第34話 冒険者の道
港に帰還すると、ちょうど日没を迎えた。
アリシアさんとエリーザさんと宿へ戻る。
「アステル、これで全部が終わったわよ」
「長いクエストでしたね」
「そうね。ご苦労様。うふふ」
俺の右隣を歩くアリシアさんが微笑みかけてくれた。
「これでもう王都に帰れるんですよね」
「アステルは帰りたいの?」
アリシアさんが身体を少し屈ませ、俺の顔を見上げている。
「帰りたいというか、もう用はないじゃないですか」
「ふーん、そうなんだ」
左隣を歩くエリーザさんが、突然腕を組んできた。
「アステル君、冒険者の醍醐味って何?」
「え? 色々な場所へ行けることとか、旨いものが食べられるとかですか?」
「他にもあるわよ」
「な、なんですか?」
「ふふーん。明日を楽しみにしていたまえ」
俺は助けを求めるようにアリシアさんに視線を向けた。
「していたまえ。うふふ」
エリーザさんの真似をするだけで、何も教えてくれなかった。
***
翌日、俺は二人に連れられて砂浜に来た。
二人は薄手のワンピースを着ている。
エリーザさんが俺の背中を軽く叩いた。
「アステル君、せっかく海に来たんだから泳ぐわよ」
「え? 泳ぐ? 俺、昨日めちゃくちゃ泳ぎましたけど……」
「そういう泳ぐじゃないの。バカね。今日は打ち上げよ。一日遊ぶの。帰るのは明日よ」
「いいんですか?」
「いいも何も、仕事は終えたんだもの。束の間の休日を楽しみなさい」
「は、はい」
砂浜に荷物を置くと、二人が服を脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょちょちょ!」
「水着で何をそんなに慌てているのよ……」
アリシアさんの水着は、鮮やかな水色のセパレートタイプだ。
露出している白い肌が眩しい。
手足が長く、まるで彫刻のような美しさだ。
エリーザさんの水着は、白いレースのセパレートタイプだ。
なんというか、その胸は正直なところ、目のやり場に困ってしまう。
「アステル君、好きなだけ見ていいわよ。うふふふ」
「いやいやいやいや、見ませんよ!」
「見たくないの?」
「そ、そういうことではなく……」
エリーザさんが顔を近づけてくる。
もう目をつぶるしかない。
「ちょちょおおおお! その! お、俺、水着がないんですけどぉぉぉぉ!」
「買っておいたわ。はい」
「え?」
エリーザさんに水着を渡された。
「あの店で着替えてきなさいな」
言われた通り、俺は水着に着替えた。
まさかクエストを終えて、こんなことになるとは予想もしなかった。
しかも美女二人と……。
まあでも、せっかくだし俺も楽しもう。
「海水浴したって、地元で自慢できるしな!」
俺は海に向かって砂浜を駆け抜ける。
「うおぉぉっ! 遊ぶぞっ!」
そのまま波に飛び込んだ。
◇◇◇
着替え終わったアステルを、アリシアとエリーザはじっくりと観察していた。
「アステル君って、脱ぐと凄い身体ね」
「そうね。初めて見たけど凄いわね」
「え?」
アリシアの言葉を聞き、エリーザが驚いた表情を浮かべた。
「アリシアはアステル君の部屋に行ったんじゃないの? 裸見てないの?」
「見るわけないでしょ! 少し話しただけよ」
「ふーん。でも、アステル君のこと好きなんでしょ?」
「なっ! そ、そんなわけないでしょっ!」
「じゃあ、私がもらっていい?」
今度はアリシアが瞳を大きく見開き、エリーザを見つめた。
「え? あなたアステルがいいの?」
「ええ、もちろんよ。可愛いじゃない。素直だし、とてもいい子だもの」
照れもなく微笑むエリーザを見て、アリシアは俯いた。
「わ、私は……」
「うふふふ。でも、アステル君が誰を選ぶか分からないものね。それに彼、多分これから相当モテるわよ」
「それは……そう思う」
「お互い頑張りましょうね」
「わ、私はっ!」
