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肉屋のせがれ、実家の手伝いで毎朝モンスターを狩っていただけなのに、いつの間にか人類最強になっていた  作者: 犬斗
第一章

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第3話 人喰いモンスター

「おい、起きろ」

「ん……」


 深夜、いつものように親父に起こされた。

 顔を洗い、支度をして外に出ると、親父と一緒に知らない年配の男性が立っていた。


「アステルか。久しぶりだな。大きくなったなあ」

「え? あの?」

「おっと、すまん。つい懐かしくてな。ヴォルフの古い友人でガドルフだ。よろしくな」

「どうも。アステルです」

「アステルがまだ小さい頃、何度か会ったことがあるんだよ。わはは」

「そうなんですね。ちょっと恥ずかしいな。ははは」


 笑顔のガドルフさんと握手を交わす。

 黒い髭を蓄えた、優しそうなおじさんだ。


「ガドルフは隣街の冒険者ギルドの支部長だ」

「え? 冒険者ギルドの支部長さん!」


 俺の夢は冒険者になること。

 だから十八歳になったら、家を出て王都へ行くつもりだ。


 もしかして、支部長が会いに来たということは俺のスカウトか?


「はぁぁ……」


 俺の考えを見抜いたかのように、親父が溜め息をつきながら首を振った。


「そんなわけないだろ。狩りの話だ」

「そりゃそうか……」

「山に黒熊獣(ベルッソ)が出没した。すでに犠牲者も出ているそうだ」

「黒熊獣(ベルッソ)だって?」


 俺は昨日の狩りを思い出した。

 いつもよりも妙に静かだった山のことを。


「あ、昨日、獲物がいなかったのはそのせいか。黒熊獣(ベルッソ)が食い荒らしてたのか」

「そうだろうな。ちょっと危険だから、お前狩ってこい」

「え? 黒熊獣(ベルッソ)を?」

「そうだ」


 親父が腕を組みながら頷く。

 相変わらず無愛想だ。


「えー、嫌だよ。黒熊獣(ベルッソ)は重いんだよ」

「ギルドから報酬が出るぞ。お前にやる」

「え! マジで! いいの⁉︎」


 冒険者ではない俺が、ギルドから報酬を受けてモンスターを狩猟することはできないはずだ。


「ヴォルフ! 勝手なことを――」


 声を張り上げたガドルフさんを、親父が右手で制した。

 親父の視線は俺に向けたままだ。


「お前には……五万ルト渡そう」

「ごごごご、五万! マ、マジかよ!」


 五万ルトは大金だ。

 絶対に手に入れたい。

 俺はガドルフさんに迫った。

 きっと俺の顔は、にやけていると思う。


「やります! やらせてください!」

「待て待て待てっ! 黒熊獣(ベルッソ)だぞっ! しかも人喰いモンスターだぞっ!」


 ガドルフさんが興奮して目を見開いている。

 だが、狩りをしてこれほどの報酬が貰えるのであれば、何としてでもやりたい。


「ガドルフ。お前がアステルに付き添って見届けろ」

「し、しかし……」

「支部長権限を使え」

「そ、そんなもんあるわけないだろっ!」


 困惑するガドルフさんだが、ケチな親父にしてはとてもいい提案だ。

 俺は金が入る。

 親父は友人の頼みを聞く。

 ギルドは黒熊獣(ベルッソ)が討伐できる。

 誰も損しない。


 俄然やる気が出てきたところで、親父が一本の剣を俺に差し出した。


「今日はこの剣を使え」

「剣か。まあいいや。了解」

「あと、森鹿(チェルセ)も狩ってこい」

「はあ? 黒熊獣(ベルッソ)だけで十分だろ?」

「人喰いは食肉にならん。黒熊獣(ベルッソ)の素材はギルドに渡す。それがお前の報酬になるんだ」

「ちっ、分かったよ」


 五万ルトのためだ。

 黒熊獣(ベルッソ)と一緒に森鹿(チェルセ)を狩って金を貯める。

 ガドルフさんが諦めた表情を浮かべながら肩をすくめた。


「ふう、仕方がない。俺が同行する。だが、もし危険を感じたら即刻中止だからな」

「やった! ありがとうございます!」


 俺は急いで支度を済ませ、ガドルフさんと一緒に山へ向かった。


 ***


 月はまだ頭上にあるため、月光が夜道を照らす。

 だが、山に入ればその恩恵はなくなり闇と化す。


「アステル、松明は焚かないのか?」

「はい。こちらの姿を発見されるし、虫も寄ってくるので面倒なんです」

「しかし、この暗闇で見えるのか?」

「慣れてますし、夜目は利きます」

「そ、そうか」


 もしかして、ガドルフさんは暗闇が見えないのだろうか?

 俺はほぼ一人でしか狩りに行ったことがないので、他の人の感覚が分からない。


「ガドルフさんは見えますか?」

「慣れればなんとか見えるさ」


 冒険者ギルドの支部長ということであれば、きっと元冒険者なのだろう。

 いや、現役かもしれない。


「ガドルフさんは冒険者なんですか?」

「俺はもう引退しているよ」

「そ、そうなんですね。あの、実は……。俺、冒険者を目指しているんです」

「そうなのか? じゃあ試験を受けるのか?」

「はい。金が貯まったら王都へ試験を受けに行きます」

「そうか。頑張れよ。って! これから黒熊獣(ベルッソ)と戦うんだぞ! 何でそんなに余裕なんだ!」


 暗闇の中でも、ガドルフさんが驚愕の表情を浮かべていることははっきりと見える。


「うーん。そう言われましても」

「危険だと思ったら止めるからな」

「はい。でも、大丈夫です」

「しかし、武器は剣なんだろう? 黒熊獣(ベルッソ)相手は弓がいいんだがな」

「親父のやつ、いつも武器を指定するんです。しかも妙に扱いづらくて、最初は苦労しました。ははは」

「その剣を見せてもらってもいいか?」

「はい、どうぞ」

「なっ!」


 剣を渡した瞬間、ガドルフさんはその場に落としてしまった。


「す、すまん。しかし、重すぎるだろ……。しかも、この刃は……」


 俺は落ちた剣を片手で拾い上げた。

 確かに昔は重いと思っていたが、長年これでやってきたから今では普通だと思っている。


「八歳の頃からやってるので慣れました。ははは」

「八歳からだと?」

「はい、そうです。最初の数か月は親父と一緒に狩りをしましたけど、それからは一人でした。深夜の山に子供を放置するなんて信じられませんよ」

「た、確かにな……」

「最初の頃は大泣きですよ。まあでも、すぐ慣れましたけどね」

「狩りはどれくらいの頻度で行っているんだ?」

「ん? 毎日ですよ。八歳の頃から毎日。一日も休みがないんです」

「ま、毎日だと!」

「だから、学校を卒業するまで大変だったんですよ。ははは」


 会話をしていると、モンスターの気配を感じた。


「黒熊獣(ベルッソ)だ! ガドルフさん、一旦止まりましょう」

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