第24話 想像を超える冒険者
◇◇◇
ディードは火斑牛獣と対峙していた。
「ブモ゛モ゛オォォォォ!」
ディードといえども、ナイフ一本で火斑牛獣の狩猟は簡単ではない。
突進する火斑牛獣の二本の大角が突き刺されば、命はないだろう。
「ブモ゛モ゛オォォォォ!」
火斑牛獣の突進をかわしながら、すれ違いざまに脇腹へナイフを振り下ろした。
だが、厚い毛皮はナイフを簡単に弾く。
「さすがに固いですね」
ディードの剣は正確無比で知られていた。
寸分の狂いなく、同じ場所を狙い続けることが可能だ。
火斑牛獣の突進をかわし、三度四度と同じ場所へ同じ角度で斬りつける。
僅かな傷がつき、徐々に広がっていく。
そしてついに皮を斬り裂き、肉に届いた。
火斑牛獣の身体から、まるで薔薇が咲いたかのように血が噴き出す。
ディードが『鬼薔薇』と呼ばれる所以だ。
「ブモ゛オ……ォォ」
ほどなくして火斑牛獣が地面に沈み、土煙を上げた。
ディードは狩猟の証拠として、火斑牛獣の耳を切り落とす。
「アステルさんはどうでしょうか。頑張っていますかね」
早々に狩りを終えたディードは、早足でキャンプ地へ戻った。
***
隊員たちは十人の小隊で狩りを行う。
ディードが突出しているだけで、隊員たちの実力も高い。
偵察、報告、作戦、実行は小隊での動きそのものだ。
しっかりと役割を決め、軍隊として集団で獲物を狩っていく。
この狩猟祭はディードの思惑通り、祭りという名の訓練だった。
***
ディードがキャンプ地に戻ると、アステルの姿があった。
「ディードさん! おかえりなさい!」
「え? た、ただいま……」
笑顔で迎えるアステルに対し、ディードの脳裏に浮かんだ言葉はリタイアだった。
アステルの帰還があまりに速いことからリタイアしたのかと思ったが、すぐにディードは自分が間違っていることに気づく。
火斑牛獣と森牙豚が運び込まれていたからだ。
しかもすでに解体されている。
「う、嘘……でしょ……」
ディードは目を見開き、目の前の信じられない光景と、優しい笑顔の青年を交互に見つめた。
驚愕の表情を浮かべるディードに、ドーレスが近づく。
「アステルさんは直接獲物を運び込みました。そして、信じられない速度で解体を終えました」
「え? 直接運ぶ? ど、どうやって?」
「火斑牛獣と森牙豚を背負って……」
「せ、背負うって……。一人でどうやってあれを……」
「私も信じられませんでした。森の蔦を使用し、二頭を上手く縛りつけて担いでいました」
「二頭ごと担ぎ上げた?」
「はい、そうです。しかもアステルさんは、砂時計の砂が積もって山になる前に帰還されました。速過ぎて計測不能です」
砂時計のガラス面には、歴代の優勝者、すなわちディードの帰還速度が記されている。
だがアステルは、ディードの記録どころか、砂がガラス面に届く前に帰還してしまった。
「じゃあ、アステルさんは一人で狩りをして、獲物を運搬して、解体まで終えたということですか?」
「はい。運搬と解体は、私がこの目で見ています」
「そう……ですか……」
ディードがアステルの瞳を見つめた。
そして、アステルの両手を掴む。
「アステルさん! 凄いです!」
「え? あ、ありがとうございます」
「アステルさん! 騎士団に入りませんか?」
「え⁉︎ き、騎士ですか?」
「はい! アステルさんなら、間違いなく最高の騎士になります!」
「え? で、でも自分は冒険者ですので」
「騎士の中にも、冒険者カードを持っている人間はいます!」
ディードの当初の見立てでは、アステルは小隊の上位に食い込むと思っていた。
だが、まさか自分よりも速く、しかも運搬どころか解体まで終わらせるとは思わなかった。
アステルの突出した戦闘能力、判断力、体力、サバイバル能力は、ディードが目指す新時代の騎士の理想に限りなく近い。
自分が将来的に編成するつもりの部隊に、アステルをスカウトしたいと考えていた。
「俺はまだ冒険者になったばかりですし……」
「こう言っては失礼ですが、新人冒険者ではあまり報酬も高くないかと思います。アステルさんが騎士団に来れば、実力に見合う報酬をお支払いします」
「報酬ですか……。じ、実は俺、ランクが高いので報酬には満足しているんです」
満足どころか、現金で家を購入できるほどの収入があった。
「え? あ、あの失礼ですが、アステルさんのランクは?」
「Sランクです」
「S? Sランクなんてありましたっけ?」
「じ、実は……」
アステルは、自分のために新たに作られたランクであることを説明した。
「アステルさんのために作られた、Aランクを超えるSランク……」
ディードもドーレスも絶句するしかない。
まさか、気軽に誘った相手が、ギルドの歴史を変えるほどの冒険者だとは思わなかったからだ。
しばらくすると、小隊が続々と帰還した。
そして、狩猟した証拠をドーレスに見せると、すぐに獲物の回収へ向かう。
さすがは精鋭たちで、正午を過ぎた頃には全小隊が運搬を終えた。
ディードの獲物は、他の隊員の力を借りて運搬した。
いくらディードでも、アステルのように一人で運ぶことは不可能だ。
帰還後、騎士たちは獲物の解体を行う。
これも戦地での食料確保の訓練だ。
バーベキューを始める前に、結果の発表が行われた。
「優勝は! 冒険者のアステルさん!」
アステルの優勝に対し、隊員たちは驚愕どころの騒ぎではなかったのは言うまでもない。
だが、ディードが心から祝福している姿を見て、隊員たちも素直に祝福した。
なお、一位の賞品は王都の高級レストランの招待券だ。
二十万ルト分の食事ができる。
高額だが、小隊十人分と考えれば妥当だろう。
とはいえ、ディードが毎回優勝するため、好成績を残した小隊にプレゼントしていた。
アステルは賞品の内容を知って、ディードに辞退を告げた。
それにバーベキューで肉を堪能し、初めて騎士と交流したことで大満足だった。
そして、日没前までバーベキューは行われた。
「いやー、楽しかったなあ。騎士のみなさんは気さくだし、土産までいただいたし。また次回も参加したいなんてな。はは」
アステルは、土産の肉を近所の人に配ろうと考えていた。
「あ、そういえば、罰って何だったんだろう? 俺が一位を取ってしまったから、ディードさんもやると言っていたな。悪いことしたかな……」
少し心配になりながら、アステルは自宅に帰った。
***
キャンプ場の片付けを終えた騎士たちは、日が沈んだ森を駆け抜ける。
全員リュックを背負っているが、狩猟祭の時よりも倍の重りが入っていた。
「な、なぜ私も……。はあ、はあ」
ドーレス含め、全隊員が罰として深夜の森を往復する。
「ドーレスさん。私、アステルさんを絶対にスカウトします」
「そ、そう……ですか。はあ、はあ」
なんとかディードについていくドーレス。
副隊長としての意地だ。
ディードは嬉しそうな表情で、全員を見渡した。
「みなさん! 一位以外は罰がありますからね!」
「罰の罰って何ですか!」
全員が同時に突っ込んだ。
もちろん、ディードは断トツで帰還した。
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