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肉屋のせがれ、実家の手伝いで毎朝モンスターを狩っていただけなのに、いつの間にか人類最強になっていた  作者: 犬斗
第三章

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第39話 豪雨の二人

 のどかな街道を荷獣車が進む。

 雲一つない快晴で、時折吹く穏やかな南風が心地良い。


 俺は狩猟クエストへ向かっている。

 いつものように冒険者は俺一人なのだが、今日は解体師のオリーフィアと一緒だ。

 というのも目的があった。

 新しく作ってもらった解体用ナイフを試す日だ。


 オリーフィアが操縦する荷獣車で目的地へ向かう。

 俺は手綱を握るオリーフィアの隣に座らせてもらっていた。


「アステル、ありがとう」

「え? な、なに?」

「解体用ナイフの素材だよ。おかげでドルトさんにいいナイフを作ってもらえたよ」

「気にしないで。ついでなんだから」

「うぐ……」

「それより、俺も助かってるさ。今日も荷獣車に乗せてもらえるしね」

「別に……。ついでだし……」


 オリーフィアが鋭い目で俺を一瞥した。


「な、なに?」

「ふんっ」

「あ、オリーフィア。クッキー食べる? 王都の有名店で買っておいたんだ」


 俺はバッグからクッキーが入った箱を二つ取り出した。


「凄い行列だったけど、今日一緒に行くのが楽しみで買ったんだよ。あはは」

「……食べる」


 オリーフィアに箱を一つ渡すと、嬉しそうに食べてくれた。


 しばらく街道を進む。

 早朝に出発した俺たちは、日没までに帰還する予定だ。


「さ、アステル。これから街道を逸れて森に入るよ。揺れるから落ちないようにね」


 荷獣車は舗装されていない場所でも、力強く進んでいく。

 俺は森の奥を見つめた。


「ん、聞こえたな。オリーフィア、そろそろだ。ここから一人で歩いていく」

「え? 聞こえたって何が?」

「三角甲竜(トルケルクス)の足音だ」

「はあ? 何も聞こえないけど?」

「三角甲竜(トルケルクス)の足音は分かりやすいんだよ」

「分かりやすい? どこが?」

「オリーフィアは危険だから待っていて」

「う、うん」


 俺は荷獣車を降りて森へ進んだ。

 標的はBランクモンスターの三角甲竜(トルケルクス)。

 四足歩行の中型竜類で、頭部の三本の長い角と、背中の背甲が特徴だ。

 三角甲竜(トルケルクス)を選んだ理由は、その背甲と鱗の硬さで、新しいナイフを試すには最適だった。


 森を進みながら地面の落ち葉に視線を向けると、細かく震えるように揺れている。

 風の影響ではない。

 地面に伝わる振動だ。


「近いな」


 三角甲竜(トルケルクス)は中型とはいえ、強固な外殻の影響で重い。

 そのため動きは遅い反面、鉄壁の防御を誇る。

 音の方向に向かうと三角甲竜(トルケルクス)の姿を発見した。


「さて、長期戦になると面倒だから、一気に片付けるか」


 俺はあえて気配を消さずに、物音を立てながら三角甲竜(トルケルクス)に接近した。

 三角甲竜(トルケルクス)に発見されることが目的だ。


「ギャオオォォ!!」


 狙い通り、三角甲竜(トルケルクス)は巨大な口を開き、無数の細かい牙を見せながら咆哮を上げた。

 俺はすかさず接近し、顔面に向かってジャンプする。

 そして下顎に足をかけ、三角甲竜(トルケルクス)の喉に向かって突きを放つ。


「グギャオォォォォ!」


 三角甲竜(トルケルクス)の弱点は口内だ。

 唯一簡単に剣が通る。


 三角甲竜(トルケルクス)は俺を咬み砕かんと、口を閉じようとする。

 高い咬合力を誇る三角甲竜(トルケルクス)だが、俺は左手で上顎を押さえながら、喉の奥に剣を突き立てた。


「グゴォォ……」


 俺が地面に飛び降りると同時に、三角甲竜(トルケルクス)は地面に倒れた。

 口から血が溢れ出ている。


「ふう、仕留めたぞ」


 俺は三角甲竜(トルケルクス)を一気に持ち上げ、肩に乗せた。


「ふぎぎぎっ! さ、さすがに重いぜ……」


 そのままオリーフィアが待つ荷獣車へ歩き出す。


