9話 新装備
ここにきて1か月が経った
私はひたすらに刀を振り続けた
が、未だにあの日見た動きのように上手くは動けなかった
「あ、マリちゃん。この後隊長室呼び出しですよー」
お昼を食べながら矢守さんが思い出したように言った
口に運びかけていた箸が止まる
「…私、なにかしちゃいましたか?」
矢守さんが首を横に振った
「多分別のことだと思うよー
早く食べて一緒に行こうか!」
矢守さんの頬袋がみるみる膨らんでいく
「…矢守さん、よく噛んでくださいね」
「はひこまいー」
そう言って矢守さんは敬礼した
隊長室のドアを開け入ると隊長が机に突っ伏していた
「おぉう、来たかぁー」
いつもの元気がない
横では黒木副隊長が笑顔で立っていた
「もう少し待ってくれー、あと2人来るからー」
隊長は顔を上げないで言った
その時扉がノックされた
「失礼します
ってあれ?マリさんと矢守じゃん
二人も呼ばれてたんだ」
入ってきたのは名取さん、と後ろにもう一人いた
「宮村…さん」
入ってきたのは宮村さんだった
あの日から会うことはなかった
気まずい雰囲気が広がる
「おーし、皆そろったなー
んじゃ伝達事項だ」
めんどくさそうに立ち上がった後伸びをした隊長は
そのあとにピシッと立ちなおした
「名取、宮村、矢守、望月4名は
本日20:00召集
22:00より任務を開始、予定終了時間は未定
ただし日の出前には終わらせろ
場所と内容は、名取お前が確認しろ」
「わかりました」
そう言って名取さんは副隊長から一枚の紙を受け取った
「召集までは好きに過ごしていい
以上、解散
あっ、矢守と望月、二人は武器庫行っとけ
望月の装備ができてるらしい」
そういうと、また隊長は机の上に溶けていった
「じゃあ矢守、受け取ったら僕の部屋来て
共有するから」
「かしこまりー」
そう言って部屋を出てそれぞれ歩き出した
「矢守さん、さっきのって…」
「そう任務、マリちゃんは初任務かー
いやー、緊張するね!」
そう言って矢守さんは鼻歌を歌いだした
いつも通りすぎる矢守さんとは反対に
私は不安に押しつぶされそうだった
「望月さんですね、今装備をお持ちします」
受付の男性が奥に装備を取りに行き、一振りの刀を持ってきた
「お待たせしました
こちらが望月さんのご注文の品です」
私はそれを受け取り、抜いてみた
練習用とは全く違う
驚くほど手になじんだ
刀身はすらりと伸び
わずかに発光しているかのように澄んでいる
「これが私の…」
「いいね!マリちゃんかっこいいー!
この刀、名前ってあるの?」
「そいつは【心月】俺が打った刀だ」
奥から一人の男が出てきた
「俺の刀を持つ奴がどんな奴か見に来たが、
なかなか様になってるじゃねぇか」
そう言って男は二カッと笑った
「ありがとうございます!凄く気に入りました!
それにずっと使っていたかの様な…
これなら、なんとか戦えそうです」
「うれしい事言ってくれるねぇ!気に入った!
俺の名前は関 哲雄だ
使ってみて要望あれば、俺の名前出して持ってこい
すぐ見てやるからよ!」
そう言い残し、奥に戻っていった
「すごいねー、元気の塊って感じ!」
矢守さんはそんなことを言っていたが
私はそれより心月に見惚れてしまった
刀を携え、廊下を歩く
カチャカチャと腰の刀が揺れる
何となく柄を触り、口元が緩んでしまう
「なとりーん、来たよー」
そう言って矢守さんがドアをノックした
いつの間にか名取さんの部屋についたようだ
中に入ると名取さんと宮村さんが椅子に座っていた
宮村さんと目が合い、私に再び緊張が走った
「ちょっと宮村!私のマリちゃんを睨まないでよー!
マリちゃん怖がってるでしょ!」
「睨んでねーよ!これは元々だ!
