第29話 クエストの目的
「さて、アステル。討伐クエストの内容を伝えるわね。目標は討伐リストの犯罪者よ」
「え! 討伐リスト!」
クエストには狩猟、調査、採取などいくつもの種類がある。
その中でネームドモンスターの狩猟と並び、最も難易度が高いとされているのが討伐リストに掲載された凶悪犯罪者の討伐だ。
店員が大量の料理を運んできた。
テーブルに並べ、一礼して下がる。
「アステル君、たくさん頼んだわよ。美味しそうでしょ?」
「そ、そうですね」
エリーザさんが小皿に取り分けてくれた。
「火斑牛獣のステーキ、黒毛牛のシチュー、白真鯛の塩釜焼き、銀斑鱸のムニエル、鋏海老パスタ。あとパンと果物を注文したわ。足りないものがあったら言ってね。うふふふ」
野盗のことを思い出すと食欲が湧かない。
しかし、そんなことで食えなくなっては、この先通用しないだろう。
食える時に食う。
冒険者の鉄則だ。
アリシアさんが俺のグラスにブドウジュースを注ぐ。
「アステル。これは慣れるしかないわよ」
「はい。食えなきゃクエストなんてできませんからね。無理してでも食います」
「本当にもう……。さすがね」
俺はフォークを手に取り、飯を一気にかき込んだ。
エリーザさんが次々に取り分けてくれる。
「ここは港町だからお魚が美味しいのよ。君は海魚なんて食べたことないでしょ?」
「魚は淡水魚だけです! 旨いです!」
俺はひたすら食べた。
胃が悲鳴を上げているような気もするが、それを耐えてブドウジュースで流し込んだ。
***
「ご、ごちそうさまでした」
テーブルの皿は全て空だ。
あの後、さらに数品追加されたが全部食べきった。
「アステル君、たくさん食べたわね。偉いわよ」
「あ、ありがとうございます」
とはいえ、俺一人で食べたわけではない。
エリーザさんも物凄い量を食べていた。
パスタをおかわりしたほどだ。
アリシアさんも見た目からは想像もできないほど食べていた。
そして、何より驚いたのがワインだ。
二人でワインを五本も空けていた。
「それじゃあ、ゆっくりクエストの話をしましょうか」
アリシアさんが六本目のワインを注文した。
それほど旨いのだろうか。
アリシアさんが、俺の視線に気づいたようだ。
「アステルも飲んでみる?」
「じゃ、じゃあ少しだけ」
「お酒は無理しなくていいわよ。舐める程度ね」
グラスに一口分だけ注がれたワインを、恐る恐る飲んでみた。
「うげぇぇ、渋いぃぃぃぃ」
「まだ早いようね。でも、いつかきっと仕事終わりに美味しく感じる時が来るわよ」
「そ、そうなるように頑張ります」
アリシアさんが微笑みながら頷いた。
「討伐の話に戻るけど、対象は討伐リストのダウェイ兄弟よ」
「ダウェイ兄弟……。初めて聞きます」
「有名な犯罪者だけど、リストは公開されてないから知らないのも無理はないわね」
「ダウェイ兄弟はどんな犯罪を?」
「この街で、麻薬と若い女を売買しているそうよ」
「なっ!」
「静かにしなさい」
「は、はい」
俺はすぐに手で口を塞いだ。
エリーザさんがグラスをそっとテーブルに置く。
「アステル君、ここは港町でしょ? 出荷が楽なのよ」
「出荷ですか?」
「船は一度に大量の物資を運べるもの。もちろん人もね」
「船……」
アリシアさんがワインを飲み干した。
「アステル。討伐リストには懸賞金もついているのよ」
「懸賞金……」
「兄ラルログが八百万ルト、弟ブローグが三百万ルトよ」
「そ、そんなになんですか?」
「逆に言えば、それほどの犯罪を犯しているということよ」
犯罪者の討伐で懸賞金を得る。
当然ながら命がけの仕事だ。
気が引き締まる。
「調査は明日の朝からよ」
「はい!」
打ち合わせを終えると、猛烈な眠気が襲ってきた。
馬車移動の疲れもあるだろう。
俺は一足先に部屋に戻ることにした。
二人は七本目のワインを注文していたが、酔った気配は一切ない。
人のことを化物扱いするが、この二人こそ化物だと思う。
***
翌朝、二人はいつものように艶やかな姿を見せた。
「おはよう、アステル」
「アステル君、おはよう」
酒は飲み過ぎると二日酔いになると聞いたが、二人には関係ないようだ。
「お、おはようございます」
「どうしたの? アステル君」
「あの、二日酔いとか大丈夫なんですか?」
「え? 少し飲んだだけよ。作戦中にたくさん飲んだりしないわ。うふふふ」
あの量が少しなんだ……。
まともに酒を飲んだことはない俺にだって分かる。
あれは絶対に少しではない。
「さ、アステル君。調査に行くわよ」
「は、はい!」
まずは港へ向かった。
ロスタスは北部の主要都市のため、港は巨大だ。
数えきれないほどの船が停泊している。
「これが港……」
「ほら、見てアステル君。商船が荷物を下ろしているわ。あっちでは漁船が水揚げしているわよ」
船から大量の荷物や魚が港に運ばれている。
ここから物資が内陸部へ運ばれていくのだろう。
せっかくだからと、朝食はそのまま港の食堂で取ることにした。
俺は水揚げされたばかりの青目鯵のカルパッチョを注文。
生魚なんて初めて食べたが、その旨さに感動した。
現地の名物を食べられることは、冒険者の醍醐味の一つだ。
食事を終え、そのまま港を調査し、街の繁華街を全て回った。
女性の失踪に関していくつかの話を入手したものの、決定的な内容を掴むまでにはいたっていない。
それとは対照的に、麻薬に関しては意外と簡単に話を聞くことができた。
それどころか、街のチンピラから現物を容易に購入できたほどだ。
「麻薬が蔓延しているってことね」
「しかも王都よりも安いのね。これじゃあ蔓延するのも仕方ないわ」
俺は二人が入手した麻薬をのぞき込んだ。
「ん? アステル、麻薬に興味があるの?」
「いえ。興味なんかないですけど臭いが……」
「臭い?」
「これって原材料は朝夜草ですね。地元の山に自生していたので間違いありません」
朝夜草は麻酔薬の原材料として知られており、強烈な睡眠作用がある。
それが麻薬の原材料になるとは知らなかった。
「よく分かるわね……。あなたの言う通り、この麻薬の原材料は朝夜草よ。もう呆れちゃうわ」
「すごーい、犬みたい! ワンワン! はい、お手」
アリシアさんは両手を広げながら呆れた表情を浮かべ、エリーザさんは両手を叩いて喜んでいた。
「俺、犬じゃないですよ……」




