第7話 地獄の試験
村から王都までは約二週間かかる。
何度も馬車を乗り継ぎ、徒歩で峠を越え、村や街で宿泊した。
盗賊に狙われ騎士団に助けられたり、俺のような田舎者を狙う詐欺のような宿もあったが、なんとか無事に旅を終えたようだ。
街道を進むと、前方に巨大な都市が見えた。
「あ、あれが王都……」
城壁に囲まれた巨大都市。
ヴォルア王国の王都ヴォルアルだ。
その城壁は、まるで地平線まで続いているようだった。
「な、なんて城壁だ。終わりが見えないぞ」
俺は自分の村と、近隣の街にしか行ったことがない。
当然ながら王都は初めてだ。
田舎者の自覚はある。
城門の長い行列に並び、入都手続きを終えた。
「ふう、ようやく入都できたぞ」
広大な王都には、いくつもの繁華街や宿泊街がある。
俺は冒険者ギルドに近い宿を取った。
宿泊期間はひとまず二週間だ。
「不合格だった場合は、一度田舎に帰るしな」
今回の上京が、ただの観光にならないように頑張るしかない。
俺は冒険者ギルドに向かい、試験の申し込みを行った。
受験料は十万ルト。
俺にとって十万ルトは大金だ。
支払う時に手が震えた。
「落ちたら無駄になる。頑張らないと」
冒険者ギルドの試験は、毎月一回開催されている。
試験は一週間後だ。
それまでは勉強時間に当てる。
***
ついに試験当日を迎えた。
試験は二日間に渡って行われる。
初日が学科試験、二日目が体力試験だ。
冒険者は様々な知識が必要だった。
代表的なものとしてモンスター学、動物学、植物学、医学だ。
法やルールも熟知している必要がある。
「観光もしないで最後の追い込みをしたからな。大丈夫……と信じたい」
初日の学科試験を終えた。
これまでも実家でこつこつと勉強してきたし、この一週間詰め込んだおかげで全ての問題は解けた。
だが、試験の本番は二日目と言われている。
二日目の朝、受験者はギルド内のグラウンドに集合した。
「な、なんか凄い人数だぞ……」
数千人どころではない。
これが全員冒険者を目指していると思うと恐ろしい。
「よく集まってくれた! 今回は過去最高の受験者数で一万人だ! 感謝する!」
教官が台の上に立ち、声を張り上げた。
「みなも知っている通り、試験の合格人数は決まっている! 今回も変わらず五百人だ! 狭き門となるが、最後まで諦めずに頑張って欲しい!」
会場に大きなどよめきが起こった。
受験者が一万人で五百人の合格者なら、二十人に一人しか受からない。
ここ数年は冒険者を目指す者が増えたことで、難関試験になっていると聞く。
「運も必要か……」
よりによって、自分の受験で過去最高の受験者なんてツキがない。
もし受験者が五百人だったら、全員が合格だったのに……。
「たらればを言っても仕方ない。頑張ろう」
「体力試験は回数がそのまま点数になる! 死ぬ気で頑張れ! では最初は腕立て伏せだ! 行くぞ!」
「え? え? もうやるの!」
「構え!」
教官が笛を吹くと、全員がその場で腕立て伏せの体勢を取った。
俺も周囲を見ながら腕立て伏せの準備をする。
「一! 二! 三!」
掛け声とともに銅鑼の音が鳴り響く。
冒険者ギルドの体力試験は、地獄の試験と呼ばれている。
合格人数が決まっているため相対評価だ。
つまり、規定の回数をやれば合格という明確な数値がない。
もし受験者のレベルが高ければ、その分合格ラインは上がる。
「どれほどやっても安心できないってか……」
百回くらいでは脱落者が出なかった。
さすがは冒険者を目指す者たちだ。
レベルが高い。
だが、三百回を超えると、かなりの受験者が脱落していた。
俺も周りを気にしている場合ではない。
「こりゃ、取れるところで点数を稼がなきゃヤバいな」
回数がそのまま点数になるのであれば、とにかくやるしかない。
俺は周りを気にせず集中した。
「や、やめっ!」
「え? 終わるの?」
回数が二千回を超えると、教官が声を上げた。
周囲を見渡すと、俺が最後の一人だった。
「ふう、なんとか一位を取れたぞ。よく分からないが途中で終わったし、まだ体力は平気だ」
「平気? う、嘘だろ……」
隣のおじさん受験者が、真っ青な顔で手を挙げた。
「き、棄権します……」
「え? こ、これからですよ?」
俺は思わず声をかけた。
ライバルではあるが、みんなに頑張って欲しい気持ちもある。
「お前みたいな化物がいる時に参加したのが運の尽きだ。やる気がなくなっちまった。次回頑張るわ。この悪魔め」
「え? な、なんで?」
隣のおじさんが俺を睨みつけたあと、大きな溜め息をつき、肩を落としながら会場を出ていった。
「なんだか酷い言われようだったな……」
「次は腹筋だ! 足を地面から離したらその場で終了だ! 行くぞ! 一っ!」
とにかくペースが早い。
腕立て伏せが終わったと思ったら、すぐに腹筋だ。
休憩する時間もない。
「待てよ? 一位を取るから休憩できないのか」
競技を途中でやめれば、その分休憩できる。
とはいえ、相対評価だから安心できる回数は分からない。
「そうか。そういう意味で地獄の試験なのか」
自分の体力と相談しながら、俺はペース配分を考えて腹筋を行った。
体力試験なのに頭も使う。
「体力試験で戦略が必要だなんて思わなかったぞ」
俺は改めて試験の過酷さを知った。
◇◇◇
試験を監視する教官たちがいる。
アステルが参加している区画を受け持つ教官たちは、バカにした表情を浮かべていた。
腕立て伏せが三百回を超えても、アステルがやめないからだ。
「なあ、あの青年。勘違いしてないか?」
「そうだな。毎回いるんだよ。一種目目で全力を出してしまうバカが」
「体力があるからと、一種目目で回数を稼いでも絶対に無理だ。体力試験は丸一日やる。ペース配分を考えて、平均的に点数を取らなきゃ合格できん」
「まあまだ若いし次もある。今回はいい勉強になっただろう。バカは冒険者になれないってな。ははは」
最初はバカにしていた教官たちも、アステルが二千回を超えると声も出せないほど驚いていた。
二位の受験者は七百回で脱落している。
それなのに、アステルはまだ元気に腕立て伏せを行っていた。
「しゅ、主任! どうしますか⁉︎」
「こ、このまま続けると、一日が終わってしまうぞ……」
主任教官は、異例の指示を出すことにした。
それは種目の強制終了だ。
「こ、こんなこと初めてだぞ……」
長い冒険者ギルドの歴史で、初めて試験の種目が強制終了となった。
アステルは腕立て伏せを二千三百回行った。
それがそのまま点数になるため、二千三百点を獲得したことになる。
これは教官たちだけが知る情報だが、例年の体力試験合格の最低ラインは二千点前後と言われていた。
つまり、この時点でアステルは合格ラインを超えている。
しかも強制終了にもかかわらず、だ。
「主任……。彼が止まりません……」
そして次の腹筋。
アステルは五千回を超えていた。
◇◇◇




