表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
契約魔導師のレシピ帖  作者: タキ マサト
四章 コルジキの約束

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/72

68話 開錠  


「扉が開かんのか?」

「魔導がかかっている。破壊もできない」


 確かに扉には守護の刻印魔導の反応があった。


「ふむ……」


 エフロシーニャが、レオニードに声をかけて魔導陣を開いた。


「ワシが解析するかの……」


 ドラグは私とエフロシーニャを抱えたまま扉に近づいた。

 エフロシーニャが魔導を通すと扉に刻まれた魔導陣が浮かび上がる。


 それは隠れ家の神殿の地下で見た古くさい魔導陣と同じだった。


「この防御の刻印魔導は、ワシの断絶魔導で解けるかは分からん」


 エフロシーニャはいったい、いくつの魔導を会得しているのだろう。

 レオニードが驚いたような声を上げた。


「断絶魔導まで使えるのか!?」


 エフロシーニャはため息をついた。


「ワシが若い頃は十魔導を網羅する灰色魔導師は、普通におったものじゃが……」

「……扉を開けられるのか?」

「ワシには無理じゃ……」


 エフロシーニャは首を振って、私を見た。


「ヴェーラ、魔導陣を開け。ワシが言う通りに文言を刻め」

「……はい」


 私が左手に魔導を通した瞬間、見慣れた私の魔導陣が変化していることに気がついた。


「これって、キリル主任が見せてくれたものと同じ……?」


 私の魔導陣が扉の防御魔導陣に共鳴したように輝き、自動的に文言が刻まれていく。

 そして扉の鍵がガチャリと鳴った。


「……え?」

「開いたぞな。これは古い魔導陣じゃ。古代魔導帝国のものかも、しれんのう」

「あの神殿の地下の扉と同じ? でも、勝手に文言が刻まれた……」

「そうじゃろな。空船の時とも同じじゃ」


 レオニードがそれを聞いて唸った。


「王宮魔導長官にのみ伝わるという古代魔導の系譜か……この魔導陣もヴェーラ師は解除できるのか……」


 後方の魔導反応が強くなってきていた。


「モタモタしていると王宮魔導師が来るでな」

「袋の鼠だ! 追い詰めろ!」


 そのとき、追いかけてきた王宮魔導師が姿を現した。


「動くな!! 悪魔の魔導陣を持つ女は生け捕りにしろという命令だ!!」

「早く! 入れ!」


 レオニードが頷いて扉に手をかける。

 ぎぃと音が鳴って扉が開いた。


「魔導反応なし!」


 最初に入ったレオニードの部下が声をかける。

 ザイェツ少尉が入るように促し、最後にレオニードが残った。


 怒鳴り声と詠唱が通路に響き始める。

 レオニードは王宮魔導師の魔導陣が展開するより早く、扉に滑り込んだ。


「ヴェーラ、施錠しろ」

「……はい」


 また私の魔導陣が文言を刻み、詠唱することなくガチャリと鍵がかかる。

 扉の向こうで響いていた叫び声と爆発音が、施錠とともに途絶えた。

 

「……何故? 無詠唱で?」

「神の魔導陣じゃ……ようやく発現したな……」

 

