第14話 扉の向こうに同じ十三人
黒板の前に立つと、塔の音が少しだけ遠のいた気がした。
階段のきしみも、縦穴を駆け上る風の唸りも、いまは踊り場の外側でくぐもっている。
ここだけが、ぽっかりと切り取られた安全地帯みたいだった。
相沢レンは、指先の粉をこすり合わせた。さっきまで握っていたチョークの白が、皮膚の皺に残っている。
明日の朝までに、救助は来ない。
階段を上がる前に、全員の名前を呼べ。
最上階で書いた二行は、向こう側の黒板にもう転写されている。扉の向こうにいた“もう一人の相沢レン”が、それを読み上げるところまで見届けた。
けれど、足りない。
あれだけじゃ、まだ塔の骨を折るには弱い。
塔は賢い。
人間の感情を餌にし、規則をミキサーにかけて、甘いところだけ吸い上げる化け物だ。
言葉を与えれば、それを利用する。
ならば、言葉そのものを“毒”に変えるしかない。
「相沢」
背後から、ツムギが呼んだ。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
レンは振り向かず、笑ってみせた。
「でも、やる」
黒板の前には、まだわずかな余白が残っていた。
そこに、塔の最初の牙――一層ごとに、一人――を書き換える余地がある。
レンは新しいチョークを手に取った。
白い先端を、黒板の中央に当てる。
塔が、わずかに軋んだ。
ここまでの経験で、もうわかる。
「何か嫌なことを書こうとしている」と感づかれたときの音だ。
「見てるなら、見てろよ」
誰に向けたともなく呟き、レンは一文字ずつ、ゆっくりと書き始める。
一層ごとに、一人――
そこまでは同じだ。
塔が安心したのか、一瞬だけ揺れが和らぐ。
レンは続けた。
一層ごとに、一人
選ばなくていい
最後の三文字を書き終えた瞬間、床がはっきりと震えた。
ぐらり、と。
「わっ!」
ツムギが手すりを掴む。
踊り場の端に置かれたバケツの水が跳ね、薄い水膜が床に散った。
階段下から、金属の悲鳴が上がる。
鉄骨がきしみ、塔全体が怒りを噛み締めたみたいに揺れた。
「やば……」
レンは黒板に張り付くようにしがみついた。
文法がねじれている。
「一層ごとに、一人」は“落ちる”が続くはずだ。塔はそういうふうに、この文を何度も咀嚼してきた。
「一人選べ」
「一人犠牲にしろ」
「一人を落とせ」
それが、この構造の前提だった。
そこに、「選ばなくていい」をぶち込んだ。
一層ごとに、一人。
選ばなくていい。
ルールは続いているのに、役割が空白になっている。
塔の側からすれば、“責任の所在”を抜き取られたようなものだ。
「……相沢くん」
揺れがいったん弱まったところで、ツムギが声を絞り出した。
「今の、けっこう性格悪くない?」
「褒め言葉として受け取っとく」
レンは肩で息をしながら、黒板の文を見上げた。
一層ごとに、一人選ばなくていい。
この文は命令じゃない。
宣言だ。
「そういう世界線をここから始めます」という、観測者の宣言。
塔の揺れは完全には収まらない。
鉄骨の奥で、低い唸りが続いている。
黒板の端に、じわりと白い粉が浮かぶ。
条件エラー。
想定外。
型の違う入力を突っ込まれて、システムが苛立っているのがわかった。
「ここからが本番だ」
レンはチョークを握り直した。
「ユイの“最適化”も、レイの“代償”も、北条の“鍵”も、牧野の“笑い”も、全部ここに混ぜる」
「欲張りセットだね」
ツムギが冗談めかして言う。
「欲張りじゃないと意味ないだろ。
人を削ってきた塔に、“削りきれない構造”を覚えさせるんだ」
