another 02 宰相、その激務の日々
外伝の第2話を予告通りに投稿します。
今回は、他人から見た【レギオン達】がどう映っているのかを、
宰相さんの視点から会話形式で、表現してみました。
「父上、取り急ぎ裁決が必要な案件の書類は 先ほどので終わりました
ので、少し休憩を取られてはどうかと思い、お茶の用意を致しました。
あまり根を詰めても、返って効率を落とすばかりですから
一旦、休憩を取られてはどうでしょう?」
山のようにあった仕事も、急いで決済が必要なモノは粗方終わり、
書類の束があちこちに置いてある執務室の中で、
ようやく一息ついて居たら
17人居る息子の内の一人、
一番末のキーノが 紅茶と菓子を載せたトレイを両手で支えながら
そう声を掛けてきた。
と言っても、実際の血の繋がりは無く、
この子は所謂養子と言うやつなのですが。
この子に限った事では無く、私と17人の子供達との間に、
血の繋がりは有りません。
私は、若くして今の陛下(グランディ7世王)に、その才を認められ、
それ以後も色々と目を掛けて戴いて、文官としての立場を
確固たるモノにして参りました。
当時は陛下も、若くして父王を失い 何かと苦労しておられましたので、
平民では有りましたが、同じく若くして懸命に仕事に励む私と
ご自分の姿を重ね合わせた故の、親近感とも言うべき感情も あった
のでは無いでしょうか。
以来、その信頼に応えようと懸命に仕事に打ち込み、そのお陰を
持って功績を認められて、気難しい貴族達もが認める
”宰相”としての役職まで賜る様になりました。
そして更に、その役職に恥じぬ様、後ろ指を指されぬ様に仕事に
打ち込む内に、気づけば、何時しか婚期を逃しておりました。
その歳にまでなると、今更結婚しよう等とは思えず、さりとて壮年に
差し掛かって来て以来、次代を担う”後継者”を育てる必要性を
感じ始めていた私は、身寄りの無い子供の中から 才気に溢れ
心根の真っ直ぐな子供を引き取って、将来 この国を支えてくれる
人材の育成を、と考えたのです。
そうして、引き取った子供達は皆誠実で、私の願った通りの
より良い国を創る為に、働いてくれる様になってくれました。
今では上の14人は、気立ての良い妻を娶り、子を生して、
立派な父親としても成長してくれたのです。
お陰で、幼くして家族を失って以来、生きる為に必死に勉学に
打ち込み続けたこの私が、幼い孫に囲まれた”家族の団欒”と言う、
望外の幸せも得る事が出来ました。
話しが逸れましたが、このキーノは一番最後に引き取った子で、
兄弟の中では最も文官としての才に恵まれた子でしたので、
私の秘書官として雇い入れ、日々の政務を手伝って貰っているのです。
まぁ、宰相と言えど此処グランディ王国にて、グランディ7世王陛下に
仕える臣下の一人に過ぎぬ者ですので、先程まで 陛下より賜りし
”宰相”としての役職を務めるべく、目が廻るほどの忙しさに
忙殺されておりました。
宰相と言う役職ゆえ、当然、国政に深く係わって来る問題を多く
処理する事になるので、忙しいのは当たり前と言えるのですが
先日、国の命運を大きく左右する大事件が発生し、その為
その後発生した膨大な量の、事後処理を行わなければ為らず、
それに追われて今まで時間を取られて居たわけです。
ですが、今はそれも一段落ついた事ですし、少しばかり休憩を取っても、
罰は当たらぬでしょうかな。
「父上、まだ【ケーキ】が少し有りましたので、お持ちしました。」
「おお、それは良い。
頭を使って疲れた時は甘いモノが一番だからの。」
「ははは、父上は甘いモノに目が無いですからな。」
「なにを言う、そなたとて私に劣らず、甘いモノに目が無いでは無いか。
大方、私をダシにして、自分も【ケーキ】が食べたかったのであろう?」
「流石父上。 お見通しでしたかw」
「当たり前だ、何年お前の父親をしておると思うてか。」
「ふふ。」
「はは。」
「「 ははははっ! 」」
私の初心を常に再確認する為に、宰相の執務室とは思えぬ程に
質素で、機能性だけを追求したこの部屋で、激務に疲れた
心と身体を癒すべく、息子と二人、他愛の無い会話を楽しんで居ると
息子がおもむろに、思い出したかの様に声をかけて来ました。
「……いやぁ、それにしても良う御座いました。」
「ほぉ、何がじゃな?」
「総ての事柄が、ですよ。」
「…………。」
「1月前までは、陛下は起きる事も出来ぬ程の重い病で、
父上も健康を害して静養中で有りました。
…今でこそ、それが【ゴーゴン元大公】の甘言によって道を踏み外した、
【元宮廷医師クッパ】の用いた”毒”によるモノだと判っておりますが…。
それに加え、【ゴーゴン元大公】に王女様を始めとして、我等一族と
王女を慕い支持していた。 …少々、考えの足りない若い貴族達は、
全員アシュラ領に 体の良い”軟禁”状態。
…権力に阿ず、誠実を貫いた我等兄弟は、例えそのまま謀殺の
憂き目に会おうとも、後悔する事の無いよう覚悟を固めておりましたが、
その事に不平ひとつ言う事無く、貞節に兄上達に従う義姉上達や、
幼い甥や姪たちを始め、残された国民がどうなって往くのかが、
不憫であり、同時に心残りであったのです。」
「……まこと、その通りであるな。
……実際、あの一件が解決せずに、あのまま進んでいたならば、
どう言う未来を辿って居たであったろうか?
