↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
肉屋のせがれ、実家の手伝いで毎朝モンスターを狩っていただけなのに、いつの間にか人類最強になっていた  作者: 犬斗
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/45

第28話 冒険者の心得

 俺はアリシアさんとエリーザさんとクエストに出発した。

 王都を出て、すでに四日が経過している。


 馬車はのどかな街道を進む。

 俺の正面に座るアリシアさんは、窓の外に視線を向けている。


「アステル。北部へ行くのは初めて?」

「はい。王都より北は初めてです。目的地は北部の街ロスタスですよね?」

「そうよ。楽しみでしょ?」

「はい。それに遠出のクエスト自体初めてですから、道中も楽しいです」

「そう、良かったわ。楽しめる時に楽しみなさい」


 ロスタスは王都から馬車で四日の距離だ。

 今日の昼には到着するだろう。


 窓から入る風で、アリシアさんの金髪が乱れている。

 髪をかき上げる仕草は大人の女性そのものだ。


「すう、すう」


 エリーザさんはさっきまで俺の右肩に寄りかかって寝ていたのだが、今はなぜか俺の膝を枕にして、寝息を立てて爆睡している。


「ん?」


 外を眺めるアリシアさんが、何かに気づいたようだ。


「やっぱり北部は治安が悪いわね……。停めてください」

「へ、へえ。大丈夫ですか?」

「ええ、問題ないですわ」


 アリシアさんが御者に指示を出すと、馬車が停まった。


「エリーザ、起きなさい」

「もう少し……」


 そう呟きながら、まだ寝ようとしているエリーザさん。

 俺の膝に顔をうずめている。


「エリーザ、野盗よ」


 アリシアさんの言葉に反応したエリーザさんは、瞬間的に目を覚まし、弓を握って馬車を飛び出した。

 もう射撃体勢に入って、野盗を牽制している。

 すぐにアリシアさんも馬車を降りた。


「アステル。そこにいなさい」

「い、いや、野盗なら俺も!」

「最初は無理よ。でも目を背けずに見ていなさい。これに慣れる必要があるのよ」


 馬車の前に、十人ほどの野盗の姿が見えた。

 舗装されていない狭い街道でターンは難しい。

 旅人が逃げられないように、この場所で待ち伏せしていたのだろう。


「金と馬を置いていけ!」

「いや待て! 女だぞ! しかも二人!」

「すげーいい女じゃねーか!」

「っしゃ! しばらくやり放題だぜ!」


 男たちが叫びながら剣を抜いた瞬間、五人の口に矢が突き刺さっていた。

 エリーザさんの弓だ。


「がっ!」


 矢が刺さった野盗たちが、ドスンと音を立てながら地面に倒れ、砂埃を巻き上げた。

 口からゴポゴポと血の泡が吹き出て、五本の指を大きく広げ、肘を直角に曲げた状態でビクビクと痙攣している。

 身体を硬直させながら跳ねるように動く姿は、まるで陸に上がった魚だ。


「がはっ! がはぁぁっ!」


 血の涙を流し、声にならない叫び声を上げている野盗たち。

 だが、すぐにその声は聞こえなくなった。


「き、斬れっっ!!」


 野盗の一人が叫ぶと同時に、アリシアさんがロングソードを抜き、目にも留まらぬ速さで接近した。

 そして、残り五人の首筋を斬っていく。

 野盗たちには抵抗する時間も術もない。


「ゴポォォゥゥ……。ゴポォォゥゥ……」


 悲鳴を上げる野盗たちだが、喉を斬られたことで空気が漏れている。

 そして、首から噴水のように鮮血をまき散らし、次々と地面に倒れていった。


 人間が死ぬ瞬間を見たのは初めてだ。

 それが野盗だろうが、さっきまで動いていた人間が肉塊になることに、胸から胃にかけて言い表せない気持ち悪さに襲われた。

 モンスターの狩猟とは全く違う。


「うっ!」


 俺はすぐに馬車から降りて、草むらに嘔吐してしまった。


「あらあら。アステル君、大丈夫?」


