15話 格の差
翌日、呼び出され隊長室に入ると尾藤隊長が溶けていた
「あぁぁ、おはようマリ。」
隊長がよろよろと立ち上がる
「あ、はい。
…それより大丈夫ですか?」
「飲み過ぎと寝不足でね。だから黒木、今日の分の書類任せたいんだけど…」
隊長が泣きそうな顔で黒木副隊長にしがみ付き、書類を指さした
昨日の副隊長の名前呼びを思い出し、私は少し笑ってしまった
「…望月仕事だ。今日は木下班が任務で出る。お前それに同行しろ。」
副隊長が私を睨みながら言った
「わかりました」
私は笑顔で二人を見守りながらそう答えた
「安心しろ。今回は海外組織の現場だからギフト持ちはいない。
木下はこの後来る。話はそれからだ。
…だからさっさと準備して来い」
副隊長は厳しい目つきのまま、ドアの方に顎をクイッと動かした
「かしこまり!望月素早く準備してきます!」
ビッと敬礼をし、私は部屋を飛び出した
装備を整え隊長室に戻ると、他の三人の隊員はすでに揃っていた
「望月来たな。なら、改めて。
今回の任務は子供を狙った誘拐犯の拠点制圧だ。奴らの本部は海外だから被害者はまだ生きてる。
被害者の救出も忘れるな。以上、質問があるものは?」
隊長がそう告げると私は手を上げた
「犯人の目的は何なのでしょうか?身代金とかですか?」
「奴らはそんなものより価値のあるモノを狙ってる。
…ギフトだよ」
隊長が拳を握りしめた
「奴らは日本にしかないギフトを狙って、自国でも生み出せるように。
研究材料として!子供のギフト持ちを狙って誘拐している!」
隊長が机を力強く叩いた
「だから、犯人を絶対に逃がすな!」
その隊長の顔を見て背筋が冷えた
隊長がこんなに感情を出すのを初めて見た
「…わかりました」
私はそう言うしかできなかった
隊長室を後にして他の隊員についていく途中
「あの、今日はよろしくお願いします」
私は他の隊員に声をかけた
話しかけた男は舌打ちをした
「…今回、副隊長からの指示だからしょうがないが、
俺はお前に一切期待していない。精々頑張れ」
そう言うとまた歩き始めた
「木下君!そんな言い方ないよ!
遠藤君も睨んじゃだめ!
…ごめんね、あの人達キツイ時あるから。
あ、僕は亀井って言うんだ。
よろしくね、望月さん」
そう言って亀井さんは笑った
車に乗り込み移動する。沈黙が重い
隣が亀井さんなのが少し救いだった
もう少しで現場に着くというとき
「今回の現場、望月。中はお前ひとりで行け。
俺含め3人は外で待機。」
木下さんがそう告げた
「ちょっと!なんで望月さんなのさ!危ないでしょ!」
亀井さんが反論してくれた
「うるせぇぞ亀井!俺に意見すんのか?それに、エリートさんはこれぐらいへっちゃらだよな?」
そう言って木下さんはこっちを見た
「いるんだよな、こういう人を見下そうとするやつ。マリどうする?」
ルイが私にそう言った
「…わかりました。大丈夫です」
「望月さん!?
