第9話 特別試験
俺は早朝に目を覚まし、支度を済ませ、宿から冒険者ギルドへ向かった。
今日は合格発表だ。
といっても、俺の合格は確定している。
さっそく受付に向かった。
「あの、すみません。受験したアステル・ウルリッヒです。合格と伺っているのですが……」
「アステルさんですね。はい、もちろん合格です。おめでとうございます。本日は合格者の説明会なのですが、アステルさんのみ別室での説明が予定されています」
「え? 俺だけ別室なんですか?」
「はい、そうです。ご案内しますね」
受付の綺麗なお姉さんに案内してもらい、別室へ移動した。
「こちらの部屋です。ソファーにどうぞ」
ソファーに座ると、お姉さんがコーヒーを淹れてくれた。
その動きが、大人の女性という感じで見入ってしまう。
「もう少々お待ちくださいね」
「あ、ありがとうございます」
コーヒーなんて初めて飲むから緊張する。
「ぐえぇぇ。苦あぁぁ」
めちゃくちゃ苦くて驚いた。
だが、これが大人の味なのだろう。
冒険者になるのだから慣れていかねば。
「うふふ。かわいいですね」
「あう……。すす、すみません」
「それでは、頑張ってくださいね」
受付のお姉さんに見られていた。
恥ずかしいなんてものじゃない。
しかし、頑張るとはどういうことだろうか?
受付のお姉さんが部屋を出ると、入れ替わりで年配の男性が入ってきた。
雰囲気からして偉い人だ。
「君がアステル君か」
「は、はい!」
俺は立ち上がりお辞儀をした。
「人事局長のベルマー・ストフだ。よろしく」
「じ、人事局長……。え! アステル・ウルリッヒです! よ、よろしくお願いいたします!」
めちゃくちゃ偉い人が来てしまった。
試験のために冒険者ギルドの組織図を勉強したが、ギルドの階級は上からギルドマスター、サブマスター、各局長となる。
立場的にはギルドのナンバースリーだ。
しかも人事は冒険者のランクを管理しており、逆らってはいけない部署の一つだと小耳に挟んでいた。
「そう緊張しなくてもいい。座ってくれ」
「は、はい!」
これまで年配の男性なんて、親父や村のおっさん、ガドルフ支部長くらいしか喋ったことがない。
こんなスーツをビシッと着ているような人は初めてだった。
緊張するなというほうが無理だ。
「さて、君の成績を見たよ。君は今年の成績トップだ」
「あ、ありがとうございます」
「試験合格後の流れは知っているかな?」
「はい。契約と講習があります」
「その通りだよ」
冒険者には三つの階級と六つのランクがある。
下から初級のFとE、中級のDとC、上級のBとAだ。
特にAランクは特別中の特別で、人外の領域と呼ばれている。
試験合格者は当然ながら、最も低いFランクからスタートだ。
「君の成績は突出していてね。Eランクを付与するという話になったんだ」
「ほ、本当ですか!」
「もちろんだ」
ベルマーさんが一枚の書類を取り出し、テーブルに置いた。
「それどころか、冒険者ギルドの長い歴史でもあまりに圧倒的な成績だったということでね。ギルド初の、ランクを二つ飛ばして中級のDランクからスタートという話が出たんだ」
「え? Dランク?」
書類に目を向けると、俺の名前と一緒にDランクの文字が記載されていた。
「ほ、本当にDランクだ」
だがその隣に『仮』と記載もある。
「仮?」
「気づいたか。実はもう一度だけ特別に試験を受けてもらうことになった」
「また試験があるんですか?」
「そうだ」
ベルマーさんが頷きながら、コーヒーを口にした。
飲み方が渋くてかっこいい。
「それって、断ったり失敗したらどうなるんですか?」
「元々合格はしているから、普通にFランクからのスタートとなる」
確かにDランクからのスタートは魅力的だ。
いきなり中級冒険者として活動できる。
クエストはランクが上がれば報酬も高いと聞く。
しかし、無理に試験を受けてDランクにならなくとも、Fランクからスタートしても問題ないような気がする。
ベルマーさんがカップをテーブルに置いた。
「ちなみに、初級から中級など、階級を上げる際は昇級試験がある。高額な受験料がかかるんだ」
「え? じゃあ今この特別試験を受けたら?」
「こちらの都合だから、当然受験料は不要――」
「やります!」
俺は即答した。
無料で昇級試験を受けることができて、合格すればDランクだ。
失敗してもペナルティはない。
これはお得なんてものではない。
いや、金のない俺にとっては天からの贈り物だ。
「ははは、元気があってよろしい。では、さっそく手続きを進めよう」
「はい! お願いします!」
「実はすでに試験内容は決まっていてね。Dランクモンスターの大牙猪獣の狩猟なんだ」
「え? ボ、大牙猪獣ですか⁉︎」
「そうだ。危険なモンスターだから驚くのも無理はない。だが、安心してくれ。今回の試験は、先輩冒険者のパーティーに同行してもらう」
俺が驚いたのは危険だからではなく、いつも狩っている大牙猪獣が試験だったからだ。
俺は運がいい。
これなら合格の可能性は高いだろう。
「が、頑張ります」
「まあそう緊張するな。では、パーティーを紹介する」
「は、はい」
「そろそろ来ると思うのだが……」
ベルマーさんが呟くと同時に、部屋の扉をノックする音が響いた。
「「「失礼します」」」
三人の男女が入室してきたので挨拶を交わす。
それぞれ自己紹介してくれた。
ラルフ・ザウニッヒ、Cランク、二十四歳、男。
エレダス・ルフラン、Cランク、二十六歳、男。
リオーラ・ステイア、Dランク、二十二歳、女。
ソファーに座る三人には中級冒険者の貫禄がある。
やっぱり冒険者はかっこいい。
「このパーティーのリーダー、ラルフだ。ベルマー局長から状況は伺っている。試験とはいえ命がけだ。気を抜くな」
「はい! よろしくお願いします!」
いつも一人で狩りをしていたため、パーティーは初めてだ。
迷惑をかけないように頑張ろう。
「ラルフ。詳細は伝えた通りだ。後のことは任せた」
「はい。かしこまりました」
「それではアステル君。頑張ってくれ。期待しているぞ」
そう言って、ベルマーさんが退室した。
「さてと……」
リーダーのラルフさんがコーヒーを口に含むと、それまで笑顔だった表情が一変。
鋭い目つきで俺を睨んでいる。
「なんで新人の試験なんかに付き合わなきゃいけないんだよ」
「そういうこと言わないの、ラルフ。これも仕事よ。ギャラはいいんだから」
おっと、いきなり態度が急変したぞ。
これはちょっと困った。
というか、正直怖い。
まだクエストにも行ったことのない俺にとって、すでに活躍している中級冒険者なんて雲の上の存在だ。
「二人ともいい加減にしろ。アステル君はまだ新人だぞ。怖がらせるな」
「あのなあ、いくら体力テストが凄かったからって、いくらなんでも中級デビューはやりすぎだろ。俺でも無理だったんだ」
「だからといって、アステル君に当たるのはお門違いだろう。決めたのはアステル君じゃないんだ」
エレダスさんが真剣に注意をしてくれている。
本当にありがたい気持ちでいっぱいだ。
「ちっ、まあいい。小僧。お前の武器はなんだ?」
「ロングソードです」
「生意気に……。ちゃんと使えんのか?」
「はい。練習しました」
「お前も冒険者なんだ。自分の命は自分で守れよ」
「は、はい」
エレダスさんが中心になって話を進めてくれたことで、出発は三日後に決定した。




