神の魔導陣も消える頃じゃろ」


 所長は干渉魔導の封印をしても半年で消えてしまうほど、魔導拒絶反応が高い。

 神の魔導陣も数ヶ月しかもたないだろうとエフロシーニャは予測していた。

 そのころには所長の抉られた本来の魔導陣も修復されているはず。


 でも、所長が動き出すとして冬になったら移動は困難になる。

 

「神の魔導陣が消える前に行動をおこすはずじゃ」

「春まで待てないですよね?」


 そしてあの魔族……ムラークチュマ……


「あの魔族の反応もないです……どこに消えたのでしょう?」

「北じゃな」


 北の魔族の拠点は強力な結界に覆われていて、魔導の観測が難しい。

 加えて厳しい自然と地形が軍の侵攻を困難なものにしていた。


「もうすぐ冬になる……」

「雪が積もったら、どこで過ごすのですか?」


 私が子どもの頃は冬になるとエフロシーニャも村で暮らしていた。

 吹雪いたら治療院には簡単に戻れない。ドラグでも遭難する危険があった。


「村じゃな。村人の健康を守らなければならん」

「そうですよね……」


 冬の間は観測できなくなる?

 また所長との再会の可能性が少なくなる。


 私は治療院と隠れ家以外では魔導を流さずに過ごしていた。

 少しでも魔導を流せば、エフロシーニャの指示を受けたドラグが走ってきて私は治療院に閉じ込められたのだった。


 秋の深まる頃、観測部屋で微かな魔族の魔導反応を確認した。


「! エフロシーニャ師!」

「静かにせい」


 エフロシーニャは観測魔導部屋の床に刻まれた魔導陣に少しずつ魔導を流していく。

 私も細心の注意を払いながら魔導を注ぎ込んだ。暴走するとエフロシーニャの魔導も流してしまい、すぐに向こうに気づかれてしまう。


 汗が額に滲んだ。

 極限の集中力が必要だった。

 

 息詰まる時間の中、ぼんやりと映像が浮かんできた。

 古代魔導陣で四人で見たヴィジョンよりも映像は粗い。

 

「ムラークチュマ……」


 ムラークチュマの黒フードの隣にはオルロフの姿もあった。

 その右腕の袖は力無く垂れ下がっていた。

 そしてその二人の側には何人かの魔導師が一人の獣化の民を囲んでいるのが見えた。


「北の地に取り残された獣化の民が捕まったのじゃな」

「……」


 横たわる獣化の民にムラークチュマの左腕が伸びると再び強い魔導反応が現れた。

 そして私が契約したシルニキの魔導陣が抉られたようだった。


 ふいにムラークチュマが顔を上げた。

 その目が私を捕らえたような感覚があったとき、ふいにヴィジョンが断ち切られた。


「気づかれたな、さすがというべきか……」

「エフロシーニャ師……ここは、どこですか?」

「北じゃな……」

「……北」


 魔族の領域。


「魔導障壁の強い北の地じゃ。ヴェーラの魔導制御がうまくできてこそ観測できたが」

「……」


 エフロシーニャはレオニードを通して軍とやり取りをしていた。


 レオニード隊と空船で魔族の大規模な侵攻を退けたものの、魔族の指導者たちはまだ健在らしいとのことだった。

 戦場で倒した魔族を検分したが、主要な魔族の指導者たちの遺体は見つからなかったとエフロシーニャは言った。


「所長も、北にいるのですか?」

「ネームド級の魔族がわんさかおる北の地に一人で挑むなど、死ににいくようなものじゃ」

「では、どこに?」

「分からん」


 エフロシーニャはため息をついて立ち上がった。


「見られた以上、もう見つからん」


 灰色魔導師として、魔導の制御は少しずつ進んでいた。しばらく隠れ家でドラグを相手に付与魔導の訓練をして過ごしていた。


 観測魔導も続けた。

 所長の魔導反応を探すためだけど、全く反応がなかった。

 所長が神の魔導陣を開けば、タイミングによってはわかるはずだった。

 

「痕跡すら見つからんな」

「……所長。どこにいるのですか?」


 そんな中、手紙が届いた。

 差出人を見た瞬間、思わず顔がほころんだ。


 イリアとスヴェトラーナだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