31話 引き金
着替えを済ませ、机にかけてある心月と晴赫が目に入る
「一応持っていくか…」
そう言って二振りを腰に差して、矢守さんの病室に戻ると
月見と名乗った男は90度のお辞儀をしたままの姿勢で待っていた
「…ずっとそうして待ってたんですか?」
私が引きつった顔で聞くと、矢守さんと若菜さんが笑顔で振り向いた
「マリちゃんこいつ凄いで!何やっても微動だにせんかったわ!」
「私が乗っても動かなかったのよー」
2人はこの男のことを気に入ったようだ
「準備できましたか!では、参りましょう!」
月見さんは姿勢を戻すと歩き始めた
「矢守さん、若菜さん、すいません!少し行ってきます」
私は2人に頭を下げる
「ええで、ただ無理したらあかんで」
「マリちゃんなら大丈夫でしょー?」
2人はそう見送ってくれた
私は笑って振り返ると、急いで月見さんを追いかけた
「いい先輩方ですね!」
私が後ろに追いつくと、月見が言った
「自慢の先輩方ですので」
「そっかー、羨ましいなぁ」
初めて月見さんが少し本音で話した気がした
その後は会話もなく、二番隊の部屋の前に着いた
「ここから先へは、おひとりでどうぞ」
扉の前で月見さんが立ち止まった
「一緒に入らないんですか?」
「私の同行はここまでしか許可されていません
気にせず、お進みください!」
私は前に進み、ドアをノックしようとした
「ええで、入ってき」
中から、月元隊長の声が聞こえた
私はドアを開けて、中へと入った
「悪いなぁ、急に呼び出してしもうて」
中は執務室のようになっており、
少しやつれた顔をした月元隊長が座っていた
「随分お疲れの様ですが、何かあったんですか?」
私が聞くと、月元隊長は近くにあった手鏡を手に取り、
自分の顔を見ると、ため息をついた
「あんたとの前回の立ち合いから、私は実家の資料を漁ってたんや
どこの誰が、月元の秘伝を持ち出したんか探るためにな?」
そう言いながら、机から一冊の本を取り出した
「これは、月元家の家系図や。ここには本家筋にいる人全員の名前が載っとる」
「何故本家筋だけなのですか?これだけ人がいれば、分家もあるでしょう?
分家でも、月元流の剣術を教えているのでは?」
私がそう聞くと、月元隊長の目が鋭くなった
「そりゃあ、あんたが夜天を使えるからや。
ええか?本来、夜天は月元の当主候補にだけ伝えられるんや。
やのに、そのはずやのに、あんたが使えるっちゅうことは
あんたに教えている奴は少なくとも、当主候補になる
でも、あんな夜天を使うやつは私は見たことない」
月元隊長はページをめくる
「その中で、私は【行方不明者】【生死不明者】だけを探した。
そうしたら、2人だけ該当する人が見つかったわけや
それも、割と新しい時代にな?」
そう言ってあるページの名前を二つ指さした
「不思議なことに、この時代、私らの一つ上の世代だけで二人や
1人は、【月元 命】」
私の心臓がドクンと、大きく動いた
「もう一人は、【月元 未来】」
その名前を聞いた瞬間、私の感情
…いや、ルイの感情があふれ出した
「その名前を口にするな…」
私の口から、ルイの言葉が飛び出す
「ふーん、ほな、あんたは未来、いや?
本人じゃなくての関係者ってとこか?
多分未来のー、子、やろ?」
「その口を閉じろ!」
ルイが腰から下げていた心月を抜いて、月元隊長に向けた
「図星やん!私の推理も、なかなかのもんやろ?
…で、あんた抜いたそれ、どうする気なん?」
月元隊長が近くに置いてあった刀を手に取った
「ルイ!何やってるの!早くそれを下ろして!」
私がそう言うと、ルイは少しこちらを見た
「君も、僕の居場所を、奪うの?」
今にも泣きだしそうな、子供のような声でそう言った
「なら、全部敵なら、全部殺さなきゃ
全部殺すなら、全部壊さなきゃ、
殺さなきゃ壊さなきゃ…」
「ルイ!なんか変だよ!どうしたn…!」
その時、私の頭に、名取さんの声が聞こえた
「言動、行動の変化。戦闘行為への快楽、執着の増加なんかがある
今回の望月さんみたいにね」
もしかして、もしかしてルイも!
私は必死に叫んだ
「月元隊長!扉です!早く、逃げてください!
これは、こっちでなんとかするので!早く!」
ルイを抑えるために身体の主導権の取り合いになり、身体はもつれながら、
棚に当たり、物を吹き飛ばし、家具を砕いた
「どうかしましたか!」
音を聞きつけ、月見が部屋のドアを開けた
「月見!これ持っといて!マリの扉が発症した!」
月元隊長は家系図の本を月見に投げた
「扉!?この人、この間発症したばっかりでしょう!?」
本を綺麗にキャッチしながら月見は驚く
「そんなん私も知らん!それだけ持ってあんたも早く逃げ!ここは私が抑えとく!」
月見が走り去った後、月元隊長は手を叩いた
髪が銀色に染まり、闇を従える
「私が相手や!私の部屋荒らしたツケは払ってもらうで!」
それを見たルイの目が変わる
「月元…、つきもとぉ!
死ね死ね死ね死ね死ね死ねしししししし…」
突然電源が切れたように、ルイの抵抗がなくなった
手から力が抜け、心月がガシャンと床に落ちた
「殺さなきゃ、殺される前に…」
ルイがゆっくりと首に親指を当て、そのまま切るように指で首をなぞった
「しぬのはおまえ」
ルイの髪が銀色に染まった
そのあとすぐに根元から髪が真っ黒に染まっていく
「ぼくはしなない、ぼくがこわす」
銀色に染まった闇が両腕に集まり、
まるで腕がそのままナイフになったようなきらめきを放っている
「なんやこれ…!こんなん夜天やない!
あんたのこれはなんなんや!」
「絶殺 夜天」
ルイが軽く腕を振り上げた
凄まじい風を起こして、月元隊長を切りつけ、斬撃は空まで伸びた
切れた天井から空が見える
「ほんま、バケモンやないか…」
月元隊長はギリギリで躱していた
そのまま空を見上げると、雲を切れ、空気を切れ、空も切れていた
斬撃の通った後の空には星がきらめく夜空が見えている
「ルイ!もうやめて!戻ってきて!」
私がそう言っても、ルイはもう見向きもしない
私は…
「今度は、私が!」
私は身体を一瞬奪うと、両手を強く打ち合わせた
「晴天!外装!」
髪が半分だけ赤く染まった
「まだまだぁ!」
私は自分の能力で炎を起こした
これは燃える炎
それを自分の体へと広げる
「ぐっ!まだ、足りないっ!」
次に私は晴天外装で自分の体を包み込んで、縛り上げて
ルイはそれに気づき晴天外装を切り払う
「熱さと痛みで動きが鈍いよ、ルイ!」
私はどんどん体に巻き付けていく
何層も、何層も、何層も
それはまるで、蝶の繭のように
外の光まで完全に遮断され、暗闇になると、ルイの動きがやっと止まった
「ルイ、ごめんね」
私は動かなくなったルイの精神へと潜り込んだ