 私は変化した魔導陣をじっと見つめた。

 しかしいつものように、それはすぐに消えた。


「もともと魔導陣は、文言を刻むためのものではない……」


 エフロシーニャは辺りを見回しながら答えた。

 レオニードの部下が報告したように、魔導反応は感じない。

 煉瓦造りの通路は、高い天井から魔導灯で青白く照らされて奥へと続いていた。


「囚われているなら、この先だな」


 レオニードが部下に指示を出していく。


「ザイェツ少尉は後方を警戒、前衛は索敵を続けろ」


 この扉に入ってから、すえたような匂いから埃臭さに変わっていた。

 通路の両隣には、鉄の扉が等間隔で並んでいる。


 エフロシーニャは間を置いて、話を続けた。


「エフロシーニャ師?」

「文言は魔導神の魔導の法則、いわばレシピにすぎん」

「……レシピ」

「そうじゃ」


 通路はドラグが翼を広げてもまだ余裕があった。

 レオニードたちはローブの下から魔導ライフルを取り出した。

 二組ずつ間隔を置いて進みだす。


「魔導陣は、材料の魔導を通して法則を発現させて完成させる鍋みたいなものじゃ。詠唱は確実に発動させるためのものにすぎん」

「だから無詠唱でも、短縮詠唱でも、発動した……」


 伝え聞く疾風ヴォルトの伝説の魔導を思い出す。

 その魔導は誰よりも速く強く魔族を薙ぎ倒していったという。


 それと、同じ……


 ザイェツ少尉が進めと合図をする。

 ドラグも私たちを抱えたまま歩きだす。


「ドラグのように獣化の民は、魔導陣が個体固有の魔導となって体に浮き出ておる。神の魔導陣は、あれと似たようなもんじゃな」

「ではエフロシーニャ師、ドラグの翼の魔導陣は元からあったものですか?」


 ドラグの腕に刻まれた魔導陣を改めて見てみた。

 その文言は、体の強化や魔導防御を意味する古代魔導の言葉で刻まれている。


「獣化の民も詠唱に頼り、本来の魔導陣のあり方を見失ったのじゃろう」

「……解放したから、本来の獣化の魔導が出てきた?」

「そうじゃろうな」


 静かな空間だった。

 通路の両側に等間隔で続く金属の扉は、錆で覆われていて長らく使われていないようだった。


 本当に王宮に囚われているの……?

 不安と焦燥感が胸を締め付ける。


 所長! どこにいるの!?


 ここに来るまでの塔の扉には見張りもいなかった。

 そこに囚われている可能性は低い。

 でも、見落とした?


 所長の魔導の気配はまだ感じない。

 他の魔導師の反応も消えている。

 この場だけ空船の内部のような断絶空間だった。


 しばらく行くと突き当たりにまた扉が見えた。

 同じ古代の防御魔導が刻まれている。


 その前でレオニードたちが私たちを待っていた。


「王宮の地下に続いているようだ。ヴェーラ師がいなかったら、救出作戦は成立しなかったな」

 

 レオニードはため息をついて言ったが、そんなことはどうでもいい。

 ともかく所長の安否だけが気に掛かった。


「この先にいるんですか?」

「それしか考えられない」


 そう言ってレオニードは私を見た。


「だが、この先にはおそらく魔族や王宮魔導師が待ち構えているはずだ……」

「……はい」

「行くか?」


 レオニードは私の目を見た。

 この扉に入ったら生きて戻れる保証はない。

 その覚悟を求められている気がした。


「行きます」


 レオニードは私の目を正面から受け止めると、ふっと口角を上げた。


「扉を開けてほしい。ヴェーラ師」

「はい」


 私は魔導陣を開き、扉の開錠をした。

 扉の向こうには魔導反応は感じない。

 もし断絶魔導がかかっていたら、ドラグは飛べない。

 レオニードの部下たちが魔導ライフルを構え、詠唱を始める。


 エフロシーニャも何やら詠唱を始めた。

 ドラグも低く短い詠唱を口にする。


 エフロシーニャとドラグの短い詠唱が終わると、ドラグの体から強い魔導圧が迸った。


「ワシの魔導防御の付与と、ドラグのは肉体強化じゃ」

「開けるぞ」

「了解」


 レオニードの部下が扉から離れて壁に身を押し付ける。

 ザイェツがドラグにも同じようにしろと伝えた。

 一人のレオニードの部下が魔導陣を開くと、風が巻き起こり扉をゆっくりと押し開けていく。

 ぎぎと重たい音が鳴り、扉の向こうから光が漏れる。


「魔導反応、強!!」


 その部下が絶叫した。

 次の瞬間、扉が弾けるように引かれた。


 そして爆発の閃光が通路を、私たちを襲った。

 扉の向こうで、数十の魔導反応が一斉に立ち上った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