 ***


「え、ええぇぇぇぇっっっっ!!!!」


 森にオリーフィアの絶叫が響いた。


「か、担いできたの?」

「まあね。そのほうが早いじゃん」

「いや、早いからって……。一人で倒すだけでも頭おかしいのに……」


 驚愕の表情を浮かべるオリーフィアをよそに、俺は荷獣車の荷台に三角甲竜(トルケルクス)を載せた。

 そして肩を回し、首を捻って身体を伸ばす。


「いたたた。いやー、重たかった。オリーフィア、ひとまず森を出よう」

「そ、そうだね……」

「これから雨が降るぞ」

「え? ほんと?」

「ああ、南風が北風に変わった。少し湿っている」

「わ、分かったよ」


 しばらく進むと予想通り雨が降ってきた。

 だが、その雨量は想像を超えていた。

 荷獣車には屋根がないため、もうずぶ濡れだ。

 空が光り、雷鳴が轟く。

 森に何度も落雷している。

 このまま移動するのも危険だ。


「アステル! この付近に廃村がある。本当は行きたくないけど、この雨と雷はヤバいよ! 一旦避難しよう!」

「分かった!」


 豪雨の中、俺たちは廃村へ向かい、一軒の家に入った。

 リビングで濡れた上着を脱いで水を絞る。


「びしょびしょになっちゃったね。アステル、あっち向いてて」


 オリーフィアが上着を脱ぎ始めた。


「ちょ、ちょっと! 別の部屋でやってよ!」

「やだよ! 怖いじゃん!」

「怖いって……。分かったよ」


 俺はオリーフィアに背を向けた。

 リビングには暖炉があり、薪も残っている。


「オリーフィア、暖炉があるから火をつけるよ」

「うん、お願い。こっちは見ないでね」

「見ないよ!」


 薪に火をつけ、立てかけた椅子に服をかけて乾かす。


「もういいよ」


 オリーフィアは三つ編みをほどき、濡れた髪をタオルで拭いている。

 濡れたシャツが身体に張りつき、身体のラインがはっきりと見えていた。


「あ、あんまり見ないでよ……」

「ごご、ごめん!」


 俺はすぐに視線を外した。

 オリーフィアも暖炉の前に服を干す。


 俺たちは暖炉の前に並んで座った。


「ここはオラシュブルク村っていうの。三年前に廃村になったんだよ」

「三年前って結構最近だね」

「そうだね。理由は公表されていないから分からないんだけど、村人が消えたらしい」

「え? 消えた?」

「モンスターに襲われたっていう噂があるんだよね。それで村人が全員殺されたとか……。今でも夜な夜な村人の幽霊が彷徨っているとか……」

「へえ、そうなんだ。でも確かに人が生活していたまま残ったという感じだな」

「雨が止んだらすぐに出ようね」


 床は埃を被っているし、天井には蜘蛛の巣が張っている。

 だが、綺麗に掃除すればまだ人は住めそうだ。

 ある日突然襲われたのだろう。


 オリーフィアが窓の外を見つめた。


「でも……。雨が止まないね。どうする?」

「夜には止むと思うけど、移動は危険だな……。ここで宿泊しよう」

「え⁉︎ ここで!」

「動くのは危険だよ」

「だ、だって……。幽霊とか怖いじゃん……」

「幽霊? 幽霊なんているわけないじゃん」


 俺は小さい頃から一人で山に入っていたので、そういう類いのものは一切信じていない。

 怖いのは幽霊なんかじゃなく、生ある存在だ。


「いるよっ! やだよっ!」

「でも、夜の移動は危険だよ?」

「う……。そうだけど……」

「幽霊が出たら俺が守るからさ」

「ほんとっ⁉︎ 約束だよっ!」


 オリーフィアが俺の腕を掴んできた。

 その勢いで、シャツの隙間から胸の谷間が見える。

 真っ白な肌は雪山のようだ。


「ちょちょ、み、見えっ! オリーフィアッ! 見えるって!」

「絶対守ってよっ!」

「分かった! 分かったから! 離れて!」

「やだよっ! 怖いもんっ!」


 しがみつくオリーフィアの胸が腕に当たっている。

 俺は焦って腕を振りほどいた。


「大丈夫だから! 離れて!」

「やだっ!」

「ちょっ! そうだ! 飯にしよう! 飯!」


 俺は無理やり立ち上がり、バッグから食料を取り出した。

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