第27話 ギルドの期待
◇◇◇
冒険者ギルド本部の最上階、高級な調度品が並ぶ部屋に、一人の冒険者が呼び出された。
Aランク冒険者のアリシア・シュトロレインだ。
アリシアは現在のギルドで最強パーティーと呼ばれる『黄金の薫風』の一員でもある。
ソファーに座るアリシアの前に、一人の女性の姿があった。
「呼び出して悪かったわね、アリシアちゃん」
「いえ。とんでもないです」
緊張した面持ちのアリシア。
それもそのはず、正面にいるこの人物こそ冒険者ギルドマスター、シャルロット・ローレンフェルトその人だった。
「あなたも知っている新人冒険者のことなんだけどね」
「新人冒険者? もしかしてアステル・ウルリッヒのことですか?」
アリシアが気にかけている新人はアステルしかいない。
シャルロットは微笑みながら、想像通りの答えを出したアリシアを見つめる。
「そうそう、そのアステルちゃんのことよ。あの子、狩猟に関しては現時点ですでにギルドトップレベルよ。あなたも分かるでしょ?」
「はい……」
これまでギルドトップに君臨していたアリシアとしては複雑な心境だ。
突如として現れた十八歳の若者は、自分を軽く越える脅威的な存在だった。
シャルロットはアリシアの考えていることを見抜いている。
だが気にしない。
悔しい思いをしながら、冒険者同士が切磋琢磨することで実力は上がっていくものだから。
シャルロットがティーカップを手に取り、ゆっくりと口に運んだ。
「ただね、心配な点もあるのよ。あの子はまだ狩猟だけなのよ」
「狩猟だけ? 討伐はまだでしたか……。アステルは間違いなく冒険者の歴史を変えます。早めに乗り越えるべきかと」
「そうね。だから、このクエストをお願いしたいのよ。アステルちゃんに同行してちょうだい」
シャルロットがテーブルに書類を置いた。
アリシアは手に取り目を通す。
「これは……討伐リストですか。しかも、初めてでこの相手は大きな壁ですね」
「あの子の実力は申し分ないのよ。あとは精神面さえ乗り越えればね」
狩猟の対象は動物やモンスターだ。
それに対し、討伐の対象は人間となる。
◇◇◇
俺はギルドに顔を出した。
「アステルさん。昨日のクエスト報酬と素材報酬です」
「ありがとうございます!」
「それにしても、たった一人でCランクモンスターの飛闇鼠獣を三頭も狩猟するなんて、本当に信じられません……」
受付嬢のセリアさんや周囲の冒険者たちが、驚愕の表情を浮かべながら俺のことを見つめていた。
少しだけ視線が痛い。
「い、いやー、飛闇鼠獣は慣れているので。はは」
俺はセリアさんから金貨が入った革袋を受け取り、食堂へ移動した。
Cランクモンスター三頭ともなれば、報酬はかなりの金額だ。
「今日くらいは贅沢に、特別ランチを注文してもいいよな……。ちゅ、注文するぞ……」
俺は意を決して、二千ルトもする黒毛牛のステーキを注文した。
「そろそろ遠出をしてみるかな」
冒険者に憧れた理由の一つが、様々な場所へ旅をして、知らない景色を見ることだ。
今はまだ王都周辺のクエストしか受注していないが、次は遠方のクエストにチャレンジしようと思っている。
「各地で旨いものなんかも食いたいしな。はは」
そんなことを考えながら、俺はステーキを頬張った。
「くう、旨いぜ。ん?」
飯を食う俺の正面に、二人の女性が立っていた。
二人は微笑みながら俺を見つめている。
「あら、アステル。特別ランチなんて豪勢ね」
「ア、アリシアさん!」
Aランク冒険者のアリシアさんだ。
金髪のロングヘアが流水のように優雅に揺れ、鼻をくすぐる華やかな香りが漂う。
赤い瞳が印象的な圧倒的な美女だ。
俺はすぐに立ち上がった。
「ど、どうしたんですか?」
「アステルに話があってきたのよ」
「え? 話ですか?」
アリシアさんが隣の女性に視線を向けた。
「アステル、改めて紹介するわね。こちらは冒険者のエリーザ・ライルリッヒ。彼女も『黄金の薫風』の一員でAランクよ」
以前、ソル・デルクルを狩猟した時に、アリシアさんたちと一緒にいた冒険者だ。
「Aランク冒険者のエリーザ・ライルリッヒです。よろしくね、アステル君」
「は、はい! アステル・ウルリッヒです!」
エリーザさんの身長は、アリシアさんよりも拳半分ほど低い。
銀色のロングヘアは、夜空に輝く星のような輝きを放つ。
笑顔が柔らかい、とても優しそうな美人だ。
俺はエリーザさんと握手を交わした。
エリーザさんもライトアーマーを着ているのだが、なんというかアリシアさんよりも胸の部分が大きいような気がする。
「ふーん……」
アリシアさんが真顔で俺を見つめていた。
考えていることがバレたのかもしれない。
「あ、いえ、これは、その……」
「私と比べたんでしょ? Sランクとはいえ、あなたは年頃の男の子だものねえ」
「すすす、すみませんでした!」
アリシアさんは特に気にした様子もなく席に座った。
「ほら、ステーキ冷めちゃうわよ」
「あっ!」
俺も席に座り、まだ半分以上残っているステーキを食う。
二人はコーヒーを飲んでいた。
「ところで、アステル。あなた、次のクエストの予定は?」
「そろそろ遠出をしてみたいと思っています」
「へえ、遠出か。でもあなたってソロでしょ?」
「はい。ずっと一人で狩猟してきたから、一人の方がやりやすいかなあなんて」
「狩猟に関してはそうでしょうね、狩猟は。だってあなた、バカげてるもの」
「そ、それ、褒めてます?」
「最大級の賛辞よ。うふふ」
アリシアさんが美しく微笑んでいる。
その割に、目は笑ってないように思えるが……。
さっきの仕返しだろうか……。
まあ俺の自業自得だ。
「アステル。明日、私たちは遠方のクエストへ行くわ。一緒にどう?」
「えっ! アリシアさんたちと一緒のクエストですか⁉︎」
「そうよ。詳細はまた説明するけど、討伐クエストなのよ」
「と! 討伐!」
俺はこれまで狩猟しかしてこなかった。
討伐の経験なんてない。
しかし、俺はSランクだ。
上位の冒険者になればいつか必ず通る道ではある。
だったら、早めに慣れたほうがいいだろう。
「アステル。討伐は経験しておかないと、いざって時に動けないわよ。それに遠出は大変だから、最初は私たちと一緒に行って慣れたほうがいいと思うわ」
確かに俺は旅に慣れていない。
知らないこともたくさんある。
初めての遠出でも、アリシアさんたちと一緒なら安心だ。
それに――。
「もしかして、俺のためのクエストですか?」
「あらあら。さすがというか、勘がいいわねえ」
どう考えても、アリシアさんたちが俺を討伐に誘うなんて不自然だ。
駆け出しの俺に討伐を経験させるギルドの思惑なのだろう。
感謝しかない。
「ありがとうございます。ぜひ、ご一緒させてください」
「出発は明日よ」
「分かりました」
俺はついに討伐クエストを行うことになった。




