表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
契約魔導師のレシピ帖  作者: タキ マサト
五章 ブリヌイの誓い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
73/91

73話 共闘


「ヴェーラ! しゃきっとせい!」


 そう言ってエフロシーニャは回復の魔導をかけてくれた。

 力の抜けていた足に、感覚が戻ってくる。


「ありがとうございます! ドラグ! 追いかけないと!」


 走り出そうとした私をドラグがひょいと抱え上げた。


「ドラグ!? 離して!! 所長ーッ!!」

「落ち着かんか!!」


 エフロシーニャが一喝した。


「ヴェーラが連れてこさせた魔導師たちを解放せねばなるまい。獣化の民の解放もな」

「!!」


 ドラグの腕を叩いていた私は、その言葉に冷静になった。

 寝かしたまま置いて行ったら、悪魔に喰われるかもしれない。


 そうしたら、もっと悪魔が強くなる。

 そう思っていたのに、冷静さを失っていたことに気がついた。


「……わかりました。ドラグ。下ろしてください」

「まずは、獣化の民の解放じゃ。獣化の魔導陣を戻せば戦力になるじゃろ?」


 エフロシーニャはレオニードに振り向いた。


「助かる」

「ヴェーラ師。中佐の霧魔導は絶大だ。まずはあの悪魔を沈黙させる」

「そうですよね……」

「ドミトリ中佐の格闘術は軍随一だ」


 もしあの悪魔が破壊の魔導を使ったら、王宮どころか王都が吹き飛んでしまう。

 確かにあの無音の霧の中では、私たちは足手まといになるだけだ。


 私は、私のできることをやらないといけない。

 そう覚悟を決めたとき、所長の強い魔導反応を感じた。

 それとともに悪魔の咆哮が止んだ。

 地震のような振動のみ響く。


 始まった……所長……どうか、無事で……


 エフロシーニャはドラグに獣化の民を私の前に集めるように伝えた。


「獣化の民よ! 相互契約じゃ。ここにいるドラグのように本来の獣化の魔導を取り戻せる! 解放を望むか!?」


 獣化の民はロロフを先頭に二十人ほど整列し、跪いていた。

 室内には入りきらず、岩盤が剥き出しになった通路にまで並んでいる。

 エフロシーニャの問いかけに獣化の民が静かに顔を上げた。


「……ドラグ?」

「大鷲の翼……?」


 私の隣には翼を広げたドラグが控えている。

 獣化の民の目には希望の光が宿っていた。


「我が獣化の民よ! 神の魔導陣を持つヴェーラ様に従え!」


 ロロフが立ち上がり、獅子の魔導を唱えた。

 胸に薄く現れた魔導陣が光り輝き、その体がさらに大きくなっていく。

 獅子の鬣、盛り上がった筋肉、力強い脚には凶暴な爪が生えていた。

 神々しいほどの魔導圧が立ち上がる。


「おおおう!!」


 獣化の民の口から低い感嘆の声が漏れた。


「これが! 本来の獣化の民の姿! 我が民よ! 神の使いの要請に従え!」


 ロロフが吠えた。


「おおう!!」


 獣化の民が叫ぶように答えると空気が揺れた。


「ヴェーラ。始めよ」

「はい」


 私は神の魔導陣を開いた。

 左手から滔々と流れる大河のように魔導が神の魔導陣に注がれていく。

 神の魔導陣は広がっていき、そして獣化の民の一人一人に灯りが点くようにそれぞれに展開していく。


《一つ、この者らの魂を解き放つ。この者の意志を尊ぶ。この者らとの誓約を平等に結ぶ。ヴェーラの名において、解放の契約とする》


 そして詠唱。

 誰かが「シルニキ」と呟いた。


「一つ、蜂蜜を温めよ。層を重ねよ。時間をかけて馴染ませよ。甘く仕上げよ」


 メドヴィクの甘く香ばしい匂いが風に流されていく。


「おお……力が……」

「甘い……匂い……」


 獣化の民の体に封印されていた魔導陣が浮かび上がる。

 静かな感動が獣化の民の間に広がった。

 その体が震え、目には光るものが見える。


「我が民よ! 我らの尊厳を踏みにじった魔族を討つぞ!!」

「「おおう!!」」


 獣化の民が立ち上がり、自らの体に浮き出た獣化の魔導を確認し合う。

