69話 地下牢
「きゃ!」
閃光と爆風が私を襲ったとき、レオニード隊はすでに応戦に入っていた。
乾いた魔導ライフルの音が連続して通路にこだました。
扉の影から銃口を突き出し銃撃を続けている。
数十の魔導反応が扉の向こうに感じられた。
「応戦しろ! 跳べ!!」
銃撃が止んだ瞬間、開いた扉の向こうから爆裂魔導が飛び込んでくる。
そのたびに通路が白い光に包まれた。
ドラグは私たちを抱えたまま、壁に押し付けるようにその爆裂魔導に耐えていた。
そのとき、ぞわりとした反応があった。
「魔族の反応!!」
「退避ッー!!」
ザイェツ少尉の叫び声が、続く闇に飲み込まれた。
レオニード隊は散開し、闇から逃れる。
その声に危険を感じたドラグも飛び退いて、翼を広げた。
「ザイェツ少尉!」
空間が歪み、ザイェツ少尉の姿が闇に一瞬にして飲まれた。
ドラグは天井近くまで舞い上がる。
眼下の闇が消えたときには、ザイェツ少尉の姿も消えていた。
「少尉……? 少尉!!」
私は目の前で起きたことが信じられなかった。
消えた……死んでしまったの……?
ザイェツ少尉の魔導反応は、もう感じなかった。
その事実が胸に押し寄せる。
しかし、その死を悼む余裕はなかった。
再び魔族の反応とともに球形の闇が出現する。
この魔族の反応、契約局で狙撃を受けたときと同じ……
あのときの恐怖を思い出した。
「雷よ! 我の体に力を授けたまえ!!」
レオニードが怒りの声をあげた。
レオニードの魔導陣からまばゆい光が噴き上がる。
次の瞬間、その体が金色に染まった。
ばちばちとその体から稲妻のような光が走りはじめる。
「援護を!!」
そうレオニードが叫ぶと、レオニード隊が詠唱を始める。
「風よ!! 盾となり我らを守りたまえ!」
詠唱とともに暴風が湧き起こり、扉の向こうで悲鳴が上がった。
「行くぞ!!」
レオニードは叫ぶや否や、扉の向こうに飛び込んでいく。
同時にバディが魔導ライフルで援護を始める。
連続して爆発が扉の向こうで起きる。
レオニード隊は、ここぞと火力を集中した。
凄まじい魔導反応が行き交った。
扉の向こうで悲鳴と爆音が続き、閃光が走った。
「ドラグ……私たちも行きましょう」
「ここはレオニードたちに任せるのじゃ。ドミトリのやつを探すぞな!」
私は腰のホルスターの重みを確認した。
いざというときは、撃たなければならない。
ザイェツ少尉のように死は突然、やってくる。
でも、所長を救うためには行かなければならない。
ドラグは天井近くを飛び、扉の向こうへと抜けた。
空気が変わった。
広い空間に柱が立ち並び、王宮の魔導師が柱の影から魔導を展開していた。
爆裂魔導が天井にいるドラグに向けて放たれる。
それをドラグは回避しながら、柱の影から影へと飛び回った。
冷え冷えとする地下の広場に、爆発の熱が上がる。
磨かれた石壁は、それまでいた場所とは明らかに違う。
王宮に入った?
王宮の地下だ。
古代の魔導の反応をうっすらと感じる。
下を見ると、ホールは戦場だった。
「!!」
王宮魔導師が複数、血を流し倒れている。
魔導ライフルが乾いた音を立てるたび、王宮魔導師が吹き飛ぶ。
金色に光るレオニードが光の剣のようなものを振り回すたび、稲妻が落ちた。
その稲妻を避けるように、素早く動きながら闇を展開している黒フードの姿も見えた。
「魔族!」
球形の闇が消えると、その形のまま床や柱が抉れる。
王宮魔導師をも飲み込んだまま闇が展開し、レオニードの雷も消された。
レオニードのローブが闇に引き裂かれ、魔族のフードが電撃で焦げる。
金色と黒が激しく交差するたびに、周りの王宮魔導師を巻き込んでいく。
レオニードの稲妻に触れた王宮魔導師は、痺れたように崩れ落ち、闇に飲まれた魔導師は跡形もなく消えていく。
「あの魔族!」
私とエフロシーニャは同時に声をあげた。
間違いない、観測魔導で見たオルロフのそばにいた魔族。
レオニードと魔族の一騎打ちは、私にはどちらが押しているのかさえわからなかった。
でも、どちらかの魔導が先に相手に触れた瞬間、決着はつく。
必殺の魔導師同士の息詰まる戦い。
余人の入り込む隙はなかった。
「……もったいないのう」
エフロシーニャが下を見て、呟いた。
「魔導師を育成するために、どれだけ時間と金がかかると思っておる!」
どこかずれているエフロシーニャの怒りを聞き流し、私は広間の奥を指差した。
「ドラグ! 行って!」
「わかった」
円形のホールには、入ってきた扉のようにいくつかの扉が壁にあるのが見えた。
古代魔導がかかっている扉とかかっていない扉。
「あの扉! ドラグ! 行って!!」
私は古代魔導陣がかかっている一つの扉を指差した。
絶対、あの奥にいる。
扉の前には魔導師が二人立っていた。
その二人の魔導師は私たちに気がつくと、魔導陣を同時に開いた。
そして詠唱とともに、火球が爆音とともに飛んできた。
「きゃ……」
私が目を閉じたとき、周りが熱に包まれた。
でも、それは一瞬のことだった。
ドラグは私たちをしっかりと抱えたまま翼をすぼめた。
火球を突っ切るように急降下し、肩で魔導師を吹き飛ばした。
鈍い音がして二人の魔導師は扉に打ちつけられる。
ドラグは翼を広げるとばさりと空気を大量に捕らえ、扉に激突する前に急停止した。
ドラグの獅子のような髪は焦げ、顔には火傷の跡が見える。
「もちっと、安全に飛ばんかい!」
エフロシーニャが抗議の声を上げるが、私は古代魔導がかかった扉に視線を向けた。
左手に魔導を通すと、神の魔導陣が自動的に文言を刻んでいく。
扉ががちゃりと開錠した。
背後で魔族の反応が一気に大きくなり、レオニードの稲妻が広場を白く染めた。
「所長!! どこですか!?」
ドラグが肩で扉を押し開けると、滑り込むように侵入する。
すぐに魔導反応を感じた。
エフロシーニャは魔導陣に文言を書き込んでいる。
「賊か!? どうやって、開けた……?」
石造の通路の魔導灯が、王宮魔導師の驚愕した顔を照らし出した。
エフロシーニャの詠唱が終わったとたん、魔導陣が大きく広がり魔導師がばたばたと倒れていく。
「回復の眠りの魔導じゃ。目が覚めたら、爽快じゃろな」
「そんなのができるなら、最初からやってください!!」
「待ち受けている敵には無理じゃ。こっそりしないとのう」
通路は魔導がかかった扉が並んでいた。
「ここから見ていくか」
「はい」
私はまた神の魔導陣を開く。手始めに一番手前の扉を開けた。
ドラグがまた肩で押し開けて入る。
光量が絞られた魔導灯の下、大きな影が横たわっているのが見えた。
違う……所長じゃない。
私の顔が曇ったとき、ドラグが叫んだ。
「ロロフ殿!!」
石造の狭い部屋には、鎖で繋がれた獣化の民が横たわっていた。




