19話 二つの月
闇を纏うルイを見た月元隊長は驚いていた
「ほんま、マリはんのお師匠は只者やないな。
月元の秘伝をホイホイと教えよって…」
「驚くのはまだ早いですよ!」
ルイがそう言うと
外套のようになっていた闇が手足に巻き付き、全身をキュッと締め上げた
「これで、少しは動ける」
ルイは笑った
「ほんま、末恐ろしいわ。なんで、並みの当主候補なんかより習得が早いんや
こりゃ、手加減なんて、できんな」
そう言って月元隊長も笑う
「いきますよ!」
ルイが最初に仕掛けた
月元隊長はこれを受けて鍔迫り合う
「おっもいわぁ!」
そう言って振り払うと、2人ともその勢いをそのまま回転に移す
2人の木刀がうっすら光った
「月元一節 居待月」
2人の斬撃は飛ぶようにぶつかり合う
「二節 朧月」
そう言うと月元隊長がゆらりと姿を消した
「三節 満月」
ルイが光る斬撃を周りに放つと、月元隊長の姿が映し出された
「ほんまあんたなんなん!?普通やないで!」
「誉め言葉として、受け取っておきます」
ルイが笑った
私は、そんな2人を眺めていた
…思ったより、空は果てしなく遠い
私は自分の頬を叩いた
「私が弱いなんてわかってるはずでしょ!なら今は!」
2人の一挙一動全て、見逃さないように!
「…私もギフト、使わせてもらいましょ」
月元隊長はそう言って、腕を伸ばし、指先をこちらに向ける形で手を打ち合わせる
パンっと澄んだ音と共に、月元隊長の髪が銀色へと染まる
「夜天外装」
月元隊長にも闇が集まる
「これが本家本元、月元の夜空や!」
月元隊長の闇は大きく、暗く
そこに光る銀色の髪はまさに、空に浮かぶ月だった
「何もなってない、これが当主候補筆頭とか…」
ルイの体を支えていた闇が木刀へと集まっていく
「笑える!」
そう言ってルイが放った一撃は、
月元隊長の夜空をかき消すように、全て吹き飛ばした
「…ありえへん。こんなのありえへん!
今わかったわ、あんた誰や!マリはんやあらしませんな!」
ルイが笑う
「その話はまた今度に。どうやら邪魔が来たようですし、
私も、時間切れですので」
そう言うと、ルイは崩れ落ちて眠った
その瞬間、部屋のドアが勢い良く開いた
「お師匠様!何やらすごい音がしましたが!お怪我は!」
「私は大丈夫や。それより申し訳ないんやけど、この子、医療棟運んでくれん?」
「えっ、あ、はい!了解です!」
倒れたマリが運ばれ、扉が閉まった後、月元隊長は床に倒れこんだ
「ほんまに規格外やわ。当主候補で私より腕の立つ者はおらん。
なら、分家の人間?それなら夜天は使えんはず…」
様々な考察が頭の中をめぐるが、
結局答えは出ず、月元隊長の意識は遠のいていった
私が目を覚ますと、若菜さんが上から覗き込んでいた
「お、目ぇ覚めたみたいやなー」
起き上がろうと力を入れると、全身に痛みが走る
「起きたらあかんで。筋肉もスジもボロボロ、おまけに骨にヒビまで入ってるからなー」
若菜さんは背中越しにそう言った
「今回は何やったん?任務の予定はないけど、どんな無茶したらそんなんなるんよ?」
カチャカチャと作業しながら若菜さんが聞いてきた
「二番隊の、月元隊長と手合わせを少し…」
それを聞くと若菜さんはため息をついた
「マリちゃんもどんどん矢守に似てくなぁ。
行動まで真似せんでいいのに…」
「何の話ですか?」
私は何とか頭を若菜さんの方に向け、聞いた
「あれ?なんも聞いとらん?あいつも昔、尾藤隊長に挑んでボロボロで医療棟来とったんよ。
そこで年の近かったうちが担当する事になったんやけど、
矢守とようつるむようなってな?ずっと見とるうちに十三番隊専属になってしもたわ」
そう言って若菜さんは笑った
「あら?ちょっと足りひんな?悪いマリちゃん。
足りない分、取り行ってくるからちいと待っててな?」
そう言って若菜さんは部屋を出ていった
「それにしても、ここまで動けなくなるとは…」
私が呟くと、ルイが出てきた
「だから言っただろ?少し覚悟しといたほうがいいって。
相当無理したからね、しばらく動けないよ」
ルイが笑いながらそう言うが、目が少し怒っている
「でも、価値はあったと思ってる」
私はそう答えた
「そう、それなら無理した甲斐があったかな」
ルイはそういって息をついた
「とりあえず、逃げられないだろうけど、その、検討を祈る!」
そう言ってルイは敬礼しながら消えていった
「え?それはどういう…」
同時に部屋に若菜さんが戻ってきた
「待たせたなマリちゃん。さ、お薬の時間やでー」
若菜さんがガラスのコップを手に持ちながら近づいてきた
中に入ってる液体は真っ黒
「それ飲めとか、言いませんよね?」
若菜さんが手に持ったコップを少し眺めた
「安心せい、このままやないから」
そう言って粉を入れると、中身をくるくると混ぜだした
粉が混ざり始めると、なぜか粉が発光し始める
「仕上げはこれや!」
そう言って黄色い錠剤を二つ、コップの中に入れた
液体に入ると錠剤も発光し始める
その様はまるで夜空の様だった
「ささ、グイッと一杯いったってな!」
若菜さんが笑顔で、私の口元にコップを近づける
私の声にならない悲鳴が、医療棟にむなしく響いた




