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契約魔導師のレシピ帖  作者: タキ マサト
一章 ブリニの従順

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5話 レター


「ヴェーラじゃない!」


 聞き覚えのある、よく通る明るい声だった。

 事務所が入る建物の一階の食堂で、食事をしていたときに声をかけられた。


「マリーナ! 久しぶり!」

「昨日、西部から帰ってきたの!」

「二ヶ月ぶりね」

「西部は大変よ……」


 活発そうな金髪のショートヘアをバンドで止めている。

 細身の体を淡い色の薄手のコートでスタイリッシュに包んでいた。


 そのマリーナの顔が曇った。


「まあ座ってよ、話、聞くよ?」


 マリーナは私のテーブルの向かいに腰掛けた。

 私の数少ない王都での友人で、王都の新聞社で記者をしている。


「これから出社?」

「昨日、夜遅く帰ってきてね、今日は顔だけ」


 マリーナはミルクカフェとシャルロートカを注文した。


「ここのシャルロートカが恋しくてね」

「私のシルニキも食べて」


 このところ毎日、所長がシルニキを奢ってくれる。

 今日も店のおかみがドミトリさんからと言って持ってきた。


 最初にシルニキをもらった翌朝、大好物と大袈裟に感謝の言葉を伝えたからだと思う。


「ありがと。ここのシルニキも好きよ」


 マリーナは笑ってフォークを突き刺した。


 出会いのきっかけは彼女の魔導単車のブレーキが壊れて、事故を起こしかけたときだった。


 暴走単車に魔導陣を展開して、壊れたブレーキを間一髪上書きしたのだ。

 魔導列車に突っ込むぎりぎりで止まった。


「ヴェーラは私の命の恩人だから」


 それが半年前の出来事。

 ドミトリ所長の干渉魔導を封印した直後のことだった。

 それから友人付き合いをしている。


 卒業で寮を追い出される寸前に、今の部屋を格安で紹介してくれたのも彼女だった。


「なんか、疲れてるわね。眠れてるの?」


 マリーナは私の顔を覗き込んで言った。

 私はため息をついた。

 あれから連日、契約局に行って戦闘奴隷契約をしている。


「最近、忙しくて……」

「よかったじゃない!!」


 マリーナは笑った。


「暇すぎて困ってたじゃない」

「そうだけど、忙しくなるのは、ありがたいけどね。故郷に仕送りしてるから」

「ああ、北方の?」

「魔族との激戦地のど真ん中だった地域。今は落ち着いてるけど」

「そう……」

「マリーナは、西部はどうだった?」

「魔獣の悪魔化の被害が増えてるの……」


 運ばれてきたシャルロートカを切り分けながら、マリーナは声をひそめた。 

 知的な目が翳った。


「悪魔化……?」

「魔熊とか……」


 その言葉にぞっとした。

 重苦しい沈黙を振り払うようにマリーナは言った。


「ヴェーラはどう? 忙しいって言ってたけど?」


 マリーナの目が光った。

 軍の英雄だったドミトリの下で働いているのだ。

 いつも何かスクープを探している。


「最近、蛮族奴隷が増えてるの……」


 オフレコだけど、と断って私は少し考えて話し始めた。

 不安が高まっていた。

 何かが起きてる——私たちの知らないところで。


「普通、一人蛮族を捕まえるだけでも大変でしょ?」

「……魔獣に乗って十数人で食糧と女を略奪しにやってくるからね」


 そう言ってマリーナは眉をひそめた。

 蛮族との戦いは年々激しさを増していた。


「そう。そんなに簡単に捕まえられない……」

「蛮族との大きな戦いの話は聞いてないわ」


 その先を言おうとして躊躇う。

 でも、マリーナなら。

 声をひそめた。


「でしょ……? でも、もう三桁よ」


 その言葉にマリーナのフォークが止まった。

 顔を上げて身を乗り出す。


「三桁……? そういえば軍の大型魔導車の出動が増えてる……」

「新聞にも出てない……こんなことってある?」

「蛮族の戦闘奴隷を増やしてる?」



 一瞬、キリルの顔がよぎった。

 あれから、もう一週間。

 契約局で、キリルとは会うことはなかった。


「それは、気になるわね」

 

 マリーナはシャルロートカを頬張って、カフェを飲み干した。


「いいわ、少し調べてみる」

「ありがとう」


 マリーナは信用できる。

 ソースを漏らすようなことはしない。

 適切な時期に適切な方法で記事にしてくれる。


 私は昼休憩を終えて、事務所に戻った。

 ドミトリが難しい顔をしていた。


「ヴェーラ? 解析局から出頭要請のレターが来てる」

「解析局ですか……?」


 あのキリルの冷たい表情が脳裏に浮かんだ。


「昨日で契約局での奴隷の案件は終了だ」

「そうですか……」


 それを聞いて、少しほっとした。


 最初は、王都中の契約魔導師事務所が来て蛮族の魔導陣解除契約を行っていた。

 

 それが終わると選ばれた事務所だけが残った。

 不完全な魔導陣で、事故もあったらしいと噂で聞いた。


 そんな中、なぜかドミトリ契約魔導師事務所も大手に混じって奴隷契約をしていたのだった。


「明日からは、溜まった魔獣案件だ」


 と言って封書での依頼を持ち上げた。


「はあ……」

「ということで、今から解析局に行ってきてくれ」

「今からですか……?」

「断ることができると思うか?」


 私は首をふった。


「終わったら、直帰でいい」

「……分かりました」

「大丈夫だ。あいつは悪い奴じゃない……ただの変人だ」

「……」


 不安な顔が出たのだろう。

 不器用に付け加えてくれた。


「……では、行ってきます」


 私はすぐに身支度を整えて解析局に向かった。

 魔導バスに揺られること数十分。


——三つ目の謎の魔導陣……


 まさか、魔導十戒に触れるなんてことは……


 そんなことになったら、魔導を封じられて資格を取り消し。

 最悪、処刑まである。


 急激に不安になる。


 解析局は、魔導学院の隣に併設された施設だ。


 魔導陣の研究・記録・解析を行う、いわば魔導学術の総本山。


 聳え立つ黒塗りの塔。

 凍えるような冷気をまとい、近づくものを容赦なく威圧する。


 重たい足を門に向ける。

 手足の先から、じわじわと熱が抜けていく。


 入り口でレターを渡すと二階の面談室の前に通された。

 解析局のエリート魔導師たちの無機質な視線が突き刺さる。


 その部屋のドアは一際、冷気を放っているように感じられた。

 薄暗い廊下、物音一つしない。


 心臓の音だけが耳障りに響いた。


 意を決してノックすると、中から声がかかった。


「待っていましたよ、ヴェーラ師」


 中に入るとキリルの目が光った。


「あなたの魔導陣について話があります」


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