レンは黒板の下に、次々と書き足していった。
階段を上がる前に、全員の名前を呼べ
二人一組で誓約を結べ
片方が落ちそうなとき、二人で残る方法を先に考えろ
甘い贖罪は塔の餌になる、罰ではなく役割を分け合え
鍵は最後に返せ、途中で諦めるな
チョークの音が、一定のリズムで鳴る。
塔のきしみと、微妙にずれている。
人間の側の拍。
「それ……全部、塔に読まれるよ?」
ツムギが言う。「利用されちゃうかも」
「利用できるもんなら、してみろって感じ」
レンは微笑んだ。
「これは、“運用マニュアル”だ。
塔がルールを出してくるなら、こっちは運用で上書きする」
砂原ユイがいつも口にしていた言葉。
“運用の問題”。
彼女は最適化の結果、自分を削っていった。
でも、その思考の骨組みだけは、まだここに残っている。
「ユイの“最適化”は、合理的だった。
だからこそ、塔にとって美味しすぎた」
レンは黒板に書いた文を見ながら言った。
「今度は、“合理的だけど塔にとってはまずい”運用を作る。
それが、俺たちの仕事だ」
「まずい運用って?」
「“誰も落とさない方向に分岐を全部振る”」
レンはチョークを置き、振り返った。
踊り場には、十三人がいた。
相沢レン。
砂原ユイ。
北条カイ。
牧野。
早乙女レイ。
ツムギ。
米倉シン。
そしてほかのクラスメイトたち。
先ほど扉の向こうに見えた“同じ十三人”が、いまはこっち側にいる。
彼らの視線が、黒板とレンのあいだを行き来していた。
「……何それ」
北条が、困ったように眉をひそめた。
「一層ごとに、一人“選ばなくていい”って。
そんなの、ただの現実逃避だろ」
「現実逃避じゃない」
レンはきっぱりと首を振った。
「“選ばなくていい”って文は、“選ばなくてもいいように分岐を選び直す”って意味だ」
「意味わかんねえよ」
「これからわかるようにする」
レンは深呼吸をして、十三人を見渡した。
「あらためて言う」
声が、思ったよりもはっきり出た。
「俺たちは、上がる。
全員で上がる方法を、ここで見つける。
誰も落とさないで済むルートを、塔の中に作る」
塔が、低く唸った。
さっきよりも、明らかに音が近い。
「相沢」
砂原ユイが、一歩前に出た。
まだ落ちてもいないユイ。
“最上階−1”の彼女とは違う、でも同じ目をしたユイ。
「それが、“最適”なの?」
「わからない」
レンは正直に答えた。
「もしかしたら、“効率の悪い最悪の選択肢”かもしれない。
生存確率だけ見たら、前より下がるかもしれない。
でも、一人ずつ削られる未来はもう見たくない。
ユイが一歩下がる未来も、早乙女が一人でアンカーになる未来も、北条が最後に鍵を渡される未来も」
ユイの目が、ほんの少し揺れた。
「だから、変える。
ここで変える。
塔の“前提条件”を」
「前提条件……?」
米倉シンが、小さく呟いた。
「塔のルールは、こうだ」
レンは黒板の一番上を指さす。
「明日の朝までに、救助は来ない。
一層ごとに、一人。
これが、塔の側が用意した“世界の条件”だ。
でも、“その中でどう動くか”は、俺たちが決めていい」
黒板の下段を拳で軽く叩く。
「ここから下は、こっちの条件だ。
階段を上がる前に、全員の名前を呼べ。
二人一組で誓約を結べ。
甘い贖罪を塔に渡すな。
鍵は最後に返せ」
「全部やるの?」
牧野が、弱々しく笑った。
「相変わらず真面目だな、相沢。
テストの範囲増やしてくるタイプの委員長じゃん」
「増やされたくなかったら、落ちるか?」
「……いや、それはちょっと」
牧野の冗談に、数人の間に微かな笑いが生まれる。
