21話 黄昏時
予定時刻
私達の集結が完了した
「今回の任務は不測の事態も想定される。移動しながら情報のすり合わせを行う」
名取さんは言った
今回の移動はいつもの車ではなく、トラックだった
荷台の壁際に沿うように座席がついている
いつもと違う車、雰囲気に少しドキドキする
トラックのエンジンが掛かり、動き始めた
「今回、頭に入れておいてほしいことを伝える」
名取さんが切り出した
「まず、前回聞いた施設長、情報だと、
細身の男、体格のいい男、覇気のない女、小柄な女、など
様々な情報があった
この情報を考慮し推測する、変身系のギフトを持っている可能性が高い
そして、本来の姿が確認できないため、被害者の中に紛れている可能性もある」
名取さんの発言が止まった
息を吸い込み、少し口ごもる
歯を食いしばると、続けた
「今回の作戦、被害者救出は行わない
これは、尾藤隊長と話し合った結果であり、決定事項だ」
名取さんが拳を強く握る
「そ、れは…!」
私が言いかけると
「りょうかーい」
「まぁ。しょうがねぇな」
矢守さんと、宮村さんがそう答えた
私は亀井さんと、遠藤さんを見た
亀井さんはうつ向き、震えている
遠藤さんは、目を閉じ頷く
「納得できません!」
私は立ち上がり、そう言った
「望月さん…!
…言いたいこともわかる。けど、特定ができない以上、隊員の安全を考慮し
こうするしか、ない」
名取さんは言った
「望月、少し落ち着け」
宮村さんが口を開いた
「そうだよ、マリ。少し落ち着きな」
ルイまで、そんなことを言う
「落ち着けるわけないじゃないですか!
何なんですか!なんでそんなに落ち着いてるんですか!
命は、そんなに軽いものなんですか…」
私がうつ向くと、宮村さんがため息をついた
「ガキかよ、よく考えろ。
敵のボスが被害者に紛れ、人質にする!
こいつらを助けたければ、他の隊員を殺して来いと!
その時お前はどうするんだ、俺たちを殺すのか?
本当に助けるかもわからない敵の言葉を聞き、俺たちを殺すのか!?」
宮村さんが私の服の襟をつかんできた
「全員助ける方法を探します!」
「そんな方法はない、あっても考えてる時間はねぇ!
現実を見ろ!おまえは、味方か?それとも敵か!」
そう言って私を座席に押し倒した
「俺たちは人間だ。人間はこの手でつかめるモノしか守れない
だから、助けるだけじゃなく捨てる覚悟を持て!
…死んだら何も守れないんだからな」
そう言って宮村さんは自分の席に戻った
何も言い返せなかった
私は唇をかみしめる、ほんのり血の味がした
「…わかりました、作戦に従います」
私がそう言うと名取さんが頷いた
「大切なのはそれだけだ、あとは各自の現場判断に任せる
みんな、死ぬなよ」
死ぬな
身近であるはずの言葉が今日はいつもより重く感じた
現場は住宅街だった
ある家のインターホンを押すと
笑顔の家族が出てきた
「こんな時間に、うちに何か御用ですか?」
奥さんがそう言うと、名取さんが前に出た
「魂の輝きは至上の宝石であると聞いて、あなたにお話を伺いたいのです」
それを聞いた奥さんの顔がぱぁっと明るくなる
「それはそれは!どうぞ中にお入りください!」
そう言って家の中に招き入れられる
中に入るとリビングに通された、普通の家に暖炉だけ妙に似つかわしくない
「少々お待ちになって?」
そう言って奥さんが棚をいじると、暖炉の奥からエレベーターが現れた
「どうぞ、お待たせしました」
そう言って奥さんがエレベーターの方へ手を向けた
私達がエレベーターに乗り込むとドアが閉まった
奥さんはドアが閉まり切るまで外で手を振っていた
次にエレベーターが開いたとき、見覚えのある空間に出た
初めての任務の時と同じ構造
「僕、宮村、矢守で制圧に向かう
望月、亀井、遠藤はここで待機
…一人も逃がすな」
名取さんがそう告げた
「了解です、お気をつけて」
亀井さんがそう答えた
私は刀の柄を強く握る
3人が行った後も、私は警戒を解けなかった
部屋の奥から、銃声が聞こえる
エレベーターが動くかもしれない
前後を細かく確認する
すると、名取さん達が進んだ方から、男の子が泣きながら歩いてきた
手には、ボロボロになった兎の人形を持って、ふらふらとこちらに歩いてくる
「…ひぃ!」
男の子がこちらに気づき、座り込む
遠藤さんが弓を構えた
「待って遠藤君!相手は子供だよ!」
亀井さんが飛び出した
「どけ、命令違反だ」
構えたまま遠藤さんが言った
「けど!こんな子供まで!」
亀井さんの気持ちは痛いほどわかる
本当は、私だって…
刀を持つ手が震える
その時、亀井さんの後ろにいる子供が笑った
「…っ!亀井さん!」
とっさに走り出し、亀井さんの襟をつかむと、こちらに引き倒す
「抜魂」
子供から、そんな声が聞こえた気がした
「…は?」
俺は、いつの間にか、マリの体の主導権を持っていた
「わぁ、すごく赤い!やった、レア色だ」
目の前の子供の手には、赤色のビー玉のようなものが握られている
「でも、赤かー、赤はあんまり使い道無いんだよねー
でも!ここまで綺麗なら、コレクションにはピッタリ!
