20話 昼過ぎ
一週間後
私は訓練場である練習をしていた
両手を打ち合わせ、心臓が高鳴る
「…夜天、外装!」
グッと力を籠める、何かが湧き上がる気がする…
ポスン、と間抜けな音と共に何かが散っていった
「な・ん・で!できないのよー!」
私は床に倒れこんだ
「それだけこの技は難しいんだよ。マリにはまだ早いかもね」
ルイが茶々を入れてきた
「ルイに、言われた通りにやってるのに…」
もう一度始めようと立ち上がった時、扉が開いた
「めいどー!マリちゃんやってるー?」
矢守さんが入ってきた
「今少し、行き詰ってます…」
「まあそんな日もあるよねー!そんな時はご飯を食べるのです
お腹いっぱいでお昼寝でもすれば、突然アイデアが湧くことも!?
てなわけでー、マリちゃんお昼いかない?」
そう言って矢守さんは手を差し出してきた
「正直少し疲れたので、矢守さんの案、採用です!」
そう言って矢守さんの手を握った
「さすが私の教え子!なら最短距離でぶち抜くぜぃ!」
そう言って扉に走り出した
「…止まれ矢守!」
扉から名取さんが顔を出した
「ことわぁーる!」
矢守さんが頭突きをしながら名取さんを突破した
床に倒れる名取さんを助けようにも、矢守さんに握られた手は、
万力のように固く、振り解けない
「…名取さん、許してくださーい!」
私はそう叫ぶことしかできなかった
食堂にたどり着き、やっと私は解放された
「今日はどれ食べようかなー」
矢守さんはご機嫌だ
あれだけ走って、息も上がっていない
「私、名取さんの所戻りますね!」
息を整えながら、私が言うと、矢守さんがゆらりと振り向いた
「マリちゃんは、私との食事より、なとりんを、とるのー?」
黒く深い瞳が私を見つめる
今日の矢守さんは一段と空腹の様だ
「名取さんすいません。私は行けそうにないです!」
そう言って私は名取さんが倒れているであろう方に合掌をした
今日の矢守さんはカキフライ定食
リスのように口いっぱい頬張っている
その後ろから、ゆらりと人影が歩いてきた
「やーもーりー?なにご飯なんか食べてるんだい?」
名取さんが矢守さんの肩に手を置いた
「お腹がすいたからさー!」
笑顔で矢守さんが答える
「そうかそうか、ご飯はおいしいか?」
「もちろん!だから邪魔しないでよー」
名取さんが引きつった笑顔を浮かべ、その後諦めたようにため息をつき、
カウンターの方へ歩いて行った
「今の矢守に何か言うだけ無駄か…」
そう言って名取さんがカレーを持って帰ってきた
「なんか、ごめんなさい…」
私はなんだか申し訳なくなった
「望月さんが謝ることないよ。全部矢守が悪いから」
名取さんがカレーを口に運んだ
「そういえば、望月さん。二番隊の月元さんと派手にやり合ったらしいね」
私の手が止まる
「…噂になってるんですか?」
「噂っていうより、若菜が広めてるぞ。
矢守の弟子が矢守化してきたって」
名取さんが笑っている
「若菜は口軽いからな。天岩戸くらい、
しっかりした戸でも立てないとすぐ広まるぞ」
「それ、実質無理ってことじゃないですか…」
私はコップを手に取った
「悪いことばかりじゃないさ。
最近は望月さんに感化されて、まじめに訓練を行う人も増えたし
隊の中での君の評価も上がってきている。
…コレの世話係が大変なのはみんな知ってるからね」
名取さんは矢守さんの頭をポンポンと叩いた
その時、名取さんの携帯が鳴った
名取さんが席を立ち、電話に出るとしばらく話したのち、席に戻ってきた
「望月さん、例の件の調査が終わったみたいだ
この後、俺と矢守と望月さんに召集がかかった」
「…わかりました!」
私は食べかけのうどんを一気に食べきり、食器を片付ける