 そして詠唱が始まる。

 次の瞬間、凄まじい魔導反応が空気を押し潰した。


 あるものは鷹の翼、あるものは熊の四肢、あるものは虎の体。

 ただでさえ巨大な体が、さらに一回り大きくなり、空間に熱が立ち込めた。


「……うっ」


 ドラグから短い嗚咽が漏れた。

 その目が潤む。


「すごいな……おい……」


 レオニードが圧倒されたように呟いた。

 そして一つ咳払いをするとロロフに声をかけた。


「ロロフ殿。私はレオニードだ。これより魔族の手先、元凶であるオルロフを倒しにいく! 獣化の民の協力を願う」

「レオニード殿。その名は噂に聞いている。我らの部落を蹂躙した魔族を倒すため。こちらからも助力を願う」


 レオニードとロロフはがっしりと手を握り合った。


「指示は俺が出す! ロロフ殿は俺とともに」

「おう!」

「ヴォロン中尉! 索敵しつつ道を切り開け。獣化の民はそれに続け」

「はっ!」

「おう!!」


 そしてレオニードは暗号魔導通信を開いた。

 空船のメドヴェド少尉と暗号を交わす。


「待機させていた空船をここに呼んだ。ヴェーラ師は、悪魔を主砲で屠ってほしい」

「はい」


 私は頷いた。

 所長のためにも、悪魔を倒さないといけない。


「では行くぞ。オルロフを討つ」

「「おおう!!」」


 ヴォロン中尉とバディが空に浮き、部屋を出ていくと獣化の民が続いた。

 最後にレオニードとロロフが出ていく。


「ドラグ。神の使いを守れ」

「おう」


 私たちはその後ろ姿を見守った。


「さて、王宮魔導師も解放するぞな」

「……はい」


 部屋の外には獣化の民が連れてきた王宮魔導師が横たわっていた。

 私は神の魔導陣を開き、解放の文言を刻んだ。

 そのとき、魔導銃で穿たれた大穴の向こうに空船が顔を出した。


『ヴェーラ! 無事か!?』


 空船から声が響いてきた。

 イリアが話しているのだろうが、その音声はしわがれた老人のような威厳を放っていた。まるで竜が話しているようだった。


「イリア!? 無事です」

『ドミトリさまは!?』


 スヴェトラーナの焦燥を含んだ声も重々しく響いた。


「……」


 私は首を横に振った。

 拳を握りしめる。

 エフロシーニャは王宮魔導師の一人を魔導で起こし、経緯を伝えている。


「お主らは魔族の精神侵蝕にかかっておったのじゃ! わかったら、ここで寝ている魔導師を叩き起こして、向こうの通路で混乱している魔導師たちも連れて王宮の人々を避難させるんじゃ!」


 エフロシーニャが怒鳴りつけると王宮魔導師は頷いた。

 もともとエリート魔導師だ。

 状況が理解できれば対応は早い。


 回復の眠りの魔導で頭も冴えたのだろう。

 すっきりとしたその頭で必死に状況を把握しているようだった。

 しばらくするとその魔導師は仲間を起こしはじめ、説明を始めた。


 気がつくと私が通路で解放の魔導をかけた王宮魔導師たちも集まってきていた。


「私たちは……あなたたちに救われたらしい」


 そのリーダー格の魔導師がそう言うと深く頭を下げた。

 その目はもう理性を取り戻していた。


「蛮族……いや、獣化の民とレオニード大佐との同盟の様子を見ていた」

「はい」

「私たちにも、協力させて欲しい」

「王宮に勤める人々を避難させよ」


 エフロシーニャが腕組みをしながら言った。


「承知しました」

「これでよし」

「り、竜!」


 空船は魔導銃で開けた大穴の入り口に着地していた。

 王宮魔導師たちがその姿を見て固まっている。


「心配しなくてよい! ヴェーラが契約した竜じゃ! いくぞ!」


 空船の入り口が開き、イリアの声が響いた。


『ヴェーラ! 早く上がってこい!』

「ドラグ。……お願い」


 私はまたドラグに抱えられて空船に戻った。

 激しい揺れが地下をまた襲う。


 そして所長の魔導反応が大きく膨れ上がった。

お待たせしました。

第五章です。


今後は週末の投稿にしていく予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