いい拾い物したなぁ」
そう言って赤い球を眺める子供
その玉からは、マリの気配を感じる
「マリ!」
周りを見渡すが、マリの姿は無い
「…それを、返せ!」
子供に掴みかかる、一瞬驚き、子供とは思えない身のこなしで避けられてしまう
「なんで君動けるの?魂抜いたら、皆動けないのに
あ、もしかして!」
俺は、子供に切りかかる
「危ないな、当たったら痛いじゃないか!」
「うるさい!それをかえせ!」
子供はポカーンとした顔をした後、握っている赤い球を見た
「…へぇ、大切なものなんだー
じゃあ、ヤダ。これはもう僕のだからね!」
怒りが湧いてくる
「…殺す!」
両手を強く打ち合わせた
「やってみれば?」
子供は笑っている
「イラつく顔しやがって!」
俺は刀を持ち直し、切りかかるが
子供はまるで幽霊のようにゆらゆらと躱す
「ほらほらー、当たらなーい!」
子供がそう言った時、子供の腕に矢が刺さった
見ると遠藤が次の矢を構えている
「よくやった!」
その一瞬の隙を見逃さず畳みかける
首に刀の先が当たるが、切り落とすのは叶わなかった
「…痛い、じゃないか、よくも、よくも!!」
子供の顔が歪む
「…なんてね、ちょっと分が悪いな
悪いけど、撤退させてもらうね」
すぐに笑顔が戻った子供は手を振った
「死者の通過儀礼」
子供の目の前に門が現れる
「じゃあね、ばいばーい」
そう言って子供が入った門はすぐに消えてしまった
「くそ!どうしよう、どうすれば…」
俺はその場で動けなかった
「あの、ごめん、僕のせいで…」
亀井が俺の肩に手を置いてきた
「触るな!」
俺はその手を振り払う
その瞬間、ハッとした
「…いや、すいません
少し、取り乱しました…」
今はルイじゃない
落ち着け、マリの印象を崩してはいけない
「うん、僕の方こそごめん…
僕の覚悟が、足りなかった」
亀井がそう謝った
そうしているうちに先行の3人が戻ってきた
「中の制圧は終わった、こっちはどうだ?」
名取が聞いてきた
「一人逃がした」
遠藤さんがそう答えた
「は?逃がしただと?ふざけた事言ってんじゃねえぞ
入り口はお前らがふさいでたはずだろ、昼寝でもしていたのか!」
宮村が怒鳴る
「交戦しましたが、殺しきれませんでした
相手は、空間移動のギフトで逃亡
私の、力不足です」
俺はそう言って、頭を下げた
マリの頭を下げてしまった
「いえ!僕が行けないんです!僕が子供に油断したから
それで望月さんは被弾を、僕のせいなんです!」
亀井がそう言って頭を下げた
「お前!車内で言った事聞いてなかったのか!」
宮村が亀井に掴みかかる
「今はそんな時間はない撤退するぞ。
望月、体に異常はあるか?」
名取が俺に聞いてきた
「問題ありません」
そう答える、俺の顔を矢守が覗いてきた
「マリちゃん、帰ったら私と少しおしゃべりしようねー」
「わかりました」
そう答える
「よし、なら撤退する
…上の家族も全員処理を行う」
そう言いながら、エレベーターに乗り込んだ




