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肉屋のせがれ、実家の手伝いで毎朝モンスターを狩っていただけなのに、いつの間にか人類最強になっていた  作者: 犬斗
第一章

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第6話 旅立ち

 あれから一週間が経過し、ようやく全ての準備を終えた。

 俺は今日、王都へ出発する。


「よし、今日の狩りを終えたぞ」


 赤紫色に染まる空。

 そろそろ日の出を迎える時間帯だ。


 俺はいつものように早朝の狩りを終え、風呂に入り身支度を済ませた。

 玄関を出ると、庭に親父が立っていた。


「親父……」


 親父はいつもと変わらぬ無愛想な表情で、何を考えているのか分からない。

 だが、俺は言いたいことがある。


「なんで今日も狩りをさせんだよ!」

「これくらいじゃなきゃ冒険者は務まらん」

「狩り明けで出発っておかしいだろ!」


 出発日くらい狩りを休ませてくれればいいものを、親父は最後まで厳しかった。

 まあでも、それが全部俺のためだと分かったから感謝している。

 いや……、半分は親父が楽をするためだな。


「おい、これを持っていけ」

「これは?」


 親父が一本の剣を手渡してきた。

 ロングソードだ。


「俺が若い頃に使っていた剣だ。手入れはしてある」

「え? いいのか? 街で買おうと思ってたんだけど」

「装備にはこだわれ。命を預けるものだ」


 かっこいいことを言っているが、長年使いづらいように細工をしていたのは誰だと言いたい。


「とはいえ、金に困ったら売ってもいいぞ。これはそこそこの金になる」

「売らねーよ!」


 せっかく親父からもらった剣だ。

 大切に使うに決まっている。

 俺は剣をベルトに吊るした。


「合格したら、当面は帰ってこないからな」

「分かっている。色んな経験をしてこい」


 もし合格したら、俺はそのまま王都で冒険者の活動をするつもりだ。

 無愛想だった親父の表情が、いつの間にか真剣な表情へと変化していた。


「アステル」


 珍しく名前を呼ばれた。


「な、なんだよ」

「三つだけ言いつけを守れ」

「三つ?」

「王都は治安が悪い。犯罪に注意しろ」

「分かってる」

「困っている人がいたら、必ず助けろ」

「もちろんさ」

「自分に恥じない行動をしろ」

「うん」


 親父は家を出ることを素直に認めてくれたんだ。

 俺も親父の言葉は絶対に守る。


「それともう一つ」

「な、なんだよ! 四つじゃねーか!」

「ついでに嫁を探せ」

「な、なななな、何を言ってんだよっ!」

「十八にもなって、彼女の一人や二人もいないなんてな」

「う、うるせーなっ! 毎日狩りでそれどころじゃなかっただろっ!」


 突拍子もないことを言う親父だった。

 今度帰ってくる時は、彼女を連れてきて驚かせてやる。


「ったく……。じゃあ、行ってくるよ」

「ああ、気をつけろよ。元気でやれ」


 いつもの無愛想に戻っていたが、その声には温もりを感じた。


「親父……」

「なんだ?」

「その……。あ、ありがとう」

「お前は俺の一番弟子だ。胸を張って活躍してこい」

「な、何も教わってねーんだよ! 山に放置しただけだろ!」


 せっかくの感動の別れだったのに台無しだ。

 でも親父らしい。

 しんみりせずに、親父と別れることができた。


 ◇◇◇


「行っちまったか……」


 アステルを見送ったヴォルフは、いつものように開店準備を始めた。

 しかし、違うことが一つある。

 これからは一人で肉屋を回すことだ。


「よう、ヴォルフ。アステルはどうした?」


 冒険者ギルドの支部長、ガドルフが姿を見せた。

 ガドルフはヴォルフの幼なじみで、親友でもあり悪友だ。

 アステルとミハークのような関係だった。


「ガドルフか。あいつなら今朝出発したよ」

「そうか。アステルなら余裕で受かるだろ」

「そうだな。そういう鍛え方をしたからな」

「だからってやり過ぎだけどな」


 若干引き気味のガドルフの顔を見て、ヴォルフの口元が珍しく緩んだ。


「ふっ」

「な、なんだよ。何がおかしいんだよ」

「俺もな、あそこまでやろうとは思わなかったさ」

「どういうことだ?」

「あいつは小さい頃から冒険者に憧れていたから、少し経験させようと狩りに連れていったんだよ」

「八歳だろ? アステルが呆れていたぞ」

「そりゃこっちの台詞だ。あいつ、何したと思う?」

「な、なんだよ」

「ここだけの話だがな……。あいつ、八歳でAランクモンスターを倒したんだよ。それも一人でな」

「は、はあぁぁぁぁっっ!! そんなバカなことあるかよっっ!!」

「俺も驚いたさ。息子を守ろうとしたら、何食わぬ顔で狩猟してたんだ。信じられるか? まだ何も教えてないんだぜ?」


 ガドルフは、顎が外れそうなほど口を開いていた。

 Aランクモンスターともなれば、たった一頭で村を壊滅させるほどの存在だ。


「だからあいつに一通りの武器の使い方と狩りの方法を教えて、一人で山へ行かせたんだよ」

「し、しかも武器はあの酷いやつなんだろ?」

「ああ、普通の武器を渡すと訓練にならないからな。あいつは何でも簡単に使いこなす。だからとにかく使いづらくして負荷をかけた。あんな武器は俺でも無理さ。くくく」

「お、お前でも無理って……」

「あいつが育っていく姿を見るのは本当に楽しくてな。俺は毎日あいつのことだけを考えていたよ。アステルは俺の人生だった」

「ヴォルフ……」

「俺が育てた一番弟子は、世界一の化物になっちまった。ありゃ、ギルドの歴史を変えるぞ。くくく」


 そう呟きながら、ヴォルフは開店の準備を再開した。

 ふと親友の顔を見つめる。


「おい、ガドルフ。お前もたまには狩りを手伝え」

「い、嫌だよ! お前の狩りは頭がおかしい!」

「大丈夫だ。普通の武器を使う」

「嫌だよ! 死んじまうよ!」


 そう言いながらも、ガドルフは少し嬉しかった。

 ヴォルフの狩りが見られる。


 そもそもヴォルフを冒険者に誘ったのはガドルフだ。

 小さい頃からヴォルフの能力を知っていた。

 ガドルフの予想通り、ヴォルフは冒険者の到達点であるAランクまで駆け登った。


 単純な狩りであれば、アステルはまだヴォルフに敵わないと考えている。

 ヴォルフもまたギルドの歴史を変えた化物だったから。


 ◇◇◇

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