…わかった、君がいいなら僕は何も言わないよ。
けど、無茶したらダメだからね」
亀井さんはため息をついた
「いいね、マリ。前の二人に見せてあげよう。格の違いをね?」
ルイが嬉しそうに笑っている
それを見て私も少し笑ってしまった
今はルイの存在がこの上なく心強い
現場から少し離れた場所に車を止め、目標地点へ向かう
場所は港にある倉庫だった
外には見張りらしき2人が入り口に立っていた
「じゃあ行きます」
「…待て」
遠藤さんが私を止めた
矢を2本取り出すと、弓で入り口の2人を綺麗に射抜いた
「外は俺たちの担当だ。後は好きにやれ」
私は頷くと入り口に向かって走った
中に入ると改装されている。
通路が伸び、部屋が並んでいた
1つ目の部屋には誰もおらず
2つ目の部屋には子供が数人、殴られたような痣もあった。
私が中に入るとそのうちの1人が声を上げた
「た、助けてください!」
私はとっさに子供の口をふさいだ
「待って、今は落ち着いて。ちゃんと助けてあげるから」
私がそう言うと子供はコクンと頷いた
「ここには君たちの他に誰かいるの?」
子供は頷いた
聞くとあと3人、女の子がいるらしい
「…ここにいて、あとで必ず助けに来るから」
子供は私の腕にしがみ付き、首を横に振った
「…ルイ、どうしよう?」
ルイが少し考え、私の体に入る
「お姉ちゃん実はね、正義の味方なんだよ?」
そう言って両手を打ち合わせると髪がスッと銀色に変わった
それを見た子供の目がキラキラと輝く
「正義の味方は絶対に負けない!だから、安心してここで待っててね」
ルイが子供の頭をポンポンと撫でると
子供がキラキラした目でブンブンと頷き、手を放してくれた
「…ルイ」
「…何も言うな」
ルイが照れくさそうに顔を背けた
部屋を出て、深呼吸をして気持ちを切り替える
ここまで誰もいなかった
最後の扉を少し開け、中の様子を伺う
中はこれまでの部屋の中で一番広く、コンテナを乗せたトレーラーが止まっていた
私は素早く中に入り、物陰に身を隠す
…声が聞こえる
息をひそめ声の方に近づくと、女の子が3人、縛られた状態で今まさに車に乗せられる所だった
女の子を乗せた車はそのままコンテナの中に入っていく
「こいつら、手慣れてる。しっかり防音までしやがって」
ルイがそう言った
「…助けなきゃ」
「どうやって?」
「そんなの、決まってる!」
両手を打ち合わせる
パンっと音と共に心臓が大きく跳ね上がった
男の1人がこちらに気づき、銃を構えようと動くのが見えた
「遅い!」
私は刀を素早く抜き、その男の腕を切り飛ばす
その勢いを回転に移し、二太刀目は男の腹部を横にまっすぐ刃が通り抜けた
「抵抗するなら、容赦はしません」
男達は何かを叫びながら銃を撃ち始めた
「狙いが甘すぎる、矢守さんの方が怖いな…」
1人、2人と斬り捨てていく
次第に弾幕は少なくなる
ガシャーン!と大きな音が響いた
音の方に視線を向けると、入ってきた扉とは別
車両用のシャッターから車が2台、外から飛び込んできた
車から敵の増援が大体12人
その後ろから鉄球が飛んできて増援の男たちを薙ぎ払った
「真打登場、てな。生きてるか?新人」
鎖のついた鉄球を担いで、木下さんが入ってきた
「…おかげさまで」
木下さんはニヤッと笑った
「とりあえず、逃げられたら厄介だ。このトラック壊すぜ!」
そう言って投げられた鉄球を、私が間に入り受け止める
「…てめぇ、なにすんだ?」
「このトラックには誘拐された子供が乗っています。」
木下さんが舌打ちをした
「んなこと知るか、誘拐された子供は到着時すでに殺されていました。
俺の報告に、なにか異論は?」
そう言って木下さんが、再び鉄球を投げた
私は鉄球を弾き落とした
「異論しかありません!私はみんな助けると約束しましたから!」
突然、私の後ろから足元に銃弾が掠める
振り返ると男の1人が女の子の頭に銃を突きつけている
「ブキ、ステル、クダサイ」
女の子の口は塞がれているが
目には涙を浮かべこちらを見ている
「だから、何考えてんだよ。
こうすれば楽だろうが!」
そう言って木下さんが鉄球を男に投げた
素早くその射線に入ると、今度は鉄球を切り落とした
「てめぇ、なんの真似だ」
「いいからあなたは…」「…黙って見てろ」
私とルイは同じ気持ちだった
私は、あの女の子の目を知っている
あの子の気持ちを知っている
あの男を、もう人間とは思わない
アイツは、敵だ!