その笑い声を、塔は気に入らないらしい。
縦穴から、低い唸りが増幅されて返ってきた。
「ここからは、実際に登りながら説明する」
レンはそう言って、名簿の紙を広げた。
「まず一つ目。
階段を上がる前に、全員の名前を呼ぶ」
「もう覚えたよ、だいたい」
「覚えてても呼ぶ」
レンは厳しく言う。
「“実際に口に出して呼ぶ”っていう行為が、大事なんだ。
名簿を見ながら、一人一人、確かめる」
彼はチョークの粉が残る手で紙を押さえ、声に出した。
「相沢レン」
「はい」
自分で自分に返事をする。
滑稽だが、それでいい。
「砂原ユイ」
「いる」
「北条カイ」
「おう」
「牧野」
「……いるよ」
「早乙女レイ」
「はい」
「ツムギ」
「ここー」
名前を呼ぶたびに、声が重なっていく。
点呼というより、祈りに近い。
塔に「この十三人は、いまここにいる」という事実を叩きつける儀式。
全員の名を呼び終えたとき、レンは深く息を吸った。
「次。
二人一組の誓約」
「またあれかよ……」
北条が顔をしかめる。
「前みたいに、“片方が落ちるときにどっちが手を離すか”決めるやつなら、もう勘弁してほしいんだけど」
「違う」
レンは首を振った。
「前の誓約は、“塔のルールに合わせた誓約”だった。
今度は、“塔を裏切るための誓約”にする」
「裏切るため?」
「そう」
レンは、ツムギの手を軽く握った。
「二人一組で、“どんな状況になっても二人とも生き残る方法を最優先する”って誓う。
片方だけ助かる選択肢は、最後の最後まで使わない。
それを“事前に決めておく”」
ツムギが、静かに頷いた。
「そうすれば、“落とす理由”を探さなくてよくなる」
「でも、それじゃ……」
ユイが口を開く。
「どこかで必ず“最適から外れる”」
「外れていい」
レンははっきりと言った。
「塔にとっての最適は、俺たちにとっての最適じゃない。
だからこそ、“外れる覚悟”を最初にしておく必要がある」
ユイは、しばらく黙っていた。
そして、小さく息を吐く。
「……それも一種の最適化だね」
「そうだよ」
レンは微笑んだ。
「“人間の心を守る最適化”だ」
「じゃあ、ペア決めよ」
ツムギが手を挙げた。
「誰と誰が組むか。
適当にくじで決めるより、ちゃんと“役割”考えた方がよくない?」
「そうだな」
レンは頷き、全員の顔を見渡した。
「体力のあるやつと、耳がいいやつ。
頭の回転が速い奴と、腕力のある奴。
バランスを取って組ませる。
それから、“甘い贖罪をしそうな奴”は、必ず誰かに監視させる」
「甘い贖罪?」
米倉が顔をしかめる。
「“俺が悪かったから俺だけきつい役をやる”ってやつ」
レンは即答した。
「それ、塔にとって最高のおやつになる。
罪悪感と自己犠牲と、ほどよいドラマと。
全部まとめて齧られる」
「耳が痛ぇな……」
米倉が苦笑する。
「だから、お前は俺と組む」
レンはにやりと笑った。
「お前が変なスイッチ入ったら、全力でぶん殴って止める」
「物理かよ」
「物理は強いぞ」
そうやって、十三人分の組み合わせを決めていく。
北条は足場の読みが甘い二人をまとめて支える役。
ユイは情報を整理して全体に回す役。
牧野には、“笑いの適正値”を見極める役を任せた。
「俺、そんな大役?」
「お前の冗談で、救われた瞬間もあったからな」
レンは真面目に言う。
「でも、笑いすぎると判断が鈍る。
そのラインを、自分でちゃんと測れ」
「難易度高いなあ、俺だけ」
牧野が頭をかく。
塔の揺れは、まだ続いている。
「条件の書き換え」に、内部の構造が必死でついていこうとしているのがわかる。