「ほら、せっかくなんだから、水着でアピールするわよー」
「ちょっと、エリーザ!」
エリーザがアリシアの手を掴んで波打ち際に走った。
「ほら、アリシア見て! 波打ち際でおじさんみたいに座ってる若者がいるわよ!」
「ほんとだ。何しているのかしらね。うふふ」
「波に感動しているんでしょ。うふふふ」
二人は波打ち際に座るアステルに向かって、何度も海水を浴びせた。
◇◇◇
俺は海水浴を思い切り楽しんでしまった。
また機会があれば来たいと思う。
夕食は宿の高級レストランだ。
ここでロスタス最後の食事を取り、明日の朝に王都行きの馬車に乗る。
「アステル。食事の前に、クエスト関連の話をするわね」
「は、はい」
今回のクエストで、アリシアさんの優しいところや可愛らしいところを知った。
だが、最後はやっぱりいつもの凛々しいアリシアさんだ。
「まず、クエスト報酬よ。ダウェイ兄弟の懸賞金が合計で一千百万ルト。ギルドからのクエスト報酬が二百五十万ルト。今回の経費はギルドが持つことになっているから、一人四百五十万ルトよ」
「よ、四百五十万っ!」
「そんなに驚くこと? ネームド狩猟で、もっともらっていたでしょ?」
「そ、そうですけど、こんなに楽しくて、こんなにもらっていいのかなと」
「楽しいだけじゃなかったでしょ? もう。本当にポジティブなんだから。うふふ」
救出した女性たちは無事に解放され、船に積んであった大量の麻薬は押収された。
販売ルートなどはこれから調査をするそうだ。
「これで解決したんですね」
「過去に誘拐された女性たちは気の毒としか言えないけど、一応は解決したわよ」
牢に閉じこめられていた女性たちを見た時、俺は胸が押しつぶされそうになった。
あの瞬間を思い返すだけでも怒りに震える。
「俺、今後も討伐クエストやります!」
討伐クエストを続けていけば、結果的に親父に言われた人助けになるはずだ。
二人は俺に頷き、微笑んでくれた。
エリーザさんがワイングラスを手に持つ。
「さて、ではクエスト成功の乾杯をするわよ」
「はい!」
三人で乾杯した。
もちろん俺はブドウジュースだ。
大量の食事が運ばれてくると、二人は早くも二本目のワインを注文していた。
俺は空になったワインボトルを見つめる。
「アステル君。ワイン、飲んでみる?」
「そうですね。クエスト後の一杯も、冒険者の醍醐味ですからね。あはは」
エリーザさんが微笑みながら、グラスにワインを注いでくれた。
改めて三人で乾杯だ。
俺は見様見真似でワインを口に含む。
「ほほう、これは旨いワインだ」
「あら、アステル君。味分かるの?」
「いやー。気分だけでも浸ろうと思って。あはは」
正直喉がカーッと熱くなるし、味は渋い。
だけど、そこまで不味くは感じない。
「なんだか酒が分かったような気がします。俺、大人の階段登っちゃいました。あはは」
「でも飲みすぎちゃダメよ。まだ少しだけにしておきなさい」
「はい!」
俺はその言葉通り、ワインは一杯だけにしてちびちびと飲む。
「ふう。……俺、壁を乗り越えたよな」
俺はモンスターの狩猟しかしてこなかったが、初めて人間を討伐した。
「親父が自分で経験しろって言っていた意味が分かったよ」
自分で経験していき、悩み、乗り越えていくことが大切だと痛感した。
「親父、ありがとう」
俺はワイングラスを小さく掲げた。
本当の意味で、冒険者生活の始まりだ。
***
翌日、俺は人生初の二日酔いに襲われた。
一杯しか飲んでないのに。
「気持ち……悪い……」
二日酔いがこんなに辛いものだとは思わなかった。
この世の終わりのような感覚だ。
天井が回り、全てが歪んで見える。
帰りの馬車で、エリーザさんが膝枕をしてくれた。
「行きも帰りも膝枕をするとは思わなかったわ。うふふふ」
「ごめん……なさい……」
冒険者の道は厳しいと知った。