こうして激務に忙殺される事も無かったで有ろうが、代わりに
自分の命は言うに及ばず、敬愛する主の命や、大切な……。
こう申しては”不敬”とも執らるやも知れぬが、幼少の頃よりお世話
させて戴き、いまや本当の”孫娘”のごとく思っておる姫様。
【ピーチ姫】様の命も、危うかったのでは無かろうか?」
「まさに、父上の想像された通りかと。
……それを思えば本当に、我等はギリギリの処に居たのでしょうな。」
「その、呪わしくもおぞましい未来が、高い確率で、
『有り得たかもしれぬ』ことを思えば、あの 憎き【ゴーゴン元大公】や、
【ブロッケン元伯爵】等を、仮にも 陛下と姫様の”血縁”でも在る事ゆえ
よもや『命までも取ろうとはしまい』等と、人の良い事を考えて 役目を
辞して隠居しようとまで考えていた、”過去”の自分自身を 縊り
殺してやりたいと思えるほど、深い怒りと絶望を憶えずには居られぬ。
既に引退を考えていた、老い先短い私などは兎も角として、事も在ろうに
陛下の玉体までも、【宮廷医師クッパ】を懐柔して、
毒殺を謀っていたとは、まさに【神】をも恐れぬ悪魔の如き所業。」
「……父上。」
「この様な者共に もしも王権が移り、強大な権力が握られていたなら、
そう遠くない内に民は辛く苦しい生活に追い込まれ、肝心の姫様は
【ゴーゴン元大公】に息子は居なかったゆえ、かの者の息の掛かった、
適当な身分の傀儡との結婚を強いられるか、それを拒否したなら
本当に人知れず命を奪われて居たやも知れぬと言う、真っ暗な未来しか
広がっていなかったであろう事は、想像に難く無い。
そればかりか、短くない年月を”友人”として過ごして来た、
【石の都のドワーフ達】を始めとした、【神々】によって共に
生み出された 兄弟とも言うべき他の種族達を、事も在ろうに”亜人”等と
称して蔑み、侵略して行く様が容易に想像出来ると言うもの。」
「はい、それが単なる想像では無い証拠に、かの痴れ者共は、
【石の都】に対して、”討伐”と言う名目を作り上げてまで、
攻め込むつもりであったのですからな。
……15万もの大軍を組織して。」
「そうなれば、その事が切欠となり、現在 各地で良く耳にする様に
なった、人間と他種族達による小規模な諍い
(その多くが、人間の側に問題がある)が、表面化して
人間対他種族の、血で血を洗うがごとき”地獄絵図”も
かくやと思えるような、暗黒の時代に突入していた可能性も
大いに有り得たであろうな。」
「ですが幸いにして、その様な暗く陰惨な未来予想図は
回避されました。」
「うむ、これもひとえに”彼等”のお陰である。
そう、【神】の生み出した13番目の兄弟にして、この世界の
”守護者”たる役目を担って誕生した、”軍団”と名付けられし
”彼等”のな。」
「……本当に、素晴らしい方達ですね。
そう言えば、あの後 政務に忙殺されて居りましたから、
最初に大まかな話を伺っただけで、詳しい話しは
聞きそびれておりました。
いったい、どのような方達なのでしょうか?」
「……うむ、そうだな。
最初の出会いは、まさに”衝撃的”であった。
……いや、”衝撃的”とか言う言葉では、とても表現仕切れないで
あろうな あれは。(汗)
なにせ、突然。
『 ぶぅるるるあぁぁぁああああぁぁぁ!!!! 』
と言う雄叫びが聞こえたかと思えば、窓ガラスの割れる
硬質な音が響き渡る中、凄い勢いで回転しながら、飛び込んで
来たのだからな……。」
「ちょっ!? …どんな無法者ですかそれは?(汗)」
「ふむ、そなたの言いたい事は分かる。