そのとき、黒板の端に新しい文字が浮かんだ。
条件、更新
「……やった」
ツムギが、ぽつりと呟いた。
「今、“人数条件”じゃなくなったよ」
レンは黒板に目を凝らす。
条件、更新。
それだけ。
だが、その一行の重さはわかる。
これまでの塔は、「一層ごとに、一人」を絶対条件にしていた。
今、黒板はそれを書き換えた。
「一層ごとに、一人選ばなくていい」。
そして、「条件、更新」。
何に更新されたか、までは書かれていない。
だが、レンにはなんとなくわかった。
「“分岐の選び方”だ」
「え?」
ツムギが目を瞬く。
「塔の条件が、“人数”じゃなくて“選び方”に移った」
レンは踊り場の縁を見下ろした。
「これから先、俺たちが“塔の側のルール”を優先した分岐を選べば、あいつは喜んで誰かを落とす。
逆に、“人間の側のルール”を優先した分岐を積み重ねれば、塔は落としづらくなる」
「そんなの、どうやって判断するの?」
「簡単だよ」
レンは笑った。
「“誰か一人だけ助かるルート”を選びたくなったら、それは塔のルール。
“全員が生き残る可能性をギリギリまで諦めないルート”は、こっちのルール」
ユイが、息を飲んだ。
「……それ、本当にできると思う?」
「できるかどうかじゃない」
レンは一段目を見下ろした。
「やるかどうかだ」
◇
最初の上昇は、かつてとよく似ていた。
足場は濡れている。
手すりは冷たい。
縦穴を吹き上がる風は、まだ容赦なく体温を奪っていく。
「相沢、右端」
北条が後ろから指示する。
「前のループでは、お前、真ん中だった。
でも今回は、黒板に一番近い位置で動いた方がいい」
「何のループの話だ」
「知らねえよ」
北条は肩をすくめた。
「ただ、ここから先は“前にあったかもしれない何か”を全部疑う」
濡れたタイルが、一枚ぐらりと揺れる。
塔が「最初の犠牲」を欲しがっているのがわかる。
「来るよ」
ツムギが耳を押さえた。
「右斜め前、ひとり分だけ音が薄い。
さっき、相沢くんが立ってたとこ」
「つまり、“前の世界線”の落下位置だ」
ユイが短く言う。
「そこを空ける」
「空ける?」
「誰も立たない。
塔が期待している位置に、人間を置かない」
レンは即座に判断した。
「列、ずれるぞ!」
号令と同時に、十三人の足が一斉に動く。
右端を空け、誰も踏まないゾーンを作る。
その瞬間、塔がいらだつように揺れた。
タイルが一枚、音を立てて外れ、縦穴の底へ落ちていく。
だが、その上には誰もいない。
「……今の、ほんとは誰かいたんだよね」
牧野が青い顔で言う。
「“前”では」
「前がどうでも、今いなきゃそれでいい」
レンは言った。
「これが、“分岐の選び方”だ」
黒板の「条件、更新」が、背中を押す。
◇
二層目に着いたとき、誰もいなくなっていなかった。
名簿には、新しい点が増えていない。
踊り場の黒板には、短い文が浮かんでいた。
よくやった
「褒められた……?」
ツムギが首をかしげる。
「褒められたときが、一番危ない」
ユイが冷静に言う。
「塔は褒めてから落とす。
“条件を守れてますよ”って安心させたところで、別の角度から揺らしてくる」
「性格悪いな、塔」
「だからこそ、性格悪く返す」
レンは黒板に近づき、チョークを走らせた。
よくやった
だが、まだ誰も選ばない
塔の文字に、人間の文字を重ねる。
白と白が混ざり合い、どちらの線かわからなくなる。
三層目。
四層目。
かつて誰かが落ちたポイントで、列は意図的に“別の一歩”を選んでいく。
アンカーを複数人で分散し、背面登りの負荷も順番に回す。