私は1歩前に出た
「マテ!トマル!コノコ、シラナイ!?」
もう1歩、前に出る
「トマル!クルナ!」
間合い
ヒュっと風を切る音だけが響いた
私はそのまま近づき、女の子を抱き抱えると、
ゆっくりと木下の近くまで歩く
「少しだけ、目瞑っててくれる?」
私がそう言うと女の子はギュッと目を閉じた
私は刀を鞘に納める
カチンと音が鳴ると、止まったままの男の首が落ちた
「ヒュー、かっこいい」
木下は笑いながらそう言った
「アレが最後です。被害者の保護に移ります」
私は首の落ちた体を指さしながら言った
「まぁ、待てよ。仕事も終わったし少し喋ろうぜ」
「仕事をする気が無いなら、戻ってもらって構いません。
亀井さんと遠藤さんに状況報告をお願いします」
そういった時、遠くから足音が聞こえた
「2人とも、大丈夫!?」
亀井さんと遠藤さんが、
壊れたシャッターから中に入ってきた
「ちょうど良かった。亀井さん一緒に被害者の子供達を保護しに行きましょう。
遠藤さんは本部に応援要請をお願いします」
木下が舌打ちをした
「さぁ、亀井さん行きましょう」
私は亀井さんの手を引き、子供達の保護に向かった
数十分後、保護隊が到着し、子供たちは無事保護された
帰り際、人質にされた女の子が私の服の裾を掴み
「ありがとう」と言っていた
私はそれが、とても嬉しかった
「ミコトもこんな気持ちだったのかな…」
外は雨が降っていた
しかし、空を見上げてしまう
雨が目に入り、世界が少しだけ滲んだ
「望月さーん、僕たちも帰るよー」
亀井さんが私を呼んでいる
「今行きまーす!」
私は走って車へと向かった
部隊に帰ると、そのまま隊長室に呼び出された
「おかえり、今回はどうだった?」
「いや、ほんと今回は大変でしたよ…!」
私を遮り、木下が喋りだした
「今回この新人は、独断専行するし、勝手に戦闘も始めるし、
庇ったときに俺の愛武器も壊れるしで、俺だけ外れくじでしたね
亀井と遠藤は外待機してましたけど、俺もそっち回ればよかったなー」
木下は笑いながら隊長に報告する
「よく回る口と舌だな。俳優でもしてたのか?」
一通り木下にしゃべらせた後、隊長はそう言った
「は?」と木下が固まった
隊長が笑う
「私が最初に言った事忘れたのか?
被害者の救出を忘れるな、確かにそう言ったな?」
隊長が持っていたペンが折れた
「なんで殺そうとした?」
隊長は笑顔のまま、だけど体が強張る
「それは、見方の違いというやつですよ。実際、被害者に俺の攻撃は当たっていない。
それに、ちゃんと当てないように狙ってましたって」
「だというが、矢守お前はどう思う?」
隊長室の扉が勢い良く開き、矢守さんが入ってきた
「だ・だ・だ・だ・ダウトのだ!
隊長、私が見てた感じだと、マリちゃんが防がなきゃ確実に当たってましたよー」
「矢守さん、見てたんですか!?どこから!?全然気づかなかったですよ!」
私がそう言うとにんまりと矢守さんが笑い
「どやぁ~」とピースして見せた
「さて、木下。ほかに弁明はあるか?今認めたら少しは減刑も考えてやろう」
隊長がそう言うが木下は信じられないと言った顔をしていた
「矢守は望月の教育係じゃないですか!そんなの、自分の後輩を可愛がって当たり前だ!」
隊長がドンっと机を叩いた
「なら、私がそんな無駄な人選をしたとでも?
…お前じゃあるまいし、証拠もそろっている。」
隊長が紙にさらさらと文字を書き木下に投げた
「この部隊に、腐った肉はいらない。
さっさと荷物まとめて出ていけ」
木下は拳を握り、こちらを睨むと
紙を掴み部屋を飛び出していった
「…あいつも昔はあんなんじゃなかったんだけどな
ともかく、矢守、亀井、遠藤、望月
お前たちはよくやってくれた。
明日、明後日は休みだ、ゆっくり休んでくれ
以上!かいさーん!」
そう言って隊長は書類をブワッと宙に投げた
私達はゆっくりと部屋を後にする
少し歩くと、部屋の方に怒りのこもった足音が聞こえた
「マリちゃん、明日ってひまー?」
矢守さんが私に聞いてきた
「訓練でもしようかなって思ってました。どうかしました?」
私の答えを聞き、矢守さんがニヤリと笑った
「ならば暇だねー?明日はおでかけするぞー!
朝迎えに行くから、ちゃんと準備しとけー?」
そう言い残し矢守さんは走り去った