 エリーザさんが背中を擦ってくれる。


「ほら、アステル。水で口をゆすぎなさい」


 アリシアさんから水筒を受け取り、口をゆすいだ。


「狩猟とは違うでしょ?」

「……はい」

「最初は見ただけで失神する人もいるくらいだもの。それくらいで耐えられるのはさすがね」

「いや……。アリシアさんの言う通り、俺は結局動けませんでした……」

「そうね。ここで挫折する冒険者も多いわよ」

「……俺は大丈夫です。次は自分でできます」


 俺はもう一度口をゆすぐ。


「アステル君。大丈夫? 顔色が真っ青よ? 横になって休んだほうがいいわよ」

「ありがとうございます。それじゃあ、少しだけ横になりますね」


 馬車に戻って座席に横になると、エリーザさんが膝枕をしてくれた。


「だ、大丈夫です!」

「いいのよ、さっきのお返しよ。少し目を閉じていなさい」

「すみません……」


 エリーザさんが、俺の髪を優しく撫でてくれた。

 その気持ち良さに、俺はいつの間にか寝てしまった。


 ***


「アステル、着いたわよ」


 アリシアさんの声で目を覚まし、馬車を降りた。


「エリーザさん、足痛くないですか? なんかずっと寝てしまって……。すみません」

「私の膝枕が気持ち良かったからでしょ?」

「そ、そうですね。はは……」

「いつでもしてあげるわね」


 エリーザさんが微笑んでくれた。

 甘え過ぎてしまって申し訳ない。


 馬車の精算を終えたアリシアさんが、俺の顔をのぞき込んできた。


「アステル、顔色も良くなったようね」

「ご迷惑をおかけしました」

「そんなことはないわよ。それより、この景色を見なさい」

「え? こ、これは……。まさか……」

「見たことある?」

「い、いえ、初めてです」


 目の前に広がる広大な湖。

 いや、これが噂に聞く海だ。


「こ、これが海……」


 ありきたりの感想しか出ない。

 本当にそれ以外の言葉が出ない。


「お、大きい……」


 ヴォルア王国は海が北部にしかない。

 トラド半島を境に、西が北海、東がバディム海だ。


「目の前の海はバディム海よ」

「これがバディム海……。す、凄い……」


 俺の実家は内陸部にあるため、生まれてから一度も海を見たことがない。

 いつかクエストで海に行ってみたいと思っていたが、早くも見ることができるとは思わなかった。


「アステル、ここがロスタス。北部の古都で港町よ」

「古都ロスタス……」


 石造りの建物が並び、石畳の街道が続く。

 華やかな王都とは違い、古さと重厚さを感じる。


「どう? 冒険者は辛いこともあるけど、その何倍も楽しいこともあるわよ。うふふ」

「はい。こういう生活に憧れて冒険者になったんです」


 アリシアさんが俺の肩にそっと手を乗せてきた。

 新人の俺に、いいことも悪いことも含めて、冒険者としての心得を教えてくれているようだ。


「さて、宿へ行って、食事をしながらクエストの目的を話すわね」

「はい」


 俺たちはまず宿へ入った。

 宿といっても、俺なんかが泊まっていいのかと思うほどの高級宿だ。

 ただひたすら緊張する。

 廊下や天井には繊細なレリーフが施されており、思わずキョロキョロと見回してしまう。


「す、凄い……」

「Aランクはいつもこんなものよ。あなたはSランクだから、誰もが憧れるような生活を見せることも必要ね」


 ギルドの食堂で特別ランチにするか未だに悩む俺にとって、豪華な生活なんて最も遠い世界だ。


「少しずつ頑張ります。はは」


 部屋は三人とも個室だ。

 鎧を脱ぎ、着替えてから一階の高級レストランへ移動した。


 アリシアさんが慣れたように次々と注文していく。

 俺には全く分からないのでありがたい。

 大人二人はワインのグラスを持ち、俺はブドウジュースだ。

 三人で乾杯した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。