かつての私もそのように、杓子定規な考えに凝り固まっておったからな。
だが、先日陛下に言われたお言葉を聴いて、私も此れまでの考え方を
変えていかねばと思う様になったのだよ。」
「……と、申しますのは?」
「うむ、陛下は私にこう申されたのだよ、『彼らに、我等の
都合を押し付けてなんとしよう。
彼らには彼らの、我等には我等の、風習や考え方が有るのだ』と。
…このお言葉を聴いて、私は思ったモノだよ。
自分はなんと言う考え違いをしていたのか、とな。
アバドーン殿も、同じ事を申されたが 身分・階級等と言うものは、
我等人間が勝手に決めて 勝手に従っているモノで、
他の種族には 何の関係も無い”風習”では無いか、と。」
「………!」
「先程、そなたが”無法”と感じた振る舞いも、結局は我等人間の
都合や考え方の違いから来るモノで、相手からして見れば
それなりに理由のある行為と言う事も有り得るのだよ。」
「…なるほど、そう説明されれば、確かに自分は”人間”としての
考えしか持たず、他の種族にはその種族なりの考えが
あるのだとは、言われるまで考えた事も有りませんでした…。
最初にお話を伺った時は、『なんと、ハッチャケた御仁なのだ』と
思いましたが。」 ←【正解】
「うむ、人間としての考え方に凝り固まった我等にはそうも思えようが、
一度言葉を交わして見て、その言動から【造物主】に対して深い感謝と
敬愛の念を抱いて居るのが痛いほど伝わって来たわい。
託された使命を遂行する為とは言え、人間の敵意を自分達で
一身に背負うほどの”覚悟”を決めているあの御仁が、無意味に
ハッチャケる訳も無し。
やはり、それなりに理由のある行為なのであろうな。」 ←【不正解】
「…左様で御座いましたか。」
「うむ、そなたも将来この国の政務に携わる者として、これから
”彼等”との接点も増えてゆくだろう故、良い機会だし、私が知る限りの
”彼等”の事を教えておこうか。」
「はい、どのような事でしょうか。」
「彼らと出会ったのは僅か一月前、しかもその間の一月も互いに忙しく、
まともに会話した回数も片手で数える程ではあるが、その短い間の中で
感じたのは、彼らが善良で誠実な種族であり、同時に恐ろしく冷徹な
”機械”のような集団でもある、と言う事だ。」
「?…酷く矛盾している話ですね、そんな存在が有り得るのでしょうか?」
「確かに、これだけ聞けばそう思うだろうが、私が見る限りでは、
まず間違い無いであろう。
まず、彼らは見た目がほとんど同じでは在るが、確かに個人個人の
”個性”と言うモノが有り、その感受性は驚くほど豊かである。
なにせ、普段は争いを好まずに専ら、背中の羽を震わせて
音楽を奏で、歌を歌い 詩を読んで、彫刻を刻み、星の煌きに
心震わせ、沈み行く夕陽に心奪われると言うように、
普段は血生臭い生き方とは無縁に生きているのだからな。
これには、ちゃんとした理由があってな
世界の守護者たる役目を担い、戦う事を半ば宿命づけられた
彼等ではあるが、その戦闘力の凄まじさ故に、いざ戦いに為ったとしても
直ぐに決着がついてしまう。
結果、長い長い時を生きる彼らの一生の中で、戦いに費やす時間と
言うのはほんの瞬きにも似た一瞬の間の出来事に過ぎぬのだ。
それゆえ、彼らは残る大部分の人生を、穏やかに生きて往けるように
必要以上の”闘争心”を持たぬのだろう。
そして、”闘争心”を持たぬが故に、あのように穏やかで善良で
居られるのであろうな。」
「ですが、それでは いざ戦わねばならぬ時は困るのでは
無いでしょうか?
