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肉屋のせがれ、実家の手伝いで毎朝モンスターを狩っていただけなのに、いつの間にか人類最強になっていた  作者: 犬斗
第二章

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第31話 夜の訪問

 俺たちは宿へ帰り、レストランで夕食を取り、アリシアさんが囮になるための作戦を練った。

 俺とエリーザさんの役目は追跡だ。

 そして、乗り込んだら俺は――斬る。


「いよいよ覚悟を決める時だな。俺は……やるんだ」


 部屋で気合を入れていると、扉をノックする音が聞こえた。


「アリシアさん。どうしたんですか?」

「アステル、ちょっといい?」

「はい、どうぞ」


 アリシアさんが部屋に入ってきた。

 風呂上がりなのか、雪のような白い肌が僅かに火照っている。

 アリシアさん独特の華やかな香りを部屋に広げながら、ソファーに座った。


「さっきの話だけど」

「さっき? あ、囮の話ですね」

「そ、そうじゃなくて、まだって話のことよ」

「まだ? ああ、でも大丈夫です。覚悟を決めました」


 アリシアさんが俺の瞳を真っ直ぐ見つめている。


「どっちの?」

「どっち? え? その、人を斬る……。あ!」


 そっちの覚悟ではないようだ。


「これからもこういうクエストはあるわよ。しかも、これって定番の調査方法なのよ」

「な、なるべく早く済ませ……。う、うぅ……」


 冒険者の壁がこれほど高いとは思わなかった。


「わ、私としておく?」

「え! いやいやいやいや!」

「嫌なの?」


 アリシアさんが上目遣いで俺を見つめている。

 絶世の美人なのに、今はめちゃくちゃ可愛い。


「そ、そんなわけないじゃないですか! でもハイリッヒさんが!」

「え? ハイリッヒ?」


 アリシアさんの動きが止まった。

 そして頬を膨らませ、吹き出した。


「あはは、ハイリッヒはただのパーティー仲間よ。でも、私とハイリッヒが付き合っていると考えたってことは、少しは私のことを気にかけていたってこと?」

「アリシアさんはその……美人さんですから。美男美女でお似合いだなあって」

「え? 私のこと美人だと思ってるの?」

「もちろんです。今まで会った人の中で一番美人です」

「あら嬉しい。そんなことを言われるの初めてよ。ふふふ」


 アリシアさんは、足を交互にバタつかせながら笑っている。


「ねえ、アステルは今好きな人とかいないの?」

「お恥ずかしい限りですが……。王都に来てまだ間もないですし……。知り合いも近所のおばちゃんばかりで……」

「うふふ、アステルらしいなあ。相手が見つかるといいわね」

「そ、そうですね。うぐぐ……」


 俺の様子を見てアリシアさんはまた笑っていた。


「はあ、おかしかった。さて、明日からは囮作戦よ」

「はい。囮、気をつけてくださいね」

「心配してくれるの?」

「そりゃ、もちろんですよ」

「ふーん、何かあったら助けてよ?」

「はい!」

「頼もしいね。期待しているわよ」


 アリシアさんが立ち上がり扉へ向かったので、俺も見送りに行く。

 アリシアさんが扉のノブに右手をかけると、突然振り返って俺を見つめた。


「もし誰もいなかったら、私が付き合ってあげるわね」

「え?」

「じゃあ、おやすみ」


 アリシアさんが部屋を出て扉を閉めた。


「あ、あの?」


 俺はしばらく、その場から動けなかった。


 ***


 翌朝、俺たちはロビーに集合した。


 アリシアさんは白いロングのワンピースを着ている。

 髪形はいつもと違い、二本の長い三つ編みにしており、清楚でおとなしい印象だ。


「あら、いいじゃない。アリシア」

「少し地味にしたの。これで誘拐されやすくなるんじゃないかな」

「そうね。普段のあなたは覇王のオーラが出ているから、誰も近づけないものね」

「はあ⁉︎ 何よ!」

「それよ、それ。うふふふ」

「もう! からかわないでよ!」


 昨日のこともあり俺はどう接していいのか分からないのだが、アリシアさんはいつもと全く変わらない。

 俺も普通に接しよう。


「どう? アステル?」

「普段の綺麗な感じから、凄く可愛くなっています」

「本当に?」

「ひゃい!」


 頑張って普通に接したつもりだが、思わず声が上ずってしまった。


「でも、普段が可愛くないみたいね」

「いや、そこは触れなくてもいいんじゃないかと……」


 エリーザさんが俺たちを見つめていた。


「この二人、なにか怪しい……」

「なな、なにがですか?」

「アリシアの覇王のオーラが、アステル君の前では崩れ落ちているもの」

「こ、この清楚な服装のせいじゃないかと……」

「ふーん。まあいいわ。そういうことにしてあげましょう」


 普段の少しぼうっとしたエリーザさんが、今日はやけに鋭い。


「君、失礼なこと考えてる?」

「とと、とんでもないです」


 俺は自分の頬を両手でひっぱたいた。

 自分に気合を入れるためだ。


「作戦ですっ! しっかりやりますっ!」


 二人は俺の行動に驚きながらも、微笑みながら頷いた。


 俺たちは港付近の繁華街に移動した。

 若い女性に人気のスイーツの店があり、多くの観光客が訪れるという。

 まずはそこで様子を見るつもりだ。


 アリシアさんが一人で店に入った。

 俺とエリーザさんはカップルを装い、離れた席に座る。

 店はかなり広く、人の出入りが多い。


「へえ、お洒落な店だな。客も多いし人気店なんですね。意外と男の客もいるし」

「アステル君」

「は、はい! すみません!」


 神妙な表情で俺を見つめるエリーザさん。

 気を抜くなということだろう。


「パフェ食べよ、パフェ! とても美味しいって噂なのよ。楽しみねえ」

「あ、そ、そうですね。ははは」


 パフェを注文したエリーザさんが、旨そうに頬張っている。

 さり気なくアリシアさんに視線を向けると、同じように笑顔でパフェを食べていた。


「そうか。しっかり楽しんだほうが自然に見えるのか。やっぱり二人は凄い」


 もし潜入先で相応しくない行動を取れば、当然ながら警戒される。

 周囲に溶け込むような自然な行動が大切だと学んだ。


「もう一杯食べちゃおうかしら」


 エリーザさんのこの迫真の演技は本当に勉強になる。

 俺ももう一杯食べようか悩んでいると、スーツを着た一人の男が店に入ってきた。


「あ、エリーザさん。あの男です」

「何が?」

「ダウェイ兄弟です」

「え⁉︎ ど、どうして分かるの?」

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