それに、
そいつにボコボコにやられた俺の方が可哀そうでしょうが!」
「うわー、負け犬がなんか吠えてるー」
「てめっ!矢守!」
「キャーこわーい」
そう言って矢守さんが私の後ろに隠れた
「二人ともその辺にして
ごめんね、望月さん
このバカどもはいつもこうなんだ」
「「バカじゃねーし!」」
二人は同時にそう言い、それに気づいてにらみ合っている
名取さんはため息をつき
机をペンで叩いた
カツーンと音が部屋に響く
「二人とも、黙って椅子に座れ」
一気に部屋の空気が冷え
二人はゆっくりと椅子に座った
「それでは、内容の共有を始める」
名取さんはさっき受け取った紙を机に出した
「内容は施設の制圧
ここは誘拐犯の基地らしい
規模は小さいがギフト持ちの可能性もある
気を引き締めていけ
質問がある人は?」
私はゆっくりと手を挙げた
「すいません、ギフト持ちがいるかもって
ギフトは珍しいはずだし
普通に生活してても重宝されるのに
そんなことをする人がいるんですか?」
宮村さんが鼻で笑った
「よく考えろ、
いなかったら俺たちがいる意味がない
警察で十分だろ」
そう言って腕を組んだ宮村さんにペンが飛んで行った
ペンは宮村さんの額に当たり飛んで行った
名取さんは私に笑って続けた
「望月さん、当然の質問です
まず前提として、一般人が思っているほど
ギフト持ちは少なくありません
そして、その人たちの中には
戦闘狂や研究のために他人を巻き込む人いる
悲しいことにね」
名取さんは手を組みなおした
「そういう人たちは他人の命を何とも思っていない
これからは君も奴らを相手にする覚悟を持った方がいい
…少し説教臭くなってしまったね
共有はこれで終わりだ
望月さん、今日は初任務だから
一度部屋に戻ってゆっくり休むといい
時間には遅れないようにね」
そう言って名取さんは紙を燃やしてしまった
「矢守ちょっと…」
名取さんは矢守さんに耳打ちをした
「オッケー、了解」
「宮村は少し残って手伝ってくれ」
名取さんは言った
「しょうがねえな、早く終わらせろよ」
宮村さんは渋々立ち上がった
部屋に帰ってきたはいいが気持ちが落ち着かなかった
「休んでおかないと、つらくなるよ」
ルイが目の前に現れ椅子に座った
「でも、落ち着かない
初めての任務だ
どうしよう」
私は焦っていた
ミスはできない、失敗はできない
足を引っ張ってしまったらどうしよう
考えれば考えるほど心臓は暴れ
休むどころではなくなってしまう
「とりあえず、布団に入りなよ」
そう言ってルイは私をベッドに促し寝かせた
そしてベッド脇の椅子に座り話し始めた
「心配することはない
皆マリのことを助けてくれる
それにマリには俺がいるじゃないか
君が心配するようなことはない
今は現場を知ることだ
何も怖いことなんてないんだよ」
ルイは子供をあやすように私に語りかけ続け
次第に私の意識はベッドへと引き込まれていった
マリを部屋に送った後
「おまたせー、まった?」
名取の部屋に矢守が入ってきた
「おせーよ、もっと早く来い」
「宮村には聞いてないでーす!」
「だから二人ともやめろ!」
名取は続けた
「今回の任務、俺も矢守も
病み上がりとはいえ宮村も
上位メンバーで編成されるなんて
いくら望月さんの付き添いだからって
戦力が多すぎる
…今回は、少し気を引き締めた方がいいかもしれない」
名取が真剣な面持ちで言った
「おー、なとりんの勘は当たるからなー
今回は少し楽しそぉ」
矢守は笑っている
「病み上がりにはちょうどいい」
宮村そう言った
「お前ら、何でもいいけど怪我だけはするなよ
あと、望月さんがいるってことも忘れずにな」
名取さんはため息をついた
「…なにもなければいいがな」




