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契約魔導師のレシピ帖  作者: タキ マサト
二章 シルニキの拘束

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31話 訓練


 アイカの首元に抱きつくと、陽だまりのような匂いがした。

 汗だくなのに、離れたくなかった。


「アイカ。くすぐったい」

「くうん」

「ごめんね、アイカ。……頼りないハンドラーで」

「まったくだ」


 イリアが疲労で倒れている私の前に立った。


「今は、射撃訓練が出来ない以上、同期訓練だな」

「……はい」

「昼休憩にするか」


 アイカを魔獣管理棟の犬舎に戻しにいく。


「これが犬舎の鍵だ」

「はい」

「午後からの魔狼は、アイカは置いていく」

「……はい」

 

 一人、食堂に行き昼食を取る。

 注文したクリーツァ・グリールも街の食堂の倍の大きさがあった。

 

 体力をつけないと。

 パサパサのその肉は量だけは多かった。


——これも訓練だ……


 黙々と胃の中に押し込んだ。


 魔導車の後部には、すでに檻に入った魔狼が積まれていた。

 車内には、獣臭が漂っている。

 確かにアイカを乗せたら、かなりのストレスを受けそうだった。


 魔狼はぐったりと眠っている。


 イリアがハンドルを握り、魔狐を捕まえたセレブリャンカ川の河原に向かう。


「今日は放つだけだ。罠の確認はしない」

「別のチームが回収に行っているんですよね?」

「そうだ」

「……では、また、悪魔化禁止の魔導陣を?」


 この魔狼に悪魔化禁止の魔導陣をかけたときの、精神の奥底に流れる魔導の流れを思い出した。


 あの自分の体が、透き通っていく感覚。

 思い出すと背筋が冷たくなった。


「いや、魔導を制御できてからだ」


 その言葉にほっとした。


「ヴェーラ師の魔導の流れは瞬間的に爆発する——」


 そこでイリアは言葉を切った。

 そして首を振る。


「通常弾を爆裂させない程度に撃てるようになってからだ……」

「……はい」

「あのときの爆発で、防御魔導陣が吹き飛んだらしい」

「え……?」


 だから……

 

「あんなものを街中でぶっ飛ばしたら、周囲が消し飛ぶ……」

「……」


 その言葉に顔から血の気が引いた。

 反射的に左手をみつめる。


「だが、悪魔化した魔狼への強制契約。魔熊への短縮詠唱。その力がなければ無理だった」

「……はい」

「であれば、……制御ができれば、最強だ」


 イリアの目が輝いた。


「制御って、どうすれば出来るんですか? イリア師はどうやっているのですか?」

「意識したことはないが——」


 イリアは考え込んだ。


「ヴェーラ師は、例の謎の魔導陣の展開で瞬間的に9を切る」

「……はい」

「極限状態に追い込まれると9を切ったまま……」

「それで、魔導弾が暴発した……?」

「そうだ」


 でも、それだったら、どうしたら良いの?

 

「まずは、体力をつけろ。体力がないから、すぐに極限状態に追い込まれる」

「……はい」


 所長みたいなことを言うと思った。


「アイカとの訓練が一石二鳥だな」

「はい」

「そして、いざという時には一瞬だけ、解放するんだ」


 一瞬だけって、無茶な注文をする。


「そのためには、魔導銃を普通に撃てるようになることだ」

「……はい」


 普通に、という言葉にイリアは力を込めた。

 

 魔導車はセレブリャンカ川に沿って走る。

 鬱蒼とした森の中に入っていく。


「この辺りだ」


 イリアは車を止め、檻から魔狼を出す。

 左手をかざし魔導を流すと、魔狼はぴくりと起き上がった。


 魔狼はそのまま振り向きもせずに森の中に走り去っていった。

 その後ろ姿に、あのBー88を思い出した。


「狼を絶滅させられない以上、魔獣の悪魔化を防ぐにはこれしかない」

「あの子、たくさん繁殖してくれればいいですね」

「……ああ」


 契約局についたのは、夕方だった。

 イリアとは車を降りたときに別れた。

 さっそく犬舎に向かう。


 アイカは待ちかねていたように座っていた。


「アイカ、行くよ」

「バウ!」


 また林の中に私たちは向かった。


 林の中に倒木で荒れた場所を見つけていた。

 アイカは倒木の間を縫って飛び越え、潜り抜ける。


「アイカ、いいよ」

「バウッ!」


 すぐに私のところまで走ってきた。


「よしよし」


 ピタリと座るアイカに、ご褒美のジャーキーを与える。


「次は、こっち」


 アイカを伏せで待たせ、私は走っていく。

 アイカが見えない場所まで走っていくと、鋭く呼ぶ。


 あっという間に駆けてくる。

 何往復かすると、また汗だくになった。

 ローブが走りにくい。


「これは、疲れる……」


 気づくと辺りは薄暗くなってきていた。

 アイカを伏せで待たせ、私は魔導を込めたぬいぐるみを林の落ち葉の中に隠した。


「行け!」


 アイカは掛け声とともに木々の中を走っていく。

 一直線に掘り起こし、戻ってくるとピタリと座って私を見上げる。


——本部棟が見えない……


 契約局の裏手の林は思いの外、深かった。

 そのとき、アイカが低い姿勢を取り、唸り始めた。


「グルル……」

「アイカ! 何?」

「バウバウッ!!」


 アイカは林の奥に向かって吠え出した。

 緊張が走った。


——何かがいる?


 左手に魔導を流す。

 あの魔熊のとき以来、感知ができるようになっていた。

 以前は、ぼんやりとしか感じられなかった。


 魔獣や魔導師ならば、感知するはず。


 そのとき、アイカが吠え止んだ。


 消えた……?


 私の左手に一瞬だけ魔導を感知した。

 でも、アイカは警戒態勢は解かない。

 

 魔導師……?


 気がつけば終業の鐘が鳴っていた。


 気配はない。

 でも、首筋が粟立った。


 誰かに見られている……


 身を伏せてさらに左手に魔導を強く流した。

 本部棟の方で数人の魔導師が魔導を流しているのが感じられる。


 鬱蒼とした木々が、夕闇の中に沈んでいく。

 冷たい風が吹いた。


「くうん」


 アイカは、もう反応していなかった。

 林の中は、魔導は感知できない。


「戻ろう、アイカ」

「ワン!」


 特別契約執行部の本部に走るようにして戻ると、パーヴェルが私を待っていた。


「遅かったな、と……」


 パーヴェルはアイカに目を留めた。


「懐いているじゃないか」


 パーヴェルは目を細めた。


「魔犬を飼うのが夢だったんです」

「それは、よかった」


 そしてパーヴェルは声をひそめた。


「少し、気になることがある」

「はい?」

「ドミトリのヤツのところに、元部下が来たらしい」

「!!」


 息が止まった。

 所長が軍に戻ってしまう?


「……連中が動き出した」


 さっきの怪しげな魔導感知を思い出す。

 報告をするとパーヴェルの顔色が変わった。


「しばらく、ヴェーラは訓練だ。局外には出るな」


 あの気配は、やはり偶然ではない。

 背筋に、冷たいものが残っていた。


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