いかに強力無比な力を持とうとも、闘争心を持たぬ者が、
一人で万の大軍を相手に”全滅”まで追い込めるものとは
とても思えませんが?」
「うむ、まずそこから考え違いをしておる。
…彼らは”人のカタチ”を持つれっきとした一つの”人種”では在るが
同時にその姿から分かるように”虫”でもあるのだよ。
”虫”で在ると言う事は、すなわち”王”を頂点とした命令系統をもつ
一種の【システム】、機械でもあると言う事だ。
ひとたび、”王”からの【命令】が下れば、総ての感情を消し去り、
冷酷な機械と化して、一切の慈悲や感傷に囚われず、
どんな冷酷で残酷な事でも、躊躇いも 戸惑いも見せずに
遂行してのけるだろう。
そこには、”戦いに赴く”と言うような感情も決意も存在しない。
ただ、『命令を遂行する』と言う 鋼の様な固い意思の元に
行われる”作業”があるのみだ。
我等から見れば”戦い”でも、彼らにして見れば単なる”作業”で
しか無い。
……闘争心など必要としないのだよ。」
「………!!」
「私が恐ろしいと評したのは、そう言う意味だ。
我等人間が、道を違えず道理に反せずに、良き行いを続ける限り、
彼らは我等の”良き隣人”として様々な分野に於いて、共に仲良く
過ごして往けるだろう。
なれど、ひとたび我等が道を踏み外した行いや、
道理に反した行いをした時には、彼らは一転して冷酷な
処刑人へと変わり、我等の前に立ち塞がって 共に酒を酌み交した相手や
共に汗して一つの仕事をやり遂げた相手の上に、躊躇する事無く
その剣を振り下ろすだろう。
彼らは基本、善良で友好的ではあるけれど、その本質的な
部分に於いて、決して無条件に人間の味方をしてくれると
言う訳では無い、と心に刻み於け。
彼らが今回、王女派である我等の側に付いてくれたのは、我等が
誠実に職務に励み、民の明日を思って働いて来たからこそ、
合力してくれたに過ぎず、このまま我等に組して、無条件に
力を貸してくれると思い込むのは危険であるぞ?」
「…はい、父上の考える我等のあやうさ、彼らの危険さをしかと、
認識致しました。」
「うむ、常にその事を念頭に置き、これからも精進に励もうではないか。
だが、誤解するで無いぞ?
あくまでも、彼らの剣が向けられるのは、道を踏み外し、我欲に駆られて
この世界の”自然”や他の種族に対して、不当な悪事を働いた者のみ
であって市井に生きる善良な人々や、心正しく生きる者にとっては、
真に”守護者”と言えるような、強く優しい方達であるのだからな。」
「はい、彼らに受けた恩義は、決して疎かにして良いほど
軽いモノでは有りませんでしたから。」
「……うむ、その通りであるな。
おお、すっかり話しに夢中になって 思いの外、時間を喰ってしまったの。
やれやれ、仕事を終えて帰るには、今しばらくの時間があるゆえ、
残った時間で出来る限りの政務を片付けて仕舞わねば為るまい。
そなたも大変であろうが、もう一頑張りして貰わねばならんな。」
「私は、大丈夫ですよ。
…父上こそ、病み上がりの上、そろそろ良いお年なのですから、
ご無理は為さりませぬように。」
「…!? 何を言うか、この若造め!
私はまだまだ現役ぞ!?
……まぁ、正直な話し、彼らの提供してくれる”生命の水”と
”ユニコーンの乳”のお陰であるな。
あれを定期的に服用する様になってから、事の外、身体の調子が良く、
活力が漲るようだと、陛下も申しておったし、事実私も
この通り元気である。」
「ああ、あの”馬乳酒”ですか、…凄まじい程の効き目ですね。」
「ふむ、真にな。
クッパ亡きあとに宮廷医師に取り立てた者が、
『これでは、自分の仕事が有りません』と、涙目になっておったわ。(汗)
………何故、”馬乳酒”なのかは謎のままだがの。」
「なにか、効力を強めるのに必要なのでは?」 ←【不正解】
「いや、そう思い質問して見たのだが、なにやら答え難い様子で
あったのでな…。
それ以上、”突っ込む”のも礼を失すると思い、以後 聞いておらなんだ。」
「…なるほど、それも彼らの”風習”なのかも知れませんな。」
「うむ、我等には理解できぬ事も多々有ろうと思うゆえ、
これ以上は聞かぬが良いであろうな。」 ←【正解】
……そう、最後に締めくくり、私は再び激務に励むべく
机に向かって歩いていった。