「…やっぱり、矢守に似てきたな」
名取さんがボソッとそうつぶやいた
名取さんが隊長室の扉を開けた
「失礼します」
中に入ると既に二人、先に来ていた
「亀井さん、遠藤さん」
「あ、望月さんも呼ばれてたんだね。少し安心したよー」
亀井さんが笑った
遠藤さんは相変わらず何も言わない
「あとは宮村か…」
隊長が言った時、ドアが開いた
「…今日は俺が最後らしいな」
それを見た矢守さんがニヤッと笑った
「やーい、遅刻魔ー」
「うるさい遅刻王」
お互いに睨み合う
「そこまで、集まったなら始めるぞ。白鳥、報告」
隊長がそう言うと、白いスーツを着た男が入ってきた
「お初にお目にかかる方もいらっしゃいますね。私、白鳥と申します。
主に偵察、観察、諜報で活動しております。以後お見知りおきを」
そう言ってお辞儀をした
「では、改めまして。今回、望月さんからの情報提供で判明した場所の、
調査を行ってまいりましたので、共有いたします」
白鳥さんはどこからか資料を取り出し配り始めた
「まず結論から申し上げますと、あの場所には、
黒羽の拠点と思わしき施設が存在していました。
私の調査で判明した事項はお手元の資料をご覧ください」
資料には、施設の見取り図、職員数、被害者数など細かく記されている
「以上でございます。なにかご質問がある方は?」
亀井さんが恐る恐る手を挙げた
「この、施設長?が空欄なんですが何ですか?」
「それは私の能力不足で確認が取れなかった箇所ですね
それらしき人物は確認できましたが、情報が錯綜し、
確実なことが分からなかった為、空欄となっております
申し訳ありません」
白鳥さんが頭を下げると、今度は名取さんが手を挙げた
「では、錯綜している情報でも構いません。この後、全て教えてください」
「かしこまりました」
尾藤隊長が頷き、作戦を告げる
「では、ここにいる6人で行動してもらう。作戦は明日、15:00から開始する
各自準備を済ませておけ」
そうして、解散になった
「では、名取様はこちらに」
名取さんは白鳥さんと情報交換を始めた
「話したことがある望月さんがいて助かったよ
他は上位メンバーだらけでプレッシャーが強くて、
せめて、皆の足を引っ張らないように…」
「私、亀井さんたちの前にこのメンバーで一回作戦に行きましたが、
ほんと、私なんかいらないくらいでしたよ」
私がそう言うと、頭を抱えていた亀井さんがバッと顔を上げた
「望月さんの…裏切者―!!」
そう言って亀井さんが部屋を飛び出していった
それに続き、遠藤さんも部屋を出ていく
「マリちゃん、ちょっといいかなー?」
私は矢守さんに肩を掴まれた
「なんでしょうか?」
私が振り返ると、矢守さんは笑った
「今回の情報提供、マリちゃんだってねー。
お手柄じゃん!
で、その情報もらったの、私たちが出かけた時だよね?」
私の背中を冷たい汗がつたっていく
「すいません」
「別にいいんだよー?
マリちゃんが私達を信用してくれてなかったんだなーって思っただけ」
口調はいつも通りだが、この矢守さんは激おこだ…
「そんなつもりは!あの日は楽しかったですし、空気を壊したくなくて
…今度からはちゃんと相談します」
それを聞いた矢守さんは私の頭をなでてくれた
「少し意地悪なこと言ったね。けど、もっと信用してよ
私は先輩なんだよ、マリちゃんは後輩なんだからもっと頼ってよ
マリちゃんはね、1人で抱えすぎなんだよ」
それを聞いて、私は顔を上げた
「すいませんでした!今度から、いえ!これからもよろしくお願いします!」
「うん、任されたー!」
そう言って矢守さんは笑って敬礼をして見せた