「俺だけが悪い」と言い出しかけた米倉の口を、ツムギが真正面から止める。
「それ、今言うと塔が喜ぶやつだから」
甘い贖罪を、塔に渡さない。
代わりに、「じゃあ次の階層の配水の運び役、一緒にやろう」と役割に変換する。
塔は揺れ続ける。
一層ごとに、一人。
その前提を崩された苛立ちが、鉄骨を震わせている。
だが、決壊はしない。
誰も落ちないまま、階数だけが増えていく。
◇
いつか見た踊り場にたどり着いたとき、レンは足を止めた。
逆勾配の階層の手前。
あのときユイが一歩下がった場所。
黒板には、文字がひとつだけ書かれていた。
静かにしろ
「ここ、音が……」
ツムギが耳を押さえた。
「変だね。
塔の音が、遠い」
レンは自分の心臓の鼓動すら、少し遠くに聞こえることに気づいた。
塔が静まり返っている。
さっきまでの苛立ちが、嘘みたいになくなっている。
「……考えてるんだ」
ユイがぽつりと言う。
「条件を、組み直してる。
“どうやったら一層ごとに一人落とせるか”じゃなくて、“どうやったらこの人間たちを揺らせるか”に」
「じゃあ、その間に進もう」
レンは笑った。
「塔が考えてるあいだに、俺たちは動く。
それが、一番の嫌がらせだろ」
「賛成」
ツムギが、小さく手を上げた。
「ねえ、相沢くん」
「ん?」
「ここでさ。
ちょっとだけ、耳を塞いでもいい?」
レンは目を瞬いた。
「耳を?」
「うん」
ツムギは、両手で自分の耳をそっと押さえた。
「今、塔の音があんまりしないから。
“静かな方がいい”って約束、今ここで守っておきたいなって」
その仕草は、不思議と安心させた。
「……静かだ」
ツムギが目を閉じたまま、呟く。
「本当に、静か。
誰かの悲鳴も、落ちる音も、しない」
レンは、その言葉を胸に刻んだ。
「じゃあ、この静けさを持って、次の階に行こう」
再び名前を呼ぶ。
二人一組で誓約を確かめる。
塔の黒板を見つけるたびに、その文の下に「選ばない」を書き足していく。
一層ごとに、一人。
選ばなくていい。
選びたくない。
選ばないまま上がる方法を、ここで見つける。
黒板の端に、また新しい文字が浮かんだ。
分岐、記録中
「……見てるね」
ユイが苦笑する。
「塔、“学習”モードに入ったよ」
「だったら、存分に見せてやろう」
レンは言った。
「人間の心が崩れやすいっていうなら、同じだけ組み直せるところを」
◇
最上階の扉は、まだ遠い。
海は荒れたままだ。
縦穴の底から吹き上がる風は、相変わらず冷たい。
塔は完全には折れていない。
それでも。
誰かが笑い、誰かが頷き、誰かが名前を呼ぶ。
その声が、波より強くなっているのがわかる。
「相沢くん」
ツムギが隣で息を整えながら、笑った。
「物語、終わりそう?」
「終わらない」
レンは即答した。
「ここで終わらせたら、塔の思うつぼだ。
俺たちは、“続きのある方”を選ぶ」
最上階のもう一つの扉を、レンは見ない。
観測者の座に落ち着くことを、選ばない。
代わりに、新しい十三人の中に戻っていく。
自分もその一人として、最初の言葉を与える。
「上がる」
彼は言った。
「誰も落とさないで上がる方法を、ここで見つける」
塔は軋む。
海は吠える。
黒板の文字は、黙って見ている。
レンは一段目に足を置いた。
足場はまだ濡れている。
滑りやすく、冷たくて、心許ない。
でも、その上には十三の足が乗る。
崩れやすい心を、何度でも組み直すために。
選ばなくていい一人を、本当に“選ばない”ために。
相沢レンは、一段目を踏みしめた。
